映画の内容がリフレインする言葉を選んだ「Black Bird」
菅野 「Black Bird」は、「累-かさね-」という映画の主題歌としても非常にうまく機能していますよね。
Aimer ホントですか?
菅野 はい。僕の劇伴は、中には激しい曲もありますが、どちらかと言うと静かめの音楽でサスペンス的な雰囲気を作る感じなんですよ。それを経て、エンドロールで爽快感のあるロックナンバーである「Black Bird」がかかると、お客さんはスカッとする。映画の本編で蓄積された、エンタテインメントとしてのいい意味での鬱憤みたいなものを最後にバーンと晴らしてくれるんですよね。
──先ほどAimerさんがおっしゃった「疾走感」や「サビの開けた感じ」が映画にフィットしている?
菅野 そういう構造になってるなっていう、僕の勝手な感想ですけど。
Aimer それは、すごくありがたい感想です。
菅野 小説で言えばどんな読後感を味わってほしいか、みたいな話ですよね。やっぱり主題歌1つで、お客さんがどんな気持ちを抱えて帰るのかがまったく変わってくると思うので。あと、「Black Bird」の歌詞には映画のメッセージも含まれていますし。
Aimer 歌詞は台本や原作を拝読して、映画を観終わったあとに本編の内容がリフレインするような、強い言葉を選んでいますね。
──例えば「愛されるような 誰かになりたかっただけ」「あなたの瞳なら 歪んだ世界の何もかもが どんなに奇麗だろう」といったフレーズは累の心情と重なりますね。
Aimer はい。私の歌詞としては比較的、言葉数と言うか情報量が多めなんですけど、こういうロックの曲の場合、日本語の歌詞を乗せるのが難しくて。要するに英語のほうがカッコよくハマるんですよね。
菅野 Aimerさんの歌い回しって、日本語なのにちょっと英語っぽいところがありますよね。それはもともとですか? あるいは研究してそうなったんですか?
Aimer もともと洋楽を、つまり英語の歌をよくコピーしていたこともあって、自然にそうなった感じですね。むしろ逆に、今こうしてCDとしてパッケージングして世に出すってなったときに、もっと言葉が伝わるように、ある意味、矯正した感じです。だから昔はもっと日本語に聞こえなかったかもしれない(笑)。
菅野 なるほど(笑)。
Aimer でも、日本語の歌詞だとどうしてもダサくなってしまいそうなときは、歌い回しでなんとかしているのは事実です。ホントにやり方次第で言葉の立ち方が変わってくると言うか、例えば細かい16分のリズムを感じながら言葉尻をちょっと洋楽っぽくするとうまくなじんだり。この「Black Bird」でもそうでしたし、キャリアの中で力強い曲たちを歌う機会が増えていく中で、その塩梅がだんだんわかるようになってきましたね。
劣等感や焦燥感がクリエイティブにつながっていく
──「累-かさね-」という作品は、美と醜、本物と偽物、優越感と劣等感のような対立する概念がテーマになっていると思われます。Aimerさんも、これまで正反対のものや相反するものを歌の中で表現されてきましたよね。
Aimer だからホントに、原作や台本を読んでも「共感しすぎてどうしよう?」っていうくらい共感したと言うか。「本当の美しさ、醜さってなんだろう?」「内面的な美しさや醜さは、果たして外見に由来するのだろうか?」みたいなことを考えずにはいられませんでした。
菅野 キスした相手と顔が入れ替わるっていうのは突飛な設定ですけど、なかなか深い作品ですよね。
Aimer 私自身、やっぱり生きていて、美しい何かをうらやんだりねたんだりする気持ちがときおり顔を出すので、そういう部分でもシンパシーを感じましたね。それは、私が女性だからなのかもしれないですけど。つまり普段からメイクをしたりして自分を美しく彩ろうとする分、どうしても他者と比べてしまう部分があるし。男性としてはどうですか?
菅野 ものすごい浅はかな発言になっちゃうかもしれないんですけど、僕みたいな非イケメンの男の人って「モテたい」と思ってバンドを始めたりするんですよ。そういう意味では、仮に僕がイケメンだったら、今ほど音楽に打ち込んでいなかったかもしれない。だって、イケメンは別にがんばらなくてもモテちゃうから。
Aimer がんばらなくてもモテる……。
菅野 一般的にね。でもそうじゃない人は、容姿で劣る部分を音楽なり仕事なり、何かで補填しようとする。要はコンプレックスをエネルギーに変えると言うか、そういう劣等感とか焦燥感みたいなものが、わりとクリエイティブにつながったりするところがある。フラれたときにいい歌詞が浮かぶみたいな。自分もそういうタイプかなって。
Aimer 確かにそうかもしれませんね。感情の振り幅の大きさによって、生まれるものも変わってくる気がします。累にしても、もともと醜い顔をしていたがゆえに、美しい顔でいるときに自分を取り巻く状況を当たり前に捉えられなかったりする。つまり、ずっと虐げられてきたのに、顔が変わっただけで急にちやほやされだして。それがいかに恵まれているかということに自覚的になれるからこそ、累はその美しさをより引き立たせるべく、自分自身をもっと磨いていきたいっていう気持ちが強くなるんだろうと思います。
次のページ »
美しいからといってすべてがうまくいくわけではない
- Aimer「Black Bird / Tiny Dancers / 思い出は奇麗で」
- 2018年9月5日発売 / SME Records
-
初回限定盤 [CD+DVD]
1620円 / SECL-2330~1 -
通常盤 [CD]
1350円 / SECL-2332
- 初回限定盤CD収録曲
-
- Black Bird
- Tiny Dancers
- 思い出は奇麗で
- 今日から思い出 Evergreen ver.
- Black Bird(Movie ver.)
- 通常盤CD収録曲
-
- Black Bird
- Tiny Dancers
- 思い出は奇麗で
- 今日から思い出 Evergreen ver.
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- 「Black Bird」MUSIC VIDEO(Movie ver.)
- 「Ref:rain」MUSIC VIDEO
- 菅野祐悟「映画『累-かさね-』オリジナル・サウンドトラック」
- 2018年9月5日発売 / SME Records
-
[CD]
2700円 / SECL-2333
- 収録曲
-
- 累の記憶
- 傷
- 自信と優越感
- 光の下へ
- 私は女優
- オーディション
- トレーニング
- 私の居場所
- まるでシンデレラ
- 嫉妬
- 顔を返して
- 支配
- 本当の君
- 恋敵
- 偽物
- 見えるものが、すべて
- ターリア病
- この顔がお前からすべて奪った
- 5ヶ月
- 奈落の底
- ユダヤの預言者ヨカナーン
- 伝説の女優
- 初めての快感
- サロメになる
- 幕開け
- サロメのダンス
- ヨカナーンの首をちょうだい
- 狂気の笑み
- 終わらせない
- お前の唇に、あたし、キスをした
- Aimer(エメ)
- 女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。以降、「夏雪ランデブー」「機動戦士ガンダムUC」といったアニメ作品のテーマソングを担当。2014年6月に2ndアルバム「Midnight Sun」と、澤野弘之とのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時発売し、同年9月には菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表した。2016年7月にONE OK ROCKのTaka(Vo)と凛として時雨のTK(Vo, G)が提供およびプロデュースした楽曲を収めた両A面シングル「insane dream / us」、8月にRADWIMPSの野田洋次郎(Vo, G)制作の「蝶々結び」を収めたシングルをリリース。9月にTaka、野田のほか、andropの内澤崇仁(Vo, G)、スキマスイッチが楽曲提供およびプロデュースをした新曲を含むアルバム「daydream」を発表し話題を集める。2017年5月にベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を同時リリース。8月に初の東京・日本武道館単独公演を行い、1万3000人を動員した。2018年2月にCocco提供の「眩いばかり」を含むニューシングル「Ref:rain / 眩いばかり」を、9月に映画「累-かさね-」の主題歌「Black Bird」を収録したシングルをリリース。
- 菅野祐悟(カンノユウゴ)
- 1977年生まれの作曲家。東京音楽大学作曲科卒。2004年フジテレビドラマ「ラストクリスマス」でドラマ劇伴デビューする。手がけた主な作品に、映画「祈りの幕が下りる時」「ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~」「亜人」「昼顔」「3月のライオン」「真夏の方程式」「SP 野望篇/革命篇」「容疑者Xの献身」、テレビドラマ「刑事ゆがみ」「東京タラレバ娘」「MOZU」「ガリレオ」「ホタルノヒカリ」「新参者」、アニメ「ニンジャバットマン」「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風/ダイヤモンドは砕けない/スターダストクルセイダース」「PSYCHO-PASS サイコパス」などがある。2009年公開の映画「アマルフィ 女神の報酬」で「第19回 日本映画批評家大賞」の「映画音楽アーティスト賞」と、「日本シアタースタッフ映画祭」で「音楽賞」を受賞。その後、NHK大河ドラマ第53作目の「軍師官兵衛」、連続テレビ小説第98作目の「半分、青い。」の音楽を担当する。現在は映画、テレビドラマ、アニメーションを中心にドキュメンタリー、ゲーム音楽などあらゆるメディアで幅広く活躍中。2018年9月に自身が音楽を手がけた映画「累-かさね-」のサウンドトラックアルバムをリリースした。