音楽ナタリー PowerPush - ACIDMAN
死を超えるアルバム「有と無」
重いギアの自転車を漕ぐ
──僕がACIDMANというバンドについて思っていることがあるんですけれども。ACIDMANが今やっていることって、ものすごく重いギアの自転車を漕いでいる感じに似ているというか。例えばフェスに出て若いバンドと一緒の場に立つと、違いをハッキリ感じるんじゃないかと思うんです。よし悪しは別として、若い世代にはギアの軽いバンドが多い。ペダルも車輪も速く回って、即座に効果的な渦を作り出すことができる。
佐藤 それでわかりやすく盛り上がりが生まれるってことですね。
──でもACIDMANはそこでの戦いには乗らずに、重いギアを漕いでもっと巨大な渦を描こうとしているというか。
大木 それは合ってると思います。
──そういう独自の戦い方をして、それがきちんと伝わってきたという自信も感じているんじゃないかと思うんですけれども。
大木 そこに関しては、自信と同時に常に不安もありますね。半分半分くらいです。自信があったからこそ続けられたと思うんですけれど。しかし本当にここ最近、「こんなにも若いバンドが生き生きしているんだな」ってことを意識するようになりました……俺、つい最近まで自分が新人だと思ってたけど(笑)。
──そうなんですよね。僕の感覚では、2013年あたりからバンドもリスナーも世代が変わってきた感がある。
大木 そういう変化に対応しなきゃいけない自分と、対応しなくてもいいやっていう自分が両方います。でも、どっしりやってきたからこそ自分たちは続けられたし、これからも続けられるという自信がある。自転車の例えは本当にいい例えで、軽くて速く回るギアじゃどんなにかき混ぜても表面ばかりで底の方まで届かないってこともあります。ギアが軽いバンドはシーンを盛り上げることができるけど、そのシーンの流行が終わるとすぐに忘れられてしまう。せっかくいいバンドがいっぱいいるのにそれはもったいないと思います。そんな中で、自分たちはまさに重いギアをあえて選んでる……俺としては、奥底にまで手を入れて、“底にあるもの”を一気にひっくり返したいって感覚なんです。「ザバッ!」ってかき混ぜたいというか。
──大木さんの言う「底にあるもの」っていうのが、今回のアルバムのテーマである「死を超えたい」ということとつながっている。
大木 そうですね。おこがましいかもしれないけど、結局人の悲しみを救いたいんです。そして自分も悲しみから救われたい。隣の人が死を目の当たりにして悲しんでいたら、自分にできることが何かないか考える。歌うことで楽になってくれるなら歌ってあげたい。でも一方で、「悲しんでいる人の前で歌うことなんて無駄だ」「くだらない」っていうこともわかっていて。以前、身近で誰か亡くして悲しんでいる人と話をして、すごく楽になったって言われたことがあるんです。すごくスッとしたって。それで自分の中の悲しみを乗り越えたり、人々の悲しみを癒す力が芸術にはあるって感じて。言葉とメロディで少しでもそれができるのであれば……俺はそういうことがしたいんだなって思うんですよね。
「ソロをやらないか」みたいな話、過去に何度もあった
──前から聞きたかったんですけど、大木さんっていろんな呼ばれ方をされていますよね。アーティスト、表現者、クリエイター、ミュージシャン、バンドマン。自分ではどれがしっくりきますか?
大木 今言われたのは正直どれもしっくりきます。たまにファンの子から「大木先生」と呼ばれるんですけど、それもしっくりきます(笑)。「大木」でも「お前」でもいいし。
──ACIDMANは音楽以外にもデザインとかいろいろとやっているわけですけど。
大木 Tシャツとかジャケットのデザインも全部やってますね。やっぱり何かしらモノを作るのが好きなんですよ。子供の頃は絵を描くことが大好きだったし、工作も大好きだったし。今は不器用だからバンドに関わることしかやっていないけれど、少し余裕ができたら何かモノを作ることもやりたいなとは思いますね。
──一悟さん、佐藤さんどうですか? 大木さんはどういうくくりがしっくりくると思います?
佐藤 大木に関しては“表現者”だなと思いますね。いろんなことを形にしたり表現することが好きで、開拓していく……自分の人生含めて。そういう人だなと思いますね。
浦山 俺から見ても“表現者”ですね。生き方にまったく嘘を付いていないし、やりたいことに対してまっすぐにエネルギーを発して、突き進んでいく。アウトプットはもちろん音楽ですけれど、大木伸夫っていう人間を表現して生きてるっていう。
──ACIDMANというバンドは、そうやって大木さんの表現を核にしてギュッとまとまっている。これはバンドとして最初からずっとそうだった?
大木 今思えば最初からだったと思いますね。俺の中で自分がバンドマンであるというのは当たり前のことだし、音楽をやる上で、形態がバンドであるべきだというのもずっと揺るがないんです。例えば「ソロをやらないか」みたいな話だって、過去に何度もあったんです。だけど、1ミリもやろうと思ったこともないし、揺らいだこともない。1人じゃ何もできない、あくまでバンドなんだっていうのはずっとあります。やりたいようにやっていても、2人がついてきてくれてるので。デビュー当時からずっとそうなんですよね。
浦山 僕としては、大木の表現するものが好きなんだからしょうがないっていう。素晴らしいことを歌ってると思うし、そこに関してはブレもなく、一緒にやりたいなと思っていますから。
──これで10枚目のアルバムになるわけですが、バンドってキャリアを重ねれば重ねるほど、新機軸を導入していくことが多いと思うんです。新しいプロデューサーを迎えたり、新しい音楽性を取り入れてみたり。ACIDMANはそういうことはしてない。
大木 しないですね。それには明確な理由があって、キャリアを重ねた実感もないし、10枚目だという実感も全然ないんですよ。いまだに1stアルバムを作っている感覚で、満たされてないという。曲を作るときは、今のこと、未来のことしか考えてないというか。だから同じことばっかり飽きもせず歌っているんだと思います。「それ前歌ったよ」って言われても、「俺が今歌いたいのはこれなんだから」って(笑)。
──失礼を承知で言うと、同じことを歌い続けるって「マンネリじゃないですか?」みたいに思われることだと思うんです。でも不思議なことに、ACIDMANのアルバムは毎回新鮮な気持ちで聴ける。
大木 ありがたいことにファンの人たちもそうやって毎回新鮮に聴いてくれています。だから歌いたいことを歌えるのは本当にファンのおかげですよね。そういう環境を作っていただけているから、俺は自分のことに集中できる。聴いてくれる人がいるからもっとやっていきたい、追求したいと思える。答えのないものに挑んでいるわけですからね。例えば恋愛を追求していたら、恋愛が終わったらその時点で追求は終わってしまう。でも、俺はもっと根源のほうに目を向けたいので。だから飽きないし、マンネリなんかないし、掘れば掘るほど面白くなってくる。永遠に底を掘り続けていたいですね。
- ニューアルバム「有と無」 / 2014年11月19日発売 / Virgin Music
- ニューアルバム「有と無」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / TYCT-69075
- 通常盤 [CD] / 3024円 / TYCT-69076
CD収録曲
- 有と無(introduction)
- 永遠の底
- EVERLIGHT
- Stay in my hand
- star rain
- EDEN
- 世界が終わる夜
- ハレルヤ
- en (instrumental)
- your soul
- 黄昏の街
- 最期の景色
初回限定盤DVD収録内容
scene of 有と無
- EVERLIGHT(Music Video)
- EVERLIGHT ~Animation Ver.~(Music Video)
- Stay in my hand(Music Video)
- 世界が終わる夜(Music Video)
- Document2014
ACIDMAN LIVE TOUR “有と無”
- 2015年2月6日(金)東京都 Zepp Tokyo
- 2015年2月8日(日)香川県 高松オリーブホール
- 2015年2月11日(水・祝)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2015年2月15日(日)沖縄県 桜坂セントラル
- 2015年2月20日(金)熊本県 熊本B.9 V1
- 2015年2月21日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2015年2月28日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2015年3月1日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2015年3月6日(金)宮城県 Rensa
- 2015年3月8日(日)宮城県 BLUE RESISTANCE
- 2015年3月11日(水)福島県 いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場
- 2015年3月14日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2015年3月20日(金)新潟県 新潟LOTS
- 2015年3月22日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2015年3月28日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2015年4月2日(木)台湾 The WALL台北
- 2015年4月4日(土)香港 MUSIC ZONE
- 2015年4月11日(土)大阪府 なんばHatch
- 2015年4月12日(日)大阪府 なんばHatch
- 2015年4月18日(土)東京都 日本武道館
ACIDMAN(アシッドマン)
1997年に結成された、大木伸夫(Vo, G)、佐藤雅俊(B, Cho)、浦山一悟(Dr, Cho)の3人からなるロックバンド。2002年に限定シングル3作(「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」)を連続リリースし、2002年10月にアルバム「創」でメジャーデビュー。2007年7月に初の日本武道館公演を開催し、2009年のアルバム「A beautiful greed」発表後には、2度目の日本武道館単独公演を実施する。生命や宇宙をテーマにした独特の詞世界、静と動の両面を表現する幅広いサウンド、映像とリンクした演出を盛り込んだライブなどが高い評価を得ている。2013年6月、自らのマネジメントオフィス「FREESTAR」を設立し、2014年11月には10枚目のアルバム「有と無」をリリース。2015年2月にはアルバムを携えた全国ツアーをスタートさせ、ツアーファイナルは5度目の日本武道館公演となることが決定している。