ACIDMAN|大木伸夫が語る、不器用ゆえの20年間のブレなさ

自分で全部責任を取りたい

──では、20周年を記念した3曲のシングルについて聞かせてください。「最後の星」は、文明社会の行く末、その先にある希望を提示するようなナンバー。タイトルに“星”という言葉が使われていますが、このテーマもずっと歌っていますよね。

不器用なんですよ、ホントに(笑)。星に思いを馳せることが好きでたまらないし、感動するんですよね。日常の中で悩むことも当然あるし、人との関係の中で心が揺れることもある。でも空を見上げると、自分の想像を遥かに超えた世界があるわけじゃないですか。秒速何百kmで動いている星があって、でも、それはすべていつかゼロに戻るっていう。そのことを考えるのが好きなんですよね。あとはほとんどエロいことばっかり考えてますけど(笑)。

──今年2月にリリースされた「愛を両手に」は大木さんの死生観がしっかりと宿っている楽曲ですね。

曲の原型ができたのは5、6年前なんですけど、サビがなかなか決まらなくて。このサビは、ホスピスに入院していた祖母が、俺のことを認識できなくなった日にできたんですよね。泣きながら歌っているときに、言葉とメロディがスッと出てきて、「あの曲のサビにぴったりだな」と思って。祖母は亡くなったんですが、まだ地球に近いところにいる段階で発表したかったから急遽リリースしたんです。

──この曲は小林武史さんがサウンドプロデュースを担当しています。これも初めての試みですね。

はい。プロデューサーの方を立てること自体が初めてだったし、そんなことは考えたこともなかったんだけど、小林さんとはぜひ一緒にやってみたいなと思って。ボーカリストを集めた小林さんのイベント(2015年10月に東京・EX THEATER ROPPONGIで行われたライブイベント「897 Sessions」)で初めてお話しさせてもらって、大好きになったんです。話すことも面白いし、すごくアーティスト気質の方なんですよね。「愛を両手に」のアレンジをお願いしたときも、俺がイメージしていた本質をすぐに見抜いて、「この曲は"holy"だよね」と言ってくれて。コードも歌詞もまったく変わってないんですけど、小林さんがアレンジしてくれたものを聴いた瞬間に「まさにこれだ」と思いましたね。

──なるほど。ちなみにACIDMANが今までプロデューサーと組まなかったのは、どうしてなんですか?

曲に対して「何かが足りない」と思ったことがないんですよね。曲を作ってるときに頭の中で鳴ってるのはドラム、ギター、ベース、歌。時にストリングも鳴ってますけど、それを100%具現化することに力を注がせてもらってるので。

──より幅広いリスナーに届けるためにプロデューサーと組むケースもありますが、それも必要なかった?

それは「なぜ音楽をやっているか?」という哲学の部分に関わっているんですよね。「世の中に響かせたい」「賞賛を浴びたい」という気持ちもあるけど、そこに本質がなければ、いくら聴いてもらってもつらいだけだと思うんです。それはあまりにも残酷だし、自分には向いてないなって。自分が100%信じているものを表現して、聴いてくれる人たちと心を通わせて、ライブで泣いている人を見るというのはかけがえのない瞬間ですからね。だからこそ、自分で全部責任を取りたいんです。楽曲はもちろん、ジャケットのアートワークもすべて自分でやっているので。もちろん、縁がある方とはご一緒する機会はあると思いますけどね。小林さんもそうだし、以前、(「風追い人(前編)」「風追い人(後編)」で)ピアノで参加してくださった坂本龍一さんだったり。

──プロデューサーを立てず、自分たちの表現を真摯に追求する。そのスタンスを貫いて、日本武道館で5回ワンマンをやってるってすごいですよね。

それは僕がすごいんじゃなくて、聴いてくれた人たちのおかげですよ。あとはメンバーの2人(佐藤雅俊 / B、浦山一悟 / Dr)ですね。彼らは宇宙のことなんか興味ないし現実主義ですけど、ブッ飛んだ俺の考えに付いてきてくれるので。

大木伸夫(Vo, G)

僕たちは無限の命のループを担っている

──そして第3弾シングル「ミレニアム」ですが、これは本当に素晴らしい楽曲ですね。20年の間に培ってきた表現が集約されていると言っても過言ではない曲だな、と。

ACIDMANらしい、俺らしい曲が作れたなと思います。今までやってきたいろんな要素が凝縮されていると言うか。それを意識していたわけではなくて、素直に作ったらそうなったんですけどね。実はこの曲は6、7年前からあって。アレンジを変えたり、メロディやコードを変えたり何度か試してみたんですけど、納得できるものにならなくて。曲作りって何をやってもいいから、答えが見つからないことがほとんどなんです。逆にシンプルにやってみることで「探していた答えがここにあった!」ということもあるし。「ミレニアム」はまさにそうだったんですよね。もともとはポップな曲で「エモーショナルさを入れたいんだけど、どうしたらいいんだろう?」とずっと考えていて。最初のイントロダクションができた瞬間に「自分が欲していたエモさは、これで解消できた」と思えたんですよね。

──楽曲のテーマはずっと変わってないんですか?

そうですね。ミレニアム、つまり1000年ということを歌いたくて。“千”というワードが好きなんですよ。漢字の美しさもそうだし、響きもそうなんだけど、神聖な感じがするんですよね。神事というか、古来からの祈りのようなイメージがあって。昔は“千”という言葉を“想像を超えた遥か彼方”という意味で使っていたらしいんです。そこで僕らは生まれ変わっているかもしれないし、違う星で生きているかもしれない……そういうことを表現したいなって。

──それもACIDMANの本質ですね。

はい。こうやって話している言葉、自分の体を構成しているものも、遥か昔から存在していた物質ですから。例えばここにあるお茶も、どこかで降った雨、誰かの汗や血や涙が姿を変えているのかもしれない。それは希望なんですよね、自分にとって。僕たちは死を生きているのではなく、無限の命のループを担っているんだなって。

──そういう話は決して神話ではなくて、最新の技術によって科学的に証明されつつありますよね。

そう、夢物語ではなくて、すごく実感があるんです。20周年というタイミングで「ミレニアム」という曲を作れたことも意味があると思うし、今後の俺たちのライブでも大事な曲になっていくと思いますね。

ACIDMAN「ミレニアム」
2017年7月26日発売 / Virgin Music
ACIDMAN「ミレニアム」

[CD]
1296円 / TYCT-39059

Amazon.co.jp

収録曲
  1. ミレニアム
  2. Seesaw
  3. 青の発明 -instrumental-
  4. Live Track From 20141023 Zepp Tokyo(「世界が終わる夜」リリース記念プレミアム・ワンマンライヴ)アイソトープ / 赤橙 / type-A

※初回プレス分は紙ジャケット仕様

ライブ情報

SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI"
2017年11月23日(木・祝)
埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
<出演者>
ACIDMAN / ASIAN KUNG-FU GENERATION / THE BACK HORN / ストレイテナー / 10-FEET / Dragon Ash / and more
ACIDMAN(アシッドマン)
ACIDMAN
1997年に結成された、大木伸夫(Vo, G)、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)の3人からなるロックバンド。2002年に限定シングル3作(「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」)を連続リリースし、2002年10月にアルバム「創」でメジャーデビュー。2007年7月に初の日本武道館公演を開催し、2009年のアルバム「A beautiful greed」発表後には、2度目の日本武道館単独公演を実施する。生命や宇宙をテーマにした独特の詞世界、静と動の両面を表現する幅広いサウンド、映像とリンクした演出を盛り込んだライブなどが高い評価を得ている。2013年6月、自らのマネジメントオフィス「FREESTAR」を設立し、2014年11月には10枚目のアルバム「有と無」をリリース。2016年10月には結成20周年を記念したベストアルバム「ACIDMAN 20th Anniversary Fan's Best Selection Album "Your Song"」を発売し、同年11月より初のツーマンツアーを行った。2017年7月に20周年記念シングル第3弾「ミレニアム」を発表。11月23日には地元・埼玉県のさいたまスーパーアリーナにて、初の主催フェス「SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI"」を実施する。