今は「何も欠けちゃいけない状態」なんですよね
──ラブソングといえば、「この世界に二人だけ」もそうですよね?
そうですね。でも「この世界に二人だけ」って言ってるけど、結局1人の曲なんです。それは「愛してる、なんてね。」も同じ。
──1人、というのは?
誰かを求めてるんだけど、結局それってただのひとりよがりなんですよ。恋愛の曲じゃないけど「YOU&愛Heaven」もそう。内容はそれぞれ違うのに、どれも1人を歌ってる。
──「YOU&愛Heaven」はもともと、2023年夏に「心が終わりそうだったので一曲作った」という言葉を添えてXに弾き語り動画をポストした曲ですけど、当時何があって「心が終わりそう」だったんでしょうか?
単純にめちゃくちゃメンタルがやられてた。ずっとこのまま進んで行ったら壊れちゃうなって。いつのまにか自分がすごく有名になって、渋谷の街頭に自分の写真が一面に貼られてるのを見て怖くなったり。すごく疲れてたから、歌詞で連呼してるみたいに「全部壊しちゃえば」って本当に思ってた。同時に、それこそさっき話したみたいな使命感に駆られ始めた時期でもあって、とにかくそういう感情が全部入っている曲。でも、そんな環境じゃないとこの曲は生まれなかったので、今となっては当時のことは何もマイナスじゃなかったです。
──曲にしたことで苦しみが少し和らいだんですかね。曲を作ることが癒しになっていた、というか。
そうですね。もしかしたら僕は、こんなふうにいろんなことをしていなかったら、曲を作っていなかったんじゃないかな?って気がするんです。「YOU&愛Heaven」に限らず、もっとゆるやかに生きていたら、絶対にできてない曲ばっかだから。自分が音楽を作ることで、普段から自分らしくいられる。自分自身の音楽にすごく救われている。だから今は「何も欠けちゃいけない状態」なんですよね。音楽を作るのをやめたらヤバいし、音楽以外の仕事をやめても、生まれる曲が全然変わっちゃって、それはそれでヤバいかもしれない。
──今回のアルバムは、その絶妙なバランスがあったから完成したのかもしれませんね。ちなみに前作「猫猫吐吐」は“かわいらしさ”と“汚らしさ”という両極端な言葉で二面性を表現しているのかなと解釈していたんですけど、今回のアルバムタイトルも「BONE BORN BOMB」、つまり「骨、生まれる、爆弾」で、こちらも生と死の二面性をイメージしているんじゃないかと思って。どうでしょう?
まあ「キャッチーで言いやすいから」っていうのが一番の理由なんですけど、前から「自分の顔とか体とかがなくなったらどうなる?」ってことを考えてたんです。例えば、爆発して死んで骨だけになったときに、その姿だけで「僕は僕です」ってわかるような生き方をしたいなと思ってて。顔も体ももちろん大事だけど、もっともっと芯の部分、つまり骨って、変えようと思っても変えられない。自分はそういう本質を大事にした生き方をしていきたいなって。
特別なことしなくても、僕が武道館に立つだけで特別な場所になる
──アルバムのSUPER BOMB BOX盤と初回生産限定盤のBlu-rayには、1月にNHKホールで行われたワンマンライブ「スーパーニャンオェちゃん発表会」の映像が収録されます。このライブもそうなんですが、これまでもバンドメンバーを務めていたTAKU INOUEさんと西浦謙助さんに加えて、最近のライブには真部脩一さんと永山ひろなおさんも参加していて。それによって明らかにライブに躍動感が増しているように感じるんです。バンドっぽさが増したというか。やっていて手応えはありますか?
ありますね。ライブの回数を重ねて、いろんなイベントに出たりするうちに、メンバーも「もっとこういう音の厚みを出さない?」みたいなことを話し合うようになって、バンドとしてすごくいい方向に向かってる気がします。「吸収できるものは全部吸収しよう」って、僕も一緒にみんなで、対バン相手のステージをリハから観たりして。真部さんって、のほほんとしてるけどすごくパンクな衝動のある人で。それがステージングにも表れてる気がします。
──ソロアーティストとしてフロントに立ってバックにバンドメンバーがいるのと、I'sのように自分もバンドメンバーでいるのは、全然違いますか?
ソロだと僕のことを尊重してくれつつ、みんなでバンドアレンジをリハで変えていったり試しているから、僕も意見が言いやすいしバンドメンバーの意見も納得しながら作っているので今のところはいざこざがないです。
──ライブへの手応えを感じているそんな状況の中、9月に日本武道館でのワンマンライブが決まりました。「ついにたどり着いた」という感慨みたいなものはありますか?
「絶対に武道館のステージに立ちたい」って思ったことはないんですけど、「もう立ってもいいかな」という気持ちになれたことに対しての感慨深さはある。ずっと疑問だったんですよ。「なんでこの人たちが?」って人も武道館に立っていて。別に武道館を特別視してるわけじゃないけど、じゃあみんなが言うほどすごい場所じゃないじゃんって思ってました。箔をつけるため? 何それ、みたいな。自分はもっとちゃんと、誰に聞いても「あのちゃん知ってる」という自分になってなきゃ嫌だったし、アーティストとして胸を張れるようになってから立ちたいという気持ちがあって。もしかしたらもっと前にできたのかもしれないんですけど、そういうところが変に真面目で……。
──むしろ今は「武道館じゃないと収まりきらないくらい、あのさんのライブを観たい人が多い」という状況だと思いますよ。今あのさんが言っていたような、背伸びしてやっと武道館に立つのとは違って。そしてそれだけの数、あのさんの歌に救われてる人がいるってことなんじゃないかなと。
それはうれしいです。
──武道館で、何かやってみたいことはありますか?
自分としてはただ歌えればいいんですけどね。でも武道館って、たぶん何もしなくても“特別なもの”になるんだろうなって。紅白に出たときも感じたんですけど、「そこに僕がいること」にすごく意味が出てくるんです。……どんだけ自分に自信あるんだって感じなんですけど(笑)。意味なんてそもそもいらないと思ってるんですけど、あんなに地下に潜ってたどうしようもない人間が、あらゆる大人たちから拒否られてきた自分がその場にいる、というのはすごく意味があったなと思う。だから武道館だけでなく、その先のいろんなステージもそうだけど、特別なことしなくても、僕が立つだけでその場所が特別な場所になると思います。
──それ、めっちゃカッコいいですね……。
……と思ってるから、「何がしたい?」というのが全然なくて、みんな困っています(笑)。演出とか考えなきゃいけないんだけど。武道館って形が特殊だから、そういうの生かせたら面白いかな。
──武道館に行くのを楽しみにしているファンの皆さんに、何かメッセージはありますか?
なんだろ……目が悪い人は、もしかしたら双眼鏡が必要かもしれないから、お忘れなく……っていう感じですかね?(笑)
公演情報
ano「BONE BORN BOMB TOUR」
- 2025年6月19日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2025年6月20日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2025年7月4日(金)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
ano 武道館公演(タイトル未定)
2025年9月3日(水)東京都 日本武道館
プロフィール
ano(アノ)
2020年9月に「ano」名義でソロアーティストとしての音楽活動を開始し、「デリート」「Peek a boo」といった配信シングルをリリースした。2022年4月にNetflixアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマ「AIDA」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビュー。2022年11月にはアニメ「チェンソーマン」第7話エンディングテーマ「ちゅ、多様性。」が大きな話題になった。アーティスト活動の傍ら、映画やドラマ、バラエティ番組などさまざまなフィールドでマルチに活躍。2021年から2024年にかけて、4人組バンド・I'sのボーカル&ギターとしても活動していた。2024年公開のアニメ映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」で声優に初挑戦し、主題歌「絶絶絶絶対聖域(ano feat. 幾田りら)」もヒットを記録。2025年6月に2ndアルバム「BONE BORN BOMB」をリリースした。