a flood of circle「伝説の夜を君と」佐々木亮介ソロインタビュー|金字塔を打ち立ててなお満たされないフロントマンの渇望

結成15周年を迎えたa flood of circleがニューアルバム「伝説の夜を君と」をリリースした。

新曲のみで構成された本作は、近年のa flood of circle作品としては珍しく、フロントマンである佐々木亮介(Vo, G)が全楽曲の作詞作曲を担当。バンドの「金字塔」と銘打たれている通り、彼がa flood of circleとして今表現したいことを突き詰めた、1曲1曲が強度を持つロックアルバムに仕上がっている。

提供曲のみで構成された華々しいアニバーサリーアルバム「GIFT ROCKS」を経て、佐々木はどのような思いを持ってアルバム制作に向き合ったのか。音楽ナタリーでは実に10年ぶりとなるソロインタビューで掘り下げる。

取材・文 / 中野明子撮影 / 山崎玲士

ロマンチスト佐々木亮介大肯定の「GIFT ROCKS」

──今年8月にリリースされた「GIFT ROCKS」のインタビューでフルアルバムを作っているという話をしていたとはいえ(参照:転がり続けて15年……5組のアーティスト仲間がa flood of circleを定義する)、リリースのペースとしてはなかなか早いですね。しかも全曲新曲という意欲作です。

レコード会社と年に1枚アルバムを出すという契約なので作った……というのは半分冗談ですけど(笑)、自分たちとしても毎年アルバムを出したいんですよ。コロナでなかなか難しいですけど、ライブもガンガンやったほうがいいと思っているし。休めば休むだけ、バンドとしてのキレが悪くなるから。コロナ禍であってもa flood of circleはいつでも動けるように臨戦態勢でいるべきだと考えていたし、常に研ぎ澄まされたものを見せないとやっている意味がないなと。

佐々木亮介

佐々木亮介

──「GIFT ROCKS」が今作の制作に与えた影響はありましたか?

ありました。「GIFT ROCKS」は「ロマンチスト佐々木亮介大肯定アルバム」だと思ってるんですよ。周りから「もっと恥ずかしい方向に行っていいんだぞ、お前は」と言われたというか。

──先輩や後輩たちに作ってもらったロマンチックで情熱的な曲を通して、表現者としての自分を肯定して、今まで以上に振り切れた。

そうですね。

──そのうえで、ニューアルバム「伝説の夜を君と」において、これまでのアルバムと比べて制作手法で変えた部分はありますか?

今回はメンバーとのセッションで制作を進めるのではなく、自分1人で曲を作ることに時間をかけたんです。12曲入りにする前提で、曲順も決めてからメンバーにデモを渡して。その12曲ができるまでは、自分との葛藤でしたね。並行して「GIFT ROCKS」のレコーディングを進める中で、よりロマンチストなほうに向かっていった感じ。自分をさらけだすことと、ロマンチストであることは相入れないと思っていたんですが、結局は一緒のことだったんですよね。そのことを「GIFT ROCKS」を作りながら気付きました。

──デモ音源を渡したときのメンバーの反応はどうでした?

うーん、「佐々木の意思を尊重しよう」という感じだったかな。例えば「CENTER OF THE EARTH」(2019年3月リリースの9thアルバム)はスタジオでメンバーとやり取りをしながら作ったんだけど、アレンジがなかなか決まらなくて。それこそ、この曲がいいか悪いかみたいなことから話していたから、完成したのが締め切りギリギリだったんです。で、「2020」(2020年10月リリースの10thアルバム)の制作では事前にたくさんデモを作ってみたんだけど、今度は多すぎてどの曲をレコーディングするか決まらなくてこれも結局ギリギリになった。それで今回は、俺が全曲用意してからレコーディングしてみようと事前にメンバーに話してたんです。それにみんな納得してくれていました。

──それは、ほかのメンバーがフロントマンとしての佐々木さんを信頼していたからこその反応でしょうね。

そうかもしれない。

佐々木亮介

佐々木亮介

剥き出しの佐々木亮介から漏れた「白状」

──ちなみにアルバムに収録されているのは13曲ですよね。追加で作った1曲というのはどの曲なんですか?

「白状」です。これがなかったら、もうちょっと軽い印象のアルバムになったと思うんですけど、入れちゃったんですよね。

──なんで追加することに?

ほかの12曲ができたあと、スタッフと話してるうちに「これじゃアルバムとして軽すぎるんじゃないか」「もっと剥き出しの佐々木亮介を出したほうがいい」という話になって。俺としては今回はあえて軽い作品にしようと思ってたんですが、意見があるなら聞くというスタンスなので、それに応えた感じです。

──この曲によってアルバムの印象がガラリと変わるくらいのインパクトがありますよね。歌詞にあまりメタファーが使われていなくて、a flood of circleやご自身の過去を踏まえた佐々木さんの本音がダダ漏れている。

あまり詩的な歌詞ではないかもしれない。でも、この曲が生まれたのはa flood of circleがバンドでありチームだからだと思うんです。ほかの12曲ができたときに、アルバムとして「足りないa flood of circle」「足りない佐々木亮介」について考えた結果たどり着いたというか。

──足りない部分というのは具体的に言うと?

a flood of circleはベースもドラムもギターもそれぞれバンドの武器ではあるんですが、俺が自分で曲を書いて歌っているからなのか、ジャンルは“ボーカルロック”なんじゃないかと思ってるんですよ。歌のミックスもデカいし。例えばアデルの新譜はボーカルアルバムだから歌がデカイんだろうし、Red Hot Chili Peppersの曲でドラムの音が大きいのはファンクロックでリズムに乗れるようだからだろうし。今、俺はライブで歌を届けようとがんばっていることもあって、歌をガンと前に出すときに、自分の本音が入っていたら強いのかなと思ったんです。詩的な歌詞の曲が並んでいる中に「白状」のような曲があることで、ライブでの歌が面白く聞こえるかもしれないなと。それでオブラートに包まずに歌詞を書いたところがあります。

佐々木亮介

佐々木亮介

──自分の歌を打ち出すために本音を書いたと。ただ、佐々木さん個人の思いとはいえ「遠回りでいい 壊れてもいい 意味がなくていい 答えもなくていい」といった言葉には救われる気がしました。また曲の中で「これが生きる理由だ そんな無邪気な歌で たったそれだけで どこまでも行けると思っていた」と歌ってますが、佐々木さんにとって歌うことが存在意義なんだろうなとも思いました。

存在意義というほど立派なものでもないかなあ……歌うことは好きですけどね。

──ご自身のボーカリストとしての評価はどうですか?

年々よくなってる気がしてて。100点の自信があるという意味ではなく、前よりよくなっている自信があります。いい歌を歌うために、最近喉のケアとかを一切やめたんですよ。温めたり、いい飴を舐めたり、そういうことをやめたらすごく声がよくなった。

──普通はケアすることでよくなる気がするんですが、佐々木さんの場合は逆だった?

俺の場合、何かのせいにしてたんだと思うんですよ。自信がないときほど余計にケアしちゃうというか。これをやってないからダメなんだとか。むしろ酒飲んで歌ってるほうが全然調子がいい。まあ、コロナ対策で手洗いうがいをしっかりして、打ち上げもないから朝まで飲みすぎてないからかもしれないですけど。

──(笑)。歌に注力しているとのことですが、佐々木さんが目標とするボーカリストはいるんですか?

いないかな。ダニエル・シーザーやフランク・オーシャンみたいにまったく違うタイプに憧れるところはありますけど、そこを目指すのも違うし、あきらめも含めて俺はこれでいいのかなと。自分としては、佐々木亮介は相当いいボーカリストなんじゃないかと思ってますけどね。もちろんもっとよくできるとは思ってるので、その1つとして喉のケアをしすぎないようにしたんです。

──そのよくできる部分というのは?

歌のリズムですね。いいラッパーってちょっと歌が遅いんですよ。聴いていて気持ちもいいし言葉も入ってくる。俺は早口になっちゃうので、もっと遅く歌いたくて。遅く歌えるくらい余裕があれば、自分も気持ちいいし、聴いている人に届いている実感が湧くと思うんです。アデルの曲とか聴いてると「遅っ!」と思うんですけど、それがまた存在感があっていいんです。

佐々木亮介

佐々木亮介

“少年時代の自分”がいる

──話をアルバムに戻しまして、今作でこれまでにない挑戦をした曲は?

「Welcome to Wonderland」という曲で、松井泉さんを迎えてa flood of circleの曲では初めてパーカッションを入れたんです。Wolfmotherというオーストラリアのハードロックバンドがいるんですけど、彼らの曲にブルースロックっぽいリフの曲(2006年にリリースされた「Love Train」)があって。イントロがパーカッションで始まってるんですが、その曲がクラブで流行ったんですよ。ハードロックバンドの曲がクラブカルチャーで受け入れられるパワーがあるんだと思ったことを思い出して、それに憧れて取り入れました。あと「狂乱天国」にはThe HivesやThe Vinesといった、自分が二十歳になるかならないかの頃に一番熱かったロックンロールリバイバルの音楽をひさしぶりに聴いた影響が出てますね。The Vines好きな人が聴いたらすぐバレると思う(笑)。

──自分の好きな音楽をてらいなく反映したと。

今回のアルバムは「a flood of circleの金字塔」をテーマにしているんですが、それを踏まえて制作を進めているときに自分のルーツをもう1回探ってみたんです。初期のa flood of circleはロックンロールリバイバルの影響が強かったんですが、音楽的に成長しなきゃと思ってしばらくそこを避けていた時期もあったんです。でも、やっぱり自分のルーツはここだなと正直に認めて。2000年代後半に自分が好きだったアーティストを改めて聴くようになって、その影響を素直に出しているというか。「白状」の歌詞に「いつかの少年」という言葉が出てくるんですが、アルバムの随所に“少年時代の自分”がいる気がします。

佐々木亮介

佐々木亮介

──自分のルーツや好きなものに回帰したんですね。

そう。10年くらい前に好きだった音を今やってる感じがある(笑)。コロナ禍によって音楽が“バック・トゥ・ベーシックス”をしているというか。アデルの最新作は70年代のフォークソングみたいな曲の書き方をしているし、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークのユニット・Silk Sonicの曲は80'sの音だし。新しい音を見つけにくい時代の中で、アーティストたちが過去にヒントを探しに行っているのかなと。強引にこじつけると、今の自分もa flood of circleをやるうえでも意図せずそうなってるんです。自分たちの武器を見直して、もともと好きだったことを突き詰めるモードでした。

──ただ当然のことながら個々の演奏技術は上がっているわけですし、昔と同じことをしているわけではない。

そうですね。アルバムの1曲目(「伝説の夜を君と」)と2曲目(「北極星のメロディー」)の両方をメジャーキーのサウンドにするとか、アルバムを日本語タイトルにするとか……これまであえて遠ざけていたことをやってみることで新鮮さがあればいいんじゃないかと思ったんです。そのうえで「CENTER OF THE EARTH」から今作までの、3枚のアルバムを通してa flood of circleの集大成を目指しました。