Aimer「Torches」 PR

Aimer|みんなと一緒に“新しい夜”へ

Aimerが8月14日にニューシングル「Torches」をリリースした。

今作の表題曲はNHK総合で放送中のテレビアニメ「ヴィンランド・サガ」のエンディングテーマとして制作されたナンバー。Aimerの荘厳な歌声やトライバルなサウンドメイクが耳に残る壮大な楽曲だ。またシングルのカップリングにはアコースティックタッチの「Blind to you」、温かな歌詞が染みる「Daisy」、そして今年6月に行われた上海公演のライブ音源が収録される。

今回のシングルでは、近年テーマにしてこなかった“夜”を思い描きながら楽曲を制作したというAimer。なぜ、今、再び夜を歌うのか。その理由を明かしてもらった。

取材・文 / 須藤輝

今だから描ける新しい夜

──表題曲の「Torches」ですが、Aimerさんがここまであからさまに夜を歌うのって、かなりひさしぶりですよね?

本当にその通りで、今回はもうTwitterとかでも宣言しました。本来ならわざわざ触れなくてもいいことなのかもしれないけれど、これから新しい夜に向かうことをみんなにわかってもらったうえで、このシングルを受け取ってほしかったので。ずばり“新しい夜”をテーマに作りました。

──過去のインタビューでも「『DAWN』で迎えたのはあくまでも1つの夜明けであって、また別の夜を歌うこともできる」とおっしゃっていましたね(参照:Aimer「BEST SELECTION "blanc"」「BEST SELECTION "noir"」インタビュー)。

そうなんです。「DAWN」(2015年7月発売の3rdアルバム)の制作をしていた当時も「これからまた別の夜が訪れることもあるかもしれない」と考えてはいたんですけど、それが現実になった今、感慨深いものがあります。

──当然のことながら、「daydream」(2016年9月発売の4thアルバム)や“太陽と雨”のアルバム(2019年4月発売の5thアルバム「Sun Dance」「Penny Rain」)を経た今のAimerさんが歌う“夜の歌”でもある。

はい。「昔は夜にいたから、またそこに戻るの?」という声もあるけれど、私の中ではずっと原点=夜というものを大事に抱えたままここまで歩いてきたと思っているんです。つまり、どんどん行動範囲を広げていったら光のある場所にも行けたし、その延長でまた違った夜に行き着いたという感覚なんですね。それでいて、光の中でみんなと出会えて、自分は1人じゃないということがわかった今、表現する夜は……正直、自分でも「どういう夜になるんだろう?」という気持ちもあったんです。でもだからこそ、夜の定義みたいなものは決めずに「今だから描ける夜を」とだけ考えました。

──「Penny Rain」リリース時のインタビューでAimerさんは「アルバムを作って今はすごく満足感があるけど、その先をまた考えていかないといけない」としつつ「この先どういうふうに進んでいくのか」はわからないとおっしゃっていました(参照:Aimer「Penny Rain」インタビュー)。

はい。

──そこへ来て今回の「Torches」という曲名はとても象徴的ですね。

確かに。「Torches」とはたいまつのことなんですけど、そういう発想を与えてくれたのは、タイアップ作品である「ヴィンランド・サガ」なんです。原作を拝読して、夜の海に映る火の光やたいまつの炎そのものといったものがすごく印象的だったし、それが今の自分ともシンクロしているというか。新しい夜へ向かうにあたって、ある種のシンボルとして「Torches」をタイトルに掲げるというのがすごくしっくりきたんです。

北ヨーロッパの景色が見えるサウンド

──「ヴィンランド・サガ」はアイスランドが舞台の1つになっているというのも、Aimerさんとしては親近感を覚えるポイントなのでは?

テレビアニメ「ヴィンランド・サガ」キービジュアル ©幸村誠・講談社 / ヴィンランド・サガ製作委員会

とてもうれしかったですね。もう、主人公の出身地がアイスランドというところからシンパシーを感じたし、私自身、アイスランドには何回も行っていて、大好きな場所であり、どこかつながりを感じている場所でもあったんです。そんなアイスランドとまた作品を通して結ばれるというのは不思議なご縁だなと。

──他方で、荒々しい描写も多い作品でもありますよね。

中世ヨーロッパのバイキングをモチーフにした作品ということもあって、例えば「花の唄」(2017年10月発売の13thシングル「ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.」収録曲)や「I beg you」(2019年1月発売の16thシングル「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」収録曲)」は女性性を打ち出した歌だったけれど、「Torches」はどちらかといえば男性的というか。海に例えるなら、穏やかな、母なる海というよりはもっと猛々しい、あるいは見つめていたら飲み込まれてしまうかもしれないような、激しさを伴った海を意識しながら作っていきました。

──「Torches」は、今例示された「I beg you」とは違う種類のエスニックなサウンドも特徴的ですね。

最初にプロデューサーの玉井(健二)さんと話したのは、中世の、アイスランドを含む北ヨーロッパの広大な景色が見えてくるようなサウンドを目指そうと。なおかつ、そういう地域に息づいている人々の民族性みたいなものも音で表現できたらいいなと思って、まずコーラスをたくさん入れたんですよ。そのコーラスは、私が実際にアイスランドに行ったときに感じた、現地の人たちがしゃべってる言葉のフロウ感や声の形といったものからインスパイアされたものなんです。

──何か儀式的な雰囲気も感じさせるコーラスですよね。

そう、口の中で遊んでいるというか。メロディラインも独特だし、そういうコーラスには今まで挑戦したことなかったので、サウンド的にも新しい、神秘性を持った曲にできたと思っています。

何も変わらないまま進んできたのに

──「Torches」は歌詞にも先ほどおっしゃった猛々しさ、激しさを感じます。

私は去年の10月から今年の1月にかけて全国ツアー(「Aimer Hall Tour 18/19 "soleil et pluie"」)を回っていたんですけど、ちょうどツアーの始まりぐらいに「ヴィンランド・サガ」のお話をいただいて、ツアーの終わりぐらいにレコーディングしたんですね。このツアーでは、例えば初日にステージで声が出なくなってしまったこともあったりして、全日程を通して私はみんなにすごく支えてもらったし、自分の弱さと強さというものにまた向き合えたんです。だから今、新しい夜を描くとしたら、こういう言い方はおこがましいかもしれないけれど、私がみんなを引き連れていくような夜がいいなと思って。1人ぼっちで静かに歌っていた昔の夜とは違う、「みんなと一緒に進んでいくんだ」という意思を込めました。

──それこそたいまつを持って先導するような。

うんうん、ホントにそういうイメージで。なおかつ自分自身のことも鼓舞したいという気持ちもありました。それこそ「daydream」から“太陽と雨”のアルバムにかけて、光の中でいろいろ振り切ったというか……昔はちょっと、陽の当たる場所を憎んでいたので(笑)。

──吸血鬼みたいですね(笑)。

ね(笑)。まあ、それはうらやましいという気持ちの裏返しだったのかもしれないですけど。でも今はそうじゃないし、太陽も表現できるようになった今だから、たいまつを掲げて、どんな夜になるかわからないけどみんなの先頭に立って歩いていかないといけないなって。

──個人的に「Cleave your way again」という歌詞の「again」にグッときたというか。そこには何度か挑戦した痕跡が見られます。

そこは「ヴィンランド・サガ」への意識も含めてるんですけど、私自身も何回も、それこそ活動の中で声が出なくなったりとか、ほかにもいろんな挫折があったので、今後もそういう苦難がきっと訪れるだろうし、1つひとつ乗り越えなきゃいけないですよね。今回の歌詞に関して言えば、「DAWN」で夜明けを迎えて以降、光の中である意味ポップな世界を自分の納得のいく形で表現できたし、だからこそまた新しい夜に進むことができたんです。でも同時に、その光の中での活動を指して「変わっちゃったね」とか「昔の自分を忘れちゃったんじゃない?」みたいな言われ方をすることも多くて。それに対して「そうじゃないのに」という思いを抱えてきていたんですよね。

──はい。

「決して過去の自分を捨てたわけじゃないし、何も変わらないままただ進んできただけなのに」って。それから、これはあくまで私個人のある意味で好意的な解釈なんですけど、今までファンでいてくださった方の「変わってしまったAimerには付いていけない」という気持ちの裏には、ある種の寂しさもあるのかなと思って。だから「そんなあなたとわたしの根っこはなんにも変らないのに」という気持ちも今回は強く持って、「最初からずっと、ただ音楽というものを大事に作っているし、これからもずっとそうです」という意思を伝えたかった。その分だけ、こういう表現は語弊があるかもしれないけれど、「Torches」は怒りに近いものを秘めた決意を歌った曲でもあります。