フリと回収のお手本にしたい、「転スラ」作者・伏瀬が太鼓判押す「ダンジョンズ&ドラゴンズ」

“異世界ダンジョン”ものである「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」が、3月31日に全国で公開される。同作の舞台はさまざまな種族とモンスターが生息するフォーゴトン・レルム。盗賊のエドガンが戦士、魔法使い、自然の化身、聖騎士とパーティを組み、異世界を駆け巡るさまが描かれる。海外の映画レビューサイト・Rotten Tomatoesでは、3月28日時点で90%(オーディエンススコアは94%)という高評価になっている。

映画ナタリーでは、異世界ファンタジー「転生したらスライムだった件」の著者である伏瀬に作品を鑑賞してもらい、インタビューを実施した。コミカルな掛け合いが満載の本作を伏瀬は「フリと回収のお手本にしたい」と称賛。さらに魔法=万能ではないという視点から、「なんでもあり」と「なんでもありに見える」の違いについても語ってくれた。

取材・文 / 小澤康平

映画「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」とは?

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」日本版ポスタービジュアル

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」日本版ポスタービジュアル

世界初のRPGとして知られる「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を映像化したアクションファンタジー。さまざまな種族とモンスターが暮らす世界フォーゴトン・レルムを舞台に、盗賊のエドガンと相棒である戦士ホルガが魔法使い、自然の化身、聖騎士とパーティを組み、巨大な悪の陰謀に立ち向かっていくさまが描かれる。

「スター・トレック」シリーズのクリス・パイン、「ワイルド・スピード」シリーズのミシェル・ロドリゲス、「名探偵ピカチュウ」のジャスティス・スミス、「IT/イット」シリーズのソフィア・リリス、ドラマ「ブリジャートン家」のレゲ=ジャン・ペイジ、そしてヒュー・グラントが出演。日本語吹替版には武内駿輔、甲斐田裕子、木村昴、南沙良、中村悠一、逢田梨香子、森田順平、沢城みゆき、岩崎ひろし、神谷浩史、森川智之、津田健次郎、諏訪部順一と豪華メンバーが集結した。

中世ヨーロッパ風の世界で繰り広げられる冒険だけでなく、全編にわたるコミカルな掛け合いも見どころである本作。そんな映画のテイストに合わせて、日本版ポスタービジュアルはあえて“ダサさ”を意識したものになっている。

伏瀬インタビュー

フリと回収のお手本にしたい

──「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」では異世界が舞台になっています。そこで今回、異世界ファンタジー「転生したらスライムだった件」の著者である伏瀬さんに映画を観ていただきたいと思い、お声掛けしました。

ありがとうございます。正直映画には詳しくなくて、2011年公開の「コクリコ坂から」を観に行ってから、ものすごく間があいてその次に観に行ったのが去年の「シン・ウルトラマン」(笑)。なので専門的なことは語れないかもしれませんが、声を掛けていただきうれしかったです。

──今回の映画はいかがでしたか?

うれしいことに自分の好みのタイプの作品でした。肩肘張らずに観られると言うか、いい意味で全然意識が高くない。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのようなファンタジーもすごいとは思うんですけど、ああいう大人向けの作品よりも、この映画のように笑えるシーンがたっぷりで子供が観ても楽しめるものが好きですね。観客を絶対に楽しませようという意気込みを感じました。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。左からジャスティス・スミス演じる魔法使いのサイモン、ソフィア・リリス演じる自然の化身のドリック、クリス・パイン演じる盗賊のエドガン、ミシェル・ロドリゲス演じる戦士のホルガ。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。左からジャスティス・スミス演じる魔法使いのサイモン、ソフィア・リリス演じる自然の化身のドリック、クリス・パイン演じる盗賊のエドガン、ミシェル・ロドリゲス演じる戦士のホルガ。

──今作ではマーベルの「アベンジャーズ」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」などを手がけてきたジェレミー・ラッチャムがプロデューサーを務めていて、アクションファンタジーではありつつも、クスッと笑える場面を大事にしていると思います。

あ、そうなんだ! フリを投げっぱなしにしないで、きっちり回収して笑わせてくれるのがすごくよかったです。気持ちいいぐらい伏線回収がうまくいっていて、ある意味そこに強い意志を感じました。自分が大阪人だからかもしれませんが、振ってたのにそれが回収されないとムズムズするんですよ。「あそこ前フリあったやん!」っていう(笑)。「転スラ」のアニメのスタッフには「回収できないネタは入れないでほしい」と言っていますし、視聴者に対して「わかるだろ?」というスタンスではなく、しっかり伝わるように作りたい。ツッコミどころがあるのはいいんだけど、単にわかりづらいのはやめようという。この映画には「ん? どういうこと?」と思うシーンがないし、フリと回収という点でお手本にしたいくらいです。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

──そういう視点で、具体的にはどのシーンがよかったですか?

“脳みそ君”が出てくるところですね。「このモンスターは高い知性を持った人を襲う」という前フリがあって、そのあと主人公のエドガンたちはきっちりスルーされる。オチは予想できますし、ストーリーに必ずしも必要なシーンではないですけど、それがいいんです。僕はよく編集担当者から「この場面必要ありますか?」って言われるんですけど、笑いを取らないと気が済まないんですよね(笑)。

──シリアスな場面よりも笑いを取るシーンを書くほうがお好きだったりするんですか?

うん、シリアスなシーンは書いていても観ていてもだんだん疲れてくるから(笑)。あとはわかりやすさという点で言うと、聖騎士のゼンクがよかったです。主人公パーティに途中で加わって、困ったときに助けてくれるめちゃめちゃ強いキャラっていろんな作品に出てくるんですが、そういうところも裏切らないなあって。例えばそれでキャラクターに魅力がなかったらダメだと思うんですけど、ゼンクって超かっこいいじゃないですか。それにアメリカの大作映画ということで、きっちりお金と時間を掛けた戦闘シーンを見せてくれる。「聖騎士さんよお……イケてんなあ!」って感じでした。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。レゲ=ジャン・ペイジ演じる聖騎士のゼンク(右)。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。レゲ=ジャン・ペイジ演じる聖騎士のゼンク(右)。

「なんでもあり」と「なんでもありに見える」は違う

──異世界ものとしての出来はどうでしたか?

すごくいい出来だったと思います。自分が「転スラ」を書いているからわかるんですけど、異世界ものって用語を決めるのが難しいんです。読者や視聴者は聞いたことがない言葉が出てくると引っかかってしまうので、「なんか小難しいこと言ってるな」と流されないように気を付けています。僕が観たこの映画の吹替版では、用語がわかりやすいものになっていて、翻訳家の方がちゃんと練って決めたんだろうなというのが伝わってきました。あとは魔法使いのソフィーナが魅力的で、魔法の使い方もイメージ通り。「困ったら魔法頼り」っていうのが逆にいいんですよね。

──(笑)。「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」は、Netflixシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」にも登場するTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)がもとになっています。伏瀬さんはTRPGがお好きとのことですが、その視点からも魔法に違和感はなかったですか?

納得のいく作りになってました。ドラゴンを操るのも「魔法使いならやるよね」と思いましたし、理想の戦い方が押さえられている感じ。魔法使いが近接戦闘とかしてたらおかしいもんね(笑)。これは自分が作品を書くときにも意識していることなんですが、魔法って「使ってみたい」と思えるものじゃないとダメなんです。この映画にはそういう魅力にあふれた魔法がたくさん出てくる。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

──逆に伏瀬さん的にNGな魔法はあるんですか?

魔法ってなんでもありのように思われがちなんですが、万能なものではないんです。なんの説明や描写もなく「こういうものだから」と魔法を使われると、うーん……となってしまいます。この映画の中ではソフィーナが儀式魔法を使っていて、発動には多くの人を集める必要がありますが、そのための手順をちゃんと踏んでますよね。例えば、繁華街みたいなところに行って「はい、魔法」みたいなことをしたらなんでもありになってしまって、そうなったら面白い物語は作れないですよ。キャラクターが緻密に自分に有利になる状況を組み立てていて、魔法が万能に見えるように発動させているというのが醍醐味で、「なんでもあり」と「なんでもありに見える」は全然違う。後者は段階を踏んでいて、それが作品の面白さにもつながっていくと思うんです。ファンタジーなので荒唐無稽な理屈でもいいんですが、「こういう魔法なんだな」と納得できるものになっている必要はあります。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。デイジー・ヘッド演じる魔法使いのソフィーナ。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。デイジー・ヘッド演じる魔法使いのソフィーナ。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

──なるほど。

まあテキトーな話を書いてるやつが理屈を語るなよという自覚はあるんですけど(笑)。創作に関する発言はブーメランなところがあって、自分も「あんなこと言ってたのに『転スラ』でこうなってますよ」と言われ、「なってるねえ……」みたいなことが(笑)。でも、そのツッコミが新たな創作につながることもあります。