阿部真央|この10年間で行けなかった領域へ

自分の中に見つけた非凡

──今作「まだいけます」ではリミッターを外した阿部真央を体感できるとのことですが、今後どんな表現者になっていこうと思っているんですか?

子供も産んだし、うれしい出会いもたくさんあって。私はいっぱい感謝して、いっぱい愛情を持てるようになったと思うんです。で、愛情を持てば持つほど自由になって、何を言っても怖くなくなってきちゃって。やっと自分の中のあらゆるものをアウトプットすることが怖くなくなったので、このまま行き切りたい。私、今まで自分のことを普通だと思っていたんですよ。というか、普通だと思わなきゃいけないと考えていた。自分は非凡じゃなく平凡。だからこういう曲を書いているんだと思っていたんです。平凡な女の子が非凡になりたくてやっているんだと。それは自信がないからで、アーティストとして「ちょっと変わってる」とか「独特」と言われることがあっても、背伸びした結果のように感じていた。なぜなら、自分はそういう存在になりたくてもなれないと思っていたから。

──ずっと自分自身は平凡な存在だと思い続けていたんですね。

阿部真央

でも先ほど話した通り、時間をかけて自分の素を認められるようになり、「あれ? 本当にちょっとズレてるのかな?」「あ、そっか。普通の人はこんなこと書かないよね」と10年目でやっと思えるようになって。それが逆にアーティストとしての自信になったというか。で、自分のパーソナルな部分をあまりストレスなく受け入れられるようになった今、どんどん自分を出していきたいなと思うんです。これだけ出せなかったんだから、ここから先10年は出し続けたい(笑)。自分の中ではやっとスタートラインに立った感じなんです。

──目指していた非凡になれたということでしょうか?

いや、結局私は自分がなりたかった非凡にはなれなかったんですよ。でも、自分の中の非凡をちゃんと見つけた。例えば「普通の人は好きな人とケンカするとき、こんなにケチョンケチョンにやらないんだ?」と知ったり。私、ケンカするときは、相手に対して「立ち直れなくなればいいのに」と思うんですよ。「最後の自尊心もぜんぶ潰してあげる」って。それって優しくないんだなと最近になってやっと気付くという……あはははは!(笑)

──怖いです(笑)。

だから私と付き合う人ってみんな疲れていくんですよ。それに対してやっと「かわいそうに」と思えるようになった(笑)。子供を産んで少し普通の感覚がわかるようになったんでしょうね。子供とか、自分より弱い者に対してはそんなことしないんですけど、母親に「あなた、ケンカすると本当に怖いから」と昔からよく言われていたんです。その意味がようやくわかりました。あと、そうやってケンカしている最中にも「これで1曲書けるな」と思っている自分がいるのは、やっぱり普通ではないですよね。で、その“普通ではないこと”を1つ認めてあげると、創作において自信が出てくるんです。ちょっと自分を過大評価してあげるというか、自惚れさせてあげることが非常に大事なんですよね。それができるようになった10年目でした。

──自分の中の非凡性に気付いたことによる覚醒だと。

私の中の小さな非凡です。でも、「ケチョンケチョンにしてやる」みたいな攻撃性を持っている女の子って少なくないと思うんですよ。凶暴さに大なり小なり差があるだけで。そういう人たちに私の歌が響いているのかなと思うと、曲を書いている意味もあるかなと思います。とはいえ、やっぱりポップソングじゃないとこんなに多くの人に聴いてもらえないし、そのバランス感覚も自分で認めてあげたくなりました。

これからはやりたいように

──新しいアルバムにはさまざまなタイプのラブソングが収録されています。一生ラブソングを歌っていくであろう、女性シンガーソングライターとしての矜持みたいなものを感じました。

阿部真央

先のことはわからないから断言はできないんですけど、確かにラブソングはずっと歌っていく気がする。聴く人を鼓舞する歌や元気付ける歌も多いですが、そればかりだとつまらなくなっていくと思うし。

──ちなみに、アルバムのラストを飾る「おもしろい彼氏」はどのように生まれたんでしょう?

この曲を書いた頃、こういう彼氏がいて(笑)。

──面白い彼氏だったんですね(笑)。

私、初めてなんじゃないかな。元カレをディスらずに歌った曲(笑)。すごく面白い人だったんですよ。私が怒っても笑っている人だったから「バカなの?」と思ってました(笑)。この曲では「来世もよろしくね」と歌っているんですが、結局別れているんですよね。これまでも曲の中で「永遠」とか「ずっといよう」と歌っても、結果、現実ではその人とは別れている。楽曲は私のリアルなところから生まれているけど、現実と作品は乖離しているというか、この曲の中の主人公は永遠に彼氏と一緒でも、書いた私自身はそこに縛られないんです。昔はそのことについて苦しく感じてたんですけど、今は「それはそれ」と割り切れる。だから「おもしろい彼氏」のことも今後はディスるかもしれないし、また新しい恋をしたら永遠を願う曲を書くかもしれない。そういった意味では、さっき言ってもらった「一生、ラブソングを歌っていく」というのは間違っていないんですよ。思考的に歌い続けていくものだと思います。

──なるほど。あと、今作はあらゆるシチュエーションのテーマソング集みたいな側面もありますよね。それこそ「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」なんて、このタイトル通りのシチュエーションに対してこれ以上親和性の高い楽曲はないですよ。

はははは!(笑) ファンの人にもよく「私のこと、見てたんですか? 自分のことを歌ってくれていると思った」と言われるんですけど、それは本当にうれしいことで。私、デビューする前から「歌詞だけはわかりやすくなきゃいけない」と考えていたんですよ。私はロック調の曲も歌いますが、基本的にはポップスが好きなので、歌詞もポップなものじゃなきゃいけないと。限定された情景描写でも、聴く人の心の中にある風景を描けることがポップソングの条件だと思っているんです。1つのシチュエーションについて歌うなら、誰もが経験したことのあるシチュエーションを目指したいんですよね。

──東京オリンピックの開催もあり、2020年は日本のカルチャーが世界中から注目される年になると思います。阿部真央さんはアルバム「まだいけます」と共に1年のスタートを切るわけですが、どんな1年にしたいと思っていますか?

今、私は生まれたてみたいな状態なんですよ。やっと自分の中のあらゆるものをアウトプットできるようになったので、ここからはもう自分がやりたいようにストレスなくアウトプットしていく。もっと言うと、それを繰り返しながら自分のなりたい自分、自分らしい自分をどんどん見せていける1年にしたいですね。それに挑戦する最初の年みたいな。あと、東京オリンピックと言えば、私、聖火ランナーとして走るんですよ。幸先がよいというか、うれしいお話を予想外の角度からいただいたので、今後もちゃんと誇れるような活動をしたいですね。

ライブ情報

阿部真央らいぶNo.9
  • 2020年3月14日(土)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
  • 2020年3月20日(金・祝)大阪府 オリックス劇場
  • 2020年3月21日(土)大阪府 オリックス劇場
  • 2020年3月29日(日)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
  • 2020年4月4日(土)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
  • 2020年4月18日(土)宮城県 電力ホール
  • 2020年4月26日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2020年4月29日(水・祝)福岡県 福岡市民会館
  • 2020年5月2日(土)香川県 サンポートホール高松 大ホール
  • 2020年5月8日(金)岡山県 岡山市民会館
  • 2020年5月9日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2020年5月15日(金)石川県 金沢市文化ホール
  • 2020年5月17日(日)新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
  • 2020年5月22日(金)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2020年5月23日(土)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2020年5月30日(土)大分県 iichikoグランシアタ
阿部真央