逢田梨香子|私のステージの幕開け

私の素顔に近い曲

──7曲目の「ME」は自分らしく生きていくという、等身大の思いがつづられた曲になっています。「ME」というタイトルが付いていますが、逢田さんから自分の思いに寄った曲を歌いたいと提案されたんですか?

いや、歌詞のコンセプトは作詞家のKanata Okajimaさんにお任せしたんです。それなのに不思議と自分のパーソナルな部分に歩み寄った曲になっているなと。

──てっきり自分の歌いたいことや気持ちをOkajimaさんにお伝えしたのかなと思うくらい、自然に逢田さんの歌がこの曲になじんでいるといいますか。

「ME」はいろんな部分を削ぎ落として残った自分というか、本当に私の素顔に近い曲だなと思います。あと、私的には勝手に「I will」(2019年6月発売のデビュー作「Principal」収録曲)の続きの曲のようなイメージも持っていて。「I will」も未来に向かって進んでいく歌でしたが、そこから一歩進んで、「ME」では自分の嫌な部分や弱い部分をひっくるめて自分だから「私らしい私が 見えてきたの」と、それも抱えて歩いていく曲だと思っています。

──この曲はナチュラルに歌われている印象を受けました。

「こう表現しよう」というよりは、自分の中から自然と出てくるものを大切にして歌いました。ナチュラルに歌ったほうが、聴いてくださっている方の心にもスッと言葉が入っていくんじゃないかなと思ったんですよね。

──「ME」のあとは、デビュー作の収録曲「FUTURE LINE」、そして大切な人への感謝が込められた新曲「Dearly」が続きます。温かくて優しい気持ちになれるような流れですね。

「Dearly」は普段大切な人に伝えられない感謝を、手紙につづりながら伝えているような曲のイメージです。リズム的にも歌いやすかったですね。

──歌うときにどういった感謝を込めましたか?

この曲はファンの方々や、普段お世話になっている人のことを考えながら歌いました。この曲を通して、感謝の気持ちが伝わればいいなと思っています。リスナーの方も、ぜひ大切な人を思い浮かべながら聴いていただきたいです。

逢田梨香子

ペンライトは星の光

──10曲目の「ステラノヒカリ」はサウンドも言葉もファンタジックな世界観になっていますね。タカオユキ(ex. みみめめMIMI)さんがユカ名義で書き下ろした曲です。

私のソロ曲では、一番かわいい曲かなと思います(笑)。これまでわかりやすくポップな曲は「FUTURE LINE」くらいだったと思うので。最初にデモを聴いたときから、ライブでみんな楽しんでくれそうな曲だなと思っていました。

──ときめきが詰まった曲になっていますね。「惹かれStella」という歌詞で「惹かれ」と「光れ」が言葉遊びになっているのも面白いです。

歌詞がオシャレですよね。ライブで盛り上がるような曲にしたいという思いがあったので、“今日しかない特別な1日”というイメージをユカさんにお伝えさせていただきました。この曲を通してみんなと特別な時間を共有したいなと。

──ファンの方々と過ごす空間を想像しながら作られた曲なんですね。

そうなんです。例えば「眠った瞳にドレスを纏って」「ルージュと勇気を纏って」といったフレーズは、特別なところに行くようなイメージで、「星の明かり」はペンライトの光をイメージしているような。みんなペンライトをそれぞれ好きな色にして、星に見立ててくれたら、きっと楽しい空間になるだろうなと。「ふたり過ごした溢れ出す時空を 今永遠に感じていたくて」というフレーズも、みんなとライブで過ごす楽しい時間がずっと続けばいいなと考えながら歌いました。

──この曲はかなりメロディが上下しますよね。難しい曲かと思ったのですが、軽々と歌っていらっしゃる印象を受けました。

いやあ、難しかったですね。息継ぎもあんまりできなくて。あと、かわいい曲なので、どうしても私もそのイメージにとらわれてかわいく歌おうとしちゃって、あざとい部分が出てきちゃったり(笑)。でも、なるべくほかの楽曲とのバランスを見て、逢田梨香子としてニュートラルに歌わなければいけなかったので。あんまりルンルン跳ねすぎず、いい塩梅を探すのが難しかったです。ライブではぜひみんなにも一緒に歌ってもらいたい曲です。

1つの壮大な映画みたい

──11曲目の「Tiered」はやなぎなぎさんによる提供曲です。逢田さんはもともとやなぎさんのファンだったんですよね?

声優を目指す前から、ずっとファンだったんです。特に歌詞の世界観が大好きで。あと、やなぎさんはご自身で作編曲もたくさん手がけていらっしゃるんですが、やなぎさんの曲って型にハマっていないんですよね。世の中で似たような曲を探せない。本当に唯一無二の独特のセンスというか、やなぎさんの色というのが存在するんです。そんなやなぎさんの世界観をアルバムの中に入れることができたら、もっとすごい作品になるんじゃないかなと思って、今回勇気を出してオファーさせていただきました。

──叶ったときの心境はどうでしたか?

「書いてもらえることになったよ」と聞いて、もう「はあー、本当ですか!?」みたいな(笑)。初めてデモを聴いたときは本当に感動して、涙が出てきちゃいました。

──それくらいあふれ出る気持ちが。

それはやなぎさんが書いてくれた曲だからというのもあるんですが、純粋に曲が本当によくて。やなぎさんが仮歌を入れてくださっていたんですけど、本当に温かい気持ちになって、自然と涙があふれてきたんです。

──繊細な言葉とメロディが美しいバラード曲になっていますね。

逢田梨香子

最初にワンコーラスのバージョンのものを聴いたときは、朝に鳥が鳴いていて、日差しがスッと入ってくるような、そんな温かさを感じました。でも、フルで聴くと、間奏、Dメロでまたガラッと違う感情を見せてくれるというか。1つの壮大な映画みたいな曲だと思います。

──「ティアードに潜ませてる微かな想い」「トレーンに引き摺られる名残の恋」といった独特の言い回しが素敵です。

私の好きな刺繍だったり手芸だったり、そういったものをテーマに書いてくださったんです。最初にやなぎさんが詞を書く前に、「逢田さんのパーソナルな部分を教えていただきたいです」と連絡をくださって。それで、好きな食べ物や行きたい場所をバーっと箇条書きにして、お渡しさせていただいたんです。そこから、男の子が近所の憧れのお姉さんにドレスを作るけれど、好きだという気持ちは伝えられないというストーリーを描いてくださいました。

──曲を受け取ったあと、やなぎさんとはやり取りされたんですか?

レコーディングでディレクションをしていただいて、そこで初めてしっかりとお話しました。「どうやって歌詞を書いているんですか?」とか、いろいろ気になることも質問しました。

──逢田さんの透明感のある歌声が、この曲の幻想的な雰囲気に見事にハマっていると思ったのですが、やなぎさんからはどういったディレクションを受けられたんですか?

「ここはこうやって歌って」といったご指示はほとんどなく、「思うように歌ってください」という感じでしたね。ただ、「その力強いところ、すごくいいのでそういった感じでお願いします」とか、コーラスに関して「主旋律の歌詞を邪魔しないように優しく歌ってください」といったディレクションはいただきました。

──終盤にこういった濃い曲が入って、アルバムの世界観がより広がった感じがしますね。

「Tiered」はどこに入れようか悩んだんですけど、終盤にまた新しい風を入れたいなと思って、最後から2曲目に置かせていただきました。それでラストに「ORDINARY LOVE」を聴いていただいて、スッと終われたら心地いいんじゃないかなと。

──デビュー作に収録されている「ORDINARY LOVE」はソロデビューするにあたって、最初に届いた曲なんですよね?

そうです。そして最初にレコーディングして、最初に皆さんの耳に届いた曲でもあります。

──始まりの歌で締めくくるという。

そこにもこだわりがありました。「ORDINARY LOVE」は最初に「はい、あなたの曲です」ともらった曲だから、やっぱり自分の中ですごく特別な思い入れがあるんです。曲をもらったときのワクワク感や、自分だけの曲といううれしさって、今でも覚えていて。あとは「Animelo Summer Live」に出演して初めてみんなの前で歌唱したり、初めてアニメのタイアップとしてエンディングで流していただいたり、この曲からもらったことがすごくたくさんあるんです。たぶんそういったこの曲への特別な気持ちって、ファンの皆さんも一緒なんじゃないかなって。これからいろんな曲がどんどん増えていくと思うんですけど、私はそういう最初に感じたことを忘れたくないし、皆さんにもアルバムの最後にそんな始まりを思い出してほしいなという思いで、この曲をラストに持ってきました。

予想を超えていくようなことを

──このあと、初めてのライブツアー「逢田梨香子 1st LIVE TOUR 2020『Curtain raise』」が開催されます。構成はもう決まっていらっしゃるんですか?

そうですね。私のライブに対する好みなんですけど、アルバムの通りには歌いたくないなという気持ちがあって、ライブならではの曲順になっているかと思います。個人的にライブを観に行って、意外なタイミングで予想していない曲がくると、「お!」ってテンションが上がるんですよね。そんな「次は何がくるんだろう?」みたいなワクワク感も楽しんでいただきたいです。

──「Mirror Mirror」を2曲目に持ってきたこともですが、逢田さんは意表をつかれる感じや、ワクワク感みたいなものを重視されているんですね。

確かに! 好きなのかもしれない(笑)。

──自分がファンの方々だったらどう思うんだろうというところを、大事にされているんだなと思いました。

予想通りってつまんないなと思っちゃうんです。これからもみんなの予想を超えていくようなことをしていきたいです。こう言うとハードルが上がっちゃいますけど(笑)。

逢田梨香子