a flood of circleが新作ミニアルバム「HEART」をリリースした。
アオキテツ(G)加入後、バンドとしてますます脂が乗ってきている印象のフラッド。メジャーデビュー10周年を経て届けられた新作には、メンバーそれぞれが作曲したナンバーに加え、佐々木亮介(Vo, G)が作詞を、アオキ、HISAYO(B)、渡邊一丘(Dr)の3人が作曲を手がけた「Stray Dogsのテーマ」の計5曲が収められている。
新たな試みが詰まったミニアルバムを、メンバーはどのような思いで完成させたのか。各楽曲の解説を交えながら掘り下げていく。
取材・文 / 中野明子 撮影 / 後藤倫人
面白さ半分、不安半分の企画盤
──今回はなぜ全員が作曲した作品を出すことになったんですか?
佐々木亮介(Vo, G) もともと今年の年末から年明けにかけてツアーを開催することが決まってたんです。それでツアーの前にリリースがあったほうがライブが盛り上がるし、作るかと。
──なるほど。
佐々木 3月にリリースした「CENTER OF THE EARTH」はいいアルバムになったけど、2カ月ぐらいで作った作品だったんですね。夏休みの宿題を8月31日に一気にやったような制作だったので、次はプランを立ててじっくり作ろうという話をディレクターとしたんです。で、どうせやるなら面白いことがいいかなと。普段、フラッドで作品を作るときはコンセプトは決めないんですけど、今回は時間があったのでテーマを設けてみようと思ったんです。テツが入って初めてのツアーが終わったばかりの頃で、バンドもいいモードだったし、それぞれのキャラクターも出てきたので全員で曲を書くこともできそうだなと。
──佐々木さんから提案されたときはどう思いましたか?
アオキテツ(G) こういう機会がなければ、俺がフラッドで曲を作ることはないだろうから、物は試しでやってみようと思いました。
渡邊一丘(Dr) うん。姐さん(HISAYO)とテツが作曲するというのはすごい面白いなと。だから俺もがんばろうと思いました(笑)。
HISAYO(B) 企画としては面白いと思ったんですけど、自分がtokyo pinsalocks以外で曲を作ったことがなかったから、フラッドっぽい曲ってどう作るんだろうと悩みましたね。私は面白さ半分、不安半分という感じでした。
このCDヤバイかも……
──いずれの曲からも、メンバーそれぞれのキャラクターが垣間見えて面白かったです。ここからは1曲ずつお話をお伺いします。まずは、佐々木さん作詞作曲の1曲目の「スーパーハッピーデイ」から。この曲は明るく軽やかなトーンの曲ですね。
佐々木 これは「CENTER OF THE EARTH」を作ってるときから構想があったんです。だから個人的にはアルバムの続きという感じかな。柔らかいグルーヴを出せるのが今のフラッドのいいところだなと思ってるんです。暗いダークな曲を作ることも考えたんですけど、俺の読みだとナベちゃんとテツが暗い曲を持ってくると思って。だったら明るい曲をとバランスを取ったつもりが、テツが明るい曲を持ってきたので読みが外れましたけど。
──(笑)。
佐々木 でも、自分の予想と外れることもバンドらしくていいなと。
──ライブの終盤に披露したら盛り上がりそうな曲ですよね。メロディもキャッチーでシンガロングしやすそうだし、ライブで演奏している映像がすぐ浮かびました。
佐々木 今のフラッドにとってライブが一番大事だと感じてて。4人でこの曲を演奏したら爆発力があるし、ライブが面白くなると思いながら作ってました。
HISAYO 佐々木がこの曲をバンドに持ってきたときは「助かった!」という感じでした。
──助かった?
HISAYO 一聴していい曲だと感じたし、この曲があれば今回のミニアルバムは大丈夫だという確信が持てたんです。
アオキ 俺は練習しなくてもすぐライブでできる曲が欲しいと思ってて。カッコいい曲ができても、ライブのセットリストにすぐ入れられないのはイヤだった。だけど「スーパーハッピーデイ」はすぐ演奏できたし、俺にとってはめちゃくちゃ簡単な曲でしたね。
佐々木 くくく(笑)。
アオキ でもタイトルはびっくりしました。「スーパーハッピーデイ」って!
佐々木 いや、テツと歌詞を共作した「Lucky Lucky」と同時期に歌詞を書いてたので、自分でもこんなタイトルを付けていいのかと思ってたんですよ。「Lucky Lucky」というタイトルも相当なのに、自分の曲まで「スーパーハッピーデイ」というのはどうなんだろう……このCDヤバイかもと思いました。でも、メンバーのテンションがそろってるということでいいかなと(笑)。
──確かに。作詞にあたって意識したことは?
佐々木 歌詞を書いてたとき、ちょうど令和になるタイミングだったんです。「平成は30年間、戦争がなかったことが素晴らしい」とどこかのニュースで耳にしたんですけど、俺は世界中で戦争がありまくった30年間という認識だったんです。どこまでが“自分と同じ世界”かと思うことで、世の中の見え方が変わるなと思って。もちろん国内で言えば、30年間、平和で“スーパーハッピー”と言えなくもないけど、本当のところはハッピーじゃなかったよなと。この曲ではスーパーハッピーな状況ではなくて、今の状況をスーパーハッピーにしたい、という希望を歌ってます。
初めてだからなんでも作れる
──2曲目の「Lucky Lucky」はテツさんが作詞作曲をされています。資料にはテツさんが佐々木さんの薦めで町田町蔵さんの作詞術の動画を観て、作詞に挑んだと書かれていました。これはナインティナインの番組(「浅草橋ヤング洋品店」内のコーナー「ナイナイの史上最悪最低のバンド計画」)で、町田町蔵さんが作詞術を伝授するという企画ですよね?
佐々木 そうです。テツが歌詞の書き方がわからないって言うから、「これを観ろ」と教えたんです。
──確か町田さんは「一番言いたいことをサビに書け」とおっしゃっていたので、つまりテツさんは「Lucky Lucky」が一番言いたかったんでしょうか?
佐々木 実はサビの歌詞はもともと「アンコールソング」だったんです。ツアー中に「この曲をアンコールでやりたいんです」とテツが持ってきたんですけど、サビが「アンコールソング」で始まっていたのでもう少しいいフレーズがないかなと。それで、テツに町田町蔵さんの作詞術を教えて、「『アンコールソング』よりもっと言いたいことないの?」と聞いたら、「Lucky Luckyっすかねえ」と言ったんですよ。そのときは「すごいフレーズが出てきたな」と思いました(笑)。
HISAYO そういう流れだったんだ!
アオキ なんか、2回言ったら面白いなと思ったんですよ。「ラッキー!」と1回叫ぶんじゃなくて、低い調子で「ラッキーラッキー」というのがいいなと。
──テツさんがa flood of circleのメンバーとして曲を作るのは初めてだと思いますが、作るうえで気負いはありませんでしたか?
アオキ いや、初めてだからなんでも作れるという気持ちでした。誰かにめちゃくちゃ期待されてるわけじゃないとわかっていたんで、一発目はどんな曲でも書けるなと思ってました。だから特に苦労はなかったです。
──ほかの皆さんは「Lucky Lucky」を聴いたときどう感じましたか?
HISAYO テツらしいストレートな曲だなと思いましたね。佐々木だとこういう曲はできないなと。そのよさを大事にしたい、なるべくこねくり回したくないなと思ってレコーディングに臨みました。
渡邊 俺はサビのメロがいいなと思って。テツのバックボーンが見えるんですよ。奥田民生さんが好きだったり、J-ROCKが好きな人が作った曲なんだなと感じました。ただテツが持ってきたデモのまま叩いていたら俺らしいオリジナリティはなかったかもしれないんですけど、亮介が旗を振ってアレンジを“フラッドナイズ”してくれました。
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女子なので(笑)