何度目かわからない集大成
──アレンジ面においても「叫べ」は琴や尺八のような和楽器の音色が効いていますね。他方でシタールが鳴っていたり、歌詞にドイツ語のパートがあったりと、無国籍感もすごい。
KATSU 冒頭で「NO WHERE」と言ってるし。まあ、シタールはアニメ第1期のイメージソング「fly me to the sky」(2004年5月発売の4thシングル)から使っていて。これも何度目かわからないんですけど、「叫べ」はこれまで作ってきた「ファフナー」楽曲の集大成的な……。
atsuko 何度目かわからない集大成(笑)。
KATSU 曲中にドイツ語が登場するのも「蒼穹のファフナー」の原点というか。「ファフナー」の語源は北欧神話のファフニールであり、機体の名前もアイン、ツヴァイ、ドライとか、ザインとニヒトとかドイツ語のものが多いんです。だからどこかでドイツ語を使いたいと10年ぐらい前から思っていて。3年ぐらい前にangelaがドイツのイベントに呼ばれたときに、やっぱりドイツでも「ファフナー」人気はすごかったし、主題歌にもドイツとの親和性があってもいいのかなと。
atsuko だからKATSUさんが「ドイツ語を入れよう」と言い出したんですよ。ちょうど、そのドイツのイベントで仲良くなった通訳の方が今もドイツにいらっしゃるので、その方とKATSUさんで「これをドイツ語で言うとどうなりますか?」みたいなやり取りをしてくれて。
KATSU このドイツ語の部分だけangelaのスタジオで録っていて、録り終わったら逐一通訳さんにチェックに出して「ここはすごく聞き取りやすいです」「でもこっちは何を言っているのかわかりません」みたいに指導していただいていたんです。ときにはご自分でボイスレコーダーで録ったドイツ語をお手本として送ってくださったこともあって。
atsuko そうやって確認はできても、やっぱりドイツ語がわからない私は不安なわけですよ。でも、ラジオで「叫べ」を流した翌週に、大学でドイツ語を専攻していたというリスナーの方から「歌詞にドイツ語があったので訳してみました」というお便りをいただいて。まだ歌詞は公開していなかったので、その方は耳で聞いて訳してくださったんですけど、だいたい合ってたんです。そこでようやく安心しました(笑)。
KATSU まあ、そこは心配になるよね。
atsuko それ以外の作詞に関しては、さっきKATSUさんが言った通り、能戸監督がより激しいものを求めていらっしゃったので、歌詞にも何かわかりやすい激しさが欲しいと思い、サビで「叫べ」とか「唸れ」とか、2文字・3音の命令形の言葉を重ねました。あと細かいことを言うと、冒頭の「NO WHERE」「NOW HERE」は、それぞれ昔出た「ファフナー」のドラマCDのタイトルだったんですけど(「FAFNER in the azure-NO WHERE-」と「FAFNER in the azure-NOW HERE-」)、最初は「NOW HERE」「NO WHERE」の順に並べていたんです。そこでふと「発売日は『NO WHERE』が先だったかな」と。
──本当に細かいですね。
atsuko だから中西(豪)プロデューサーに連絡して「今、『NOW HERE』『NO WHERE』の順になってますけど、これ逆にしたほうがいいですか?」と聞いたら、中西さんが「すみません、僕は気付きませんでしたけど、きっとお客さんはそういうところに気付くので、発売順にしたほうがいいと思います」と。実際、「ファフナー」ファンの皆さんは歌詞をすごく深読みしてくださるので、私も「間違いがあっちゃいけない」みたいに慎重になります(笑)。
──今atsukoさんがおっしゃった「叫べ」のサビにおける2文字の言葉はどれも強く、最後の「島へ」でとどめを刺された感があります。
atsuko 「島へ」は、KATSUさんが「入れたい」って言い出したんだっけ?
KATSU 俺じゃないと思うよ。どの言葉もクセが強いなという印象はあったんだけど、たぶん最初はこんなにうまく並んではいなかったんだよね。
atsuko そうだっけ?
KATSU それで最後にatsukoが「契れ 島へ」を出してきたときに「この人は天才だ」と思ったの。このたった4文字で、「叫べ」は絶対に「ファフナー」にしか使えない曲になった。
atsuko よっぽどじゃないと使えないよね。例えば私が伊豆大島の出身だったりしたら別かもしれないけど。
KATSU そうでもなければ共感できないんだよね。だから、もしかしたら岡山の北木島出身の、千鳥の大悟さんとかには響くかもしれない(笑)。
masshoiくんがここにいる
──「THE BEYOND」のインタビューで、「ファフナー」楽曲を作るのは大変だけど、atsukoさんの声が「ファフナー」なのでレコーディングは意外と楽だとおっしゃっていました。「叫べ」もそうでした?
atsuko そうですね。「叫べ」も自分が歌いやすいラインの曲だと思います。
KATSU atsukoの歌を録り終えてから、その歌のノリに合わせて改めてアレンジを調節していくんですけど、その作業にしても「乙女のルート」のほうが20倍は大変でした。でも「叫べ」は、atsukoが素のまんま「わー!」って歌ったものを「わー!」ってやるだけなんで。
atsuko 言い方、雑すぎない?
──アレンジで言うと、僕は「叫べ」のツーバスにも“ファフみ”を感じまして。例えば「蒼穹」(2010年12月発売の17thシングル。映画「蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH」主題歌)や「DEAD OR ALIVE」(2015年11月発売の25thシングル。アニメ「蒼穹のファフナー EXODUS」オープニングテーマ)に通じるような。
atsuko でも、もともとKATSUさんはああいうドラム好きだよね。音楽的なルーツもそっちだし、わりとすぐツーバス入れたがる(笑)。
KATSU 僕はもともとドラマーになりたくて上京してきたので、発想がドラマーというか、すべてのアレンジの基本をリズムに置いていて。まあ東京にはうまいドラマーが多すぎて、1年ぐらいでドラムには見切りをつけたんですけどね。これは自分で叩くよりうまい人に叩いてもらったほうがいいなと。
──へええ。
KATSU 「叫べ」のドラムはmasshoi(2019年12月4日に死去したドラマーの山内“masshoi”優)くんが叩いているんですよ。だからmasshoiくんありきのドラムというか、アレンジしながら「masshoiくんだったらこのスピードでも涼しい顔で叩くんだろうな」と。「叫べ」は「乙女のルート」と一緒に、同じ日に2曲叩いてもらったんです。全然違う2曲なんですけど、それを難なく叩いてくれて、実際「叫べ」は3テイクも叩いてなくて、2テイク録って、2テイク目の一部分だけ叩き直してもらったら「あれ? できちゃった」みたいな。
atsuko 「叫べ」はすごく真面目に作った曲ではあるんですけど、大音量でこの曲を聴くと、なんか笑っちゃうんですよ。ドラムが圧倒的すぎて(笑)。
KATSU 昨年の8月にアニサマ(Animelo Summer Live)のリハで会って「この前のドラム、どっちもすげーよかったよ。またよろしくね」みたいな話をして。それが実現できなかったのが心残りといえばそうなんですけど、この「叫べ」を一緒に作れて、よかったよね。
atsuko うん。音源を聴くたびに「いる。masshoiくんがここにいる」みたいな。
KATSU 本当にすごいドラマーで、ミキシングのときもドラムだけやたら前に出てくるからずいぶん下げたんですよ。それでもあれだけ主張してくるっていう(笑)。
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angelaは、ファンになりづらい