音楽ナタリー PowerPush - ACIDMAN
死を超えるアルバム「有と無」
頼もしい「世界が終わる夜」
──今年ACIDMANは「EVERLIGHT」「Stay in my hand」「世界が終わる夜」という3枚のシングルをリリースしてきましたが、これらは今回のアルバムの中でどういう役割を果たしているんでしょう?
大木 すごく頼もしい“3人”だなと思いますね。先陣を切ってくれた2人と、それをあとから追いながらどっしり支えた1人っていう。「世界が終わる夜」が堂々と、凛としているので、それ以外の楽曲も引き立つ。頼もしい曲ですね。
──「世界が終わる夜」は僕もとても印象的で。今の時代、ロックバンドがこういう壮大で長い曲をシングルとしてリリースするということ自体が挑戦的だと思いました。これはかなり手応えもあったんじゃないかと思うんですけれども。
大木 この曲って、スタジオでギターを弾きながら携帯のボイスメモに録音して作ったものなんです。そのとき歌と同時に歌詞が出てきたんですけど、自分でも感極まって嗚咽しながら歌っていて。歌いながら「自分は大袈裟なことやスケールのデカイことを歌っているけど、結局は自分が死ぬこと、隣の人が死ぬことがイヤなんだ」っていうことを痛感して……それも“死”をテーマにしようと思ったきっかけの1つになっていますね。
──一悟さん、佐藤さんもそういう感覚は共有していました?
浦山 俺もレコーディング前にできあがってきたのを聴いて泣きました。これはすごいと思いましたね。今までの曲とはちょっと違う感動がありました。
佐藤 僕は基本的にドライな人間なんで、自分たちの曲で涙線が緩むってことはあんまりないんですけど、「世界が終わる夜」に関しては、すごくくるんですよね。なぜかわからないけど、そういうパワーを持っている曲なんだと思う。自分がこれだけ感じるってことはほかの人にも絶対伝わるだろうなって感じます。
大木 自分としても、これから何年もずっと歌っていく大事な曲ができたっていう実感がありますね。
──確かにこの曲からは、メロディにしても言葉にしても、これまでより1歩先に踏み込んだような力強さを感じます。
大木 俺が思うには、いい意味でいろいろ潔く脱ぎ捨てたというか……ちゃんと捨てるものを捨てたら研ぎ澄まされていったという感じです。捨てるのは勇気のいることだったんですけど。
──そこで捨てたものというと?
大木 例えばこの曲の歌詞って、これまでの自分では選ばなかったような言葉を使っているんです。今まではもうちょっと芸術的な、難解な言葉を選んでいた。でもそれは恥ずかしさがあったからでもあって。
──シンプルな言葉でストレートに伝えることに恥ずかしさがあった。
大木 はい。音に関しても時間をかけてアレンジを練ったものじゃないと不安がありました。でも「世界が終わる夜」には難解な歌詞が一切ないし、アレンジにもそれほど時間をかけていないんです。できたままを録音していて。でもそれでいいと思えるようになるまで、いろいろ葛藤はありました。「本当にこの言葉でいいのかな」とか「シンプルすぎないかな」とか「今はハードなのが流行っているからハードなほうがいいんじゃないかな」とか……雑念がたくさんあった。でもそういうものを捨てたんです。だから、ひょっとしたら10代や20代の若い子たちの中には、この曲を聴いて物足りないと思う人もいるかもしれない。ただ、歳を取ったときにきっとこの曲に目覚める瞬間があると思う。そのときに「うわー!」ってなってもらえるような曲ができたなと思いますね。
本質を歌いたいから、装飾はいらないと思った
──ACIDMANの音楽って、いろんな人に「壮大な世界観」って言われると思うんです。それは間違いじゃない。けれど、歌詞で歌われているのって意外と身近なことだったりするんですよね。誰にでも当てはまるようなことを書いている。
大木 わかる気がするな。実はすごくシンプルなんですよね。「宇宙のことを歌っています」って言うと大きいイメージだけど、よく考えたら俺たちは宇宙の一部だし、震災後には多くの人が死について考えたと思うし。俺は歌詞で自分たちの哲学を伝えていきたいから、だんだんと“宇宙”や“死”っていうのが実は身近なことなんだというのを歌詞の中に混ぜるようになってきていて。
──なるほど。
大木 失いたくないものがあるけれど、それも大きな時間の流れの中ではいずれ失ってしまう……そういう抗いようがないものにいかに勝つか。それをシンプルな言葉で伝えたくなってきているんですね。
──だから、メタファーとか難解な表現を捨てた。
大木 そうですね。もちろん抽象的な表現はいまだに大好きだし、装飾することで輝くものもあるからこれからも続けると思うんです。でも「世界が終わる夜」にはそういう装飾はいらないと思った。本質を歌いたいときは、なるべく装飾は省いていくほうがいい。
佐藤 確かにシンプルで身近な言葉を使っているから、より力があるというか。意味がすっと入ってくるというのはあると思いますね。
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- ニューアルバム「有と無」 / 2014年11月19日発売 / Virgin Music
- ニューアルバム「有と無」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / TYCT-69075
- 通常盤 [CD] / 3024円 / TYCT-69076
CD収録曲
- 有と無(introduction)
- 永遠の底
- EVERLIGHT
- Stay in my hand
- star rain
- EDEN
- 世界が終わる夜
- ハレルヤ
- en (instrumental)
- your soul
- 黄昏の街
- 最期の景色
初回限定盤DVD収録内容
scene of 有と無
- EVERLIGHT(Music Video)
- EVERLIGHT ~Animation Ver.~(Music Video)
- Stay in my hand(Music Video)
- 世界が終わる夜(Music Video)
- Document2014
ACIDMAN LIVE TOUR “有と無”
- 2015年2月6日(金)東京都 Zepp Tokyo
- 2015年2月8日(日)香川県 高松オリーブホール
- 2015年2月11日(水・祝)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2015年2月15日(日)沖縄県 桜坂セントラル
- 2015年2月20日(金)熊本県 熊本B.9 V1
- 2015年2月21日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2015年2月28日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2015年3月1日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2015年3月6日(金)宮城県 Rensa
- 2015年3月8日(日)宮城県 BLUE RESISTANCE
- 2015年3月11日(水)福島県 いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場
- 2015年3月14日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2015年3月20日(金)新潟県 新潟LOTS
- 2015年3月22日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2015年3月28日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2015年4月2日(木)台湾 The WALL台北
- 2015年4月4日(土)香港 MUSIC ZONE
- 2015年4月11日(土)大阪府 なんばHatch
- 2015年4月12日(日)大阪府 なんばHatch
- 2015年4月18日(土)東京都 日本武道館
ACIDMAN(アシッドマン)
1997年に結成された、大木伸夫(Vo, G)、佐藤雅俊(B, Cho)、浦山一悟(Dr, Cho)の3人からなるロックバンド。2002年に限定シングル3作(「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」)を連続リリースし、2002年10月にアルバム「創」でメジャーデビュー。2007年7月に初の日本武道館公演を開催し、2009年のアルバム「A beautiful greed」発表後には、2度目の日本武道館単独公演を実施する。生命や宇宙をテーマにした独特の詞世界、静と動の両面を表現する幅広いサウンド、映像とリンクした演出を盛り込んだライブなどが高い評価を得ている。2013年6月、自らのマネジメントオフィス「FREESTAR」を設立し、2014年11月には10枚目のアルバム「有と無」をリリース。2015年2月にはアルバムを携えた全国ツアーをスタートさせ、ツアーファイナルは5度目の日本武道館公演となることが決定している。