a子「GENE」インタビュー|自分だけの“新しい音楽”を追い求めて (2/2)

一番聴かれてる曲を入れるのは大事

──「ベージュと桃色」のバックのギターはインパクトがあります。

工藤静香さんの「メタモルフォーゼ」にすごくハマって、ずっとリピってたんです。90年代にリリースされたアイドルの楽曲とか、高橋洋子さんの「残酷な天使のテーゼ」とか、急にハウスが入ってくる感じをやりたくて、「ベージュと桃色」はDメロで急にハウスが始まる構成にしました。ギターも当時のロックサウンドを意識しているんです。

──初めてのアルバムが「good morning」というタイトルの曲から始まるのもいいですよね。

確かに! 何も考えてなかったですけど(笑)。のんびりと美しい感じで始まろうと。

──その後は「惑星」「あたしの全部を愛せない」と、ファンにはおなじみの曲が続きます。

最初は「あたしの全部を愛せない」は入れる予定はなったんですよ。でもギターの白川詢くんと話しているときに、「今回のアルバムって『あた全』は入れないの? 一番聴かれてる曲なんだから入れなよ」と言われて。

a子

──過去のEPから「racy」と「samurai」は入れるつもりだったけれど、「あた全」は外していたんですね。

「racy」と「samurai」は自分が気に入ってたし、個性も強いと思ってたんですけど、「あた全」は個性的というよりいろんな人に聴いてもらいたくて作った曲で。新曲にわりとそういうのが多かったから候補に入れてなかったんです。でも詢くんに「いやいや、一番聴かれてる曲をアルバムに入れるのってすごい大事だよ」と言われて納得しました。最初は「racy」を1曲目に持ってこようかとも思ってたんですけど、さわやかな始まりのほうがいいなって思って変えました。というか曲順はめちゃくちゃ悩みましたね。

──迷ったのはどのあたりですか?

「つまらん」ですね。このときMasegoの「Mystery Lady」という曲にハマっていて、その影響でキックもベースもR&Bっぽくなったんです。アルバムの中で1曲だけ毛色が違うから、どこに入れたら違和感なく聴けるのかちょっと……いや、けっこう悩みました。

a子の表現を支える理論派・中村エイジ

──僕は「愛はいつも」もすごくいいなと思いました。これは何かリファレンスというか、影響を受けたアーティストがいるんでしょうか。

HYUKOHです。私、韓国のインディーシーンのアーティストが大好きで。この曲を作ってる当時はHYUKOHにハマってたんです。それで、いつもはクールな曲を作りがちなんですけど、「愛はいつも」はあったかいサウンドを目指して作りました。

──なるほど。

「愛はいつも」は最初はJ-POPのつもりで作っていたんですが、途中でもっとインディーポップの要素を入れたくなって、最後にその要素を足しました。ただ、中村さんは納得いかなかったみたいで、制作が終わってからずっと後悔していたみたいです。

──中村さんはどのへんが納得できなかったんですかね。

「曲と楽器の音色が絶対に合わない」と言って、すごくいやがってましたけど「どうしても!」って押し切りました(笑)。

──クレジットに「編曲:中村エイジ」と記載されているので、最終的には納得してくれたんですね。

この曲の最後の仕上げには音作りの面で齊藤真純くんもかなり手伝ってくれて。中村さんも音色には不満げでしたが、それでも最終的には「もうa子の好きなようにやんな」って私を立ててくれました。

a子

──名コンビじゃないですか。

彼は音大でちゃんと勉強してるし、いろんな楽器の知識もあるので信頼してます。

──理論派の中村さんと、感覚派のa子さんと……。

本人は「理論は全然わかんない」と言ってますけどね(笑)。私は感覚派すぎるので、ちゃんと知識のある中村さんが一緒だと心強いです。

語尾を丸める歌い方はピッチが取りやすい?

──「GENE」は母音が巻き舌っぽい歌唱の曲が多くないですか?

去年の10月に「TAMATAMA FESTIVAL 2023」というイベントに出たときに、ライブの途中で「語尾を丸める歌い方にしたらピッチが取れるぞ」と気付いたんです。英語で歌う場合はピッチが取りやすいんですよ。日本語と英語では発音の仕方が全然違っていて、日本語で英語っぽい歌唱をするとなると、語尾を丸めたりすることにつながるのかな?って最近考えていました。でも友達に「変だよ」と言われたので、今後もやるかは検討中です(笑)。

a子

──語尾を丸めるとピッチが安定するというお話は初めて聞きました。

発音というか、息をするところが英語と同じになるんですよ。日本語はいちいち切らないと何を言ってるかわからなくなっちゃうから、発音がすごい難しいんです。英語は1本線がまとまってる感じがある。最近ライブでは「日本語で歌いながら、発音や発声をする部分を英語と一緒にする」ということを意識して歌うようにしてます。意識しすぎると歌詞が飛びますけど(笑)。

まずは日本で売れて海外へ

──韓国インディーがお好きだとおっしゃっていましたが、先日韓国でdosiiと競演されていましたよね。

もうヤバかったです。dosiiは「情緒」を作った頃に特によく聴いていて、めちゃくちゃリファレンスにしてたんで。

a子

──尊敬するバンドと一緒にやれたのはうれしかったでしょう。

まさかのツーマンで本当にうれしかったです。しかも、みんなで夜ごはんを一緒に食べたんですよ。dosiiの2人が私の前に座っていて、緊張したけど「エヴァ」(「新世紀エヴァンゲリオン」)の話をしたりして楽しかったですね。

──3月には「SXSW」への初参加もありましたね。このほかにもアジア圏の音楽フェスにもいくつか出演されていますが、海外進出も視野に入れているんですか?

まずは日本で売れたいという気持ちです。でも私の音楽が海外の人まで届いたらすごくうれしいし、ライブにもし呼んでくださるならぜひ行きたいです。

──YouTubeのコメント欄にいろんな言語が並んでいますし、海外のリスナーもa子さんに注目していると思います。

スタイリストのYuki Yoshidaがいつも「海外の人にもカッコいいと思ってもらえて、日本でも見たことないと思われるスタイリングにしたい」と言ってますから。ビジュアル面でもそういったことが伝わるとうれしいですね。

a子

a子の音楽が誰かの表現に“遺伝”したら

──最後に、アルバムタイトル「GENE」に込めた思いを教えていただけますか?

「GENE」は遺伝子という意味なんです。自分がいろんなアーティストの音楽から影響を受けて曲を作ってることを遺伝にたとえていて。これから先、a子の音楽を聴いた人たちが何かを感じ取って、今その人がやってることにつながって遺伝していったらいいなという思いを込めました。

──この夏はワンマンツアーもあるし、フェスもいろいろ出るし、忙しくなりそうですね。

そうですね。でも、私のレベルで「しんどい」とか言ったらダメだと思うんです。まずはa子にしか出せないサウンドを作ることを目標にがんばりたいです。

──その第一歩がこのアルバムですね。

はい。聴いた人にはその意気込みを感じていただけたらうれしい。アルバムのジャケットもすごいかわいいんですよ。Alien Wangさんという台湾のフォトグラファーの方に撮っていただいて、後ろのお花はMIKI YOSHIOKAさんにデザインしていただきました。楽曲もデザインもめちゃめちゃ詰めて作ったお気に入りのアルバムなので、ぜひ手にとってもらえたら。

「GENE」ジャケット

「GENE」ジャケット

公演情報

a子 Free Live "Good News Sessions"

2024年7月23日(火)東京都 クラブeX


a子 Live Tour 2024 "Umbilical Cord"

  • 2024年8月3日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2024年8月9日(金)東京都 LIQUIDROOM

プロフィール

a子(エーコ)

2020年に本格的にアーティスト活動を開始させたシンガーソングライター。情緒的な楽曲の数々はa子自身がプロデュースしながら制作しており、ミュージックビデオなども自身が率いるクリエイティブチーム・londogが手がけている。2020年9月に1st EP「潜在的MISTY」、2021年1月に2nd EP「ANTI BLUE」を自主レーベルからリリース。2023年1月放送のテレビ朝日系「関ジャム完全燃SHOW」では、「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」のコーナーで佐藤千亜紀より2022年8月発表の「太陽」が選出された。2023年6月に初のワンマンライブ「FEED MY BODY」を開催。12月には3rd EP「Steal your heart」を発表した。2024年7月にポニーキャニオン内のIRORI Recordsからメジャー1stフルアルバム「GENE」をリリースし、8月には東京と大阪でワンマンライブ「a子 Live Tour 2024 "Umbilical Cord"」を開催する。