選択肢を広く持っている形が合ってる
──スタジオでの1人のレコーディングと、バンドでのレコーディング、どっちが自分にとって楽しいんですか?
いやあ……どっちだろう? どっちも、ですね。両方必要な気がします。バンドの形式を取っている限りは、たまにはこういうこともやらないといけない。ただ、上田剛士のソロユニットとして作っている一番の根本は、自分の音を自分の形で作りたい、というのがあるんで。それにはこの方法論が適してると思うんです。たぶんそのときのテンションですね。バンドを求めているときもあるし、今回は全部自分でやっちゃおうというテンションのときもあるし。その選択肢を広く自分で持っている形はすごく自分にとっていいんです。
──「#5」はほとんど上田さん1人で作ったアルバムでしたから、ある意味その対極にある形で作りたかった、というのもありますか?
そうですね。うん、それもあるかもしれないです。ただ「こうじゃないと」という形はあまり決めたくない。と言うか決まってないのが心地よいって感じですね。最終的に全部自分のワガママでどれでも選べる。そんな環境で音楽作れることってなかなかないと思うので。普通にバンドやってたら絶対ないし。
──周りもそれを許してくれない。
そういうことです(笑)。だからそれは恵まれてると思いますね。
──完成した音源を聴くと、フィジカルなエネルギーの強さと緻密な音作りのバランスがすごく高い次元で取れている。もっと荒々しさが前面に出ているかと思ったら、演奏もアレンジも非常に完成度が高い。
たぶんそれは自分がもともと持っていた資質だと思うんです。そしてメンバーもきっちり作り上げたオリジナルバージョンのよさをちゃんと理解したうえで表現してくれてると思います。もっと荒々しくラフにやろうと思えば、みんなできるんだろうけど。
──なるほど。
レコーディングも、(児島)実が、オレよりもこだわってたところがあるじゃないですか(笑)。
──私が見学していたある曲のレコーディングで、上田さんはそんなに気にしてなかったけど、実さんは「ここを直せばもっとよくなる」と主張して自分のパートを弾き直していた件ですね。上田剛士の音楽をより正確に伝えるために、メンバーが本人以上にこだわってプレイする。
そういうのがあってAA=の音楽は成り立ってる。AA=はパワーがあって、ロック的な荒々しいエネルギーがあるけど、同時にマシンのような緻密さも必要だってメンバー全員が理解してくれてるからだと思います。
──初期に比べても上田剛士、AA=の音楽は、より緻密に、正確に、モダンになっている気がします。テクノロジーが進化していくようにAA=の音楽も進化していく。今回のベスト盤はその最新型と言うか。
そうですね。そこは自分が全部コントロールしてやってるかっていうと、思い付きも多いのでなんとも言えない。でもできあがった音の説得力は、自分でもワクワクする部分です。
その時代にその機材で作ってた音は、その時代に鳴るべき
──機材やソフトウエアの進化や更新は、そうしたAA=の音楽の進化に関係してますか?
大きい目で見たら、自分の音楽と、そういう機材面の進化は切り離せないと思いますね。ソフトでもハードでも進化したものに影響を受けて、自分の音楽も進化してきてると思うので。もちろん時代性もある。そのときの時代の音というのもあって、そこからの影響ももちろんあるんだけど、そういう変化が自分にとって一番刺激になってる気がします。
──20年前と同じ機材を使って、今と同じ音楽をやることはできるんですか?
できなくはないですね。当時のPower MacやG3とかサンプラーとかSCSIケーブルとか倉庫に眠ってるんで。やろうと思えばできるかもしれないけど(笑)、そこに意味を見い出せない。その当時の“最先端”じゃないですか、自分の中の。懐古主義でやってないと言うか。同じ機材を使っても、その当時のようなテンションじゃないって時点で、例え同じ音が出てもその音にはならない気がしますね。結局、その時代にその機材で作ってた音って、その時代に鳴るべき音だから。
──なるほど。例えばビンテージのシンセサイザーをずらりと並べて作る、みたいなことに興味はない?
すてきだとは思いますけど、そこに自分の歩んできた音楽の進化みたいなワクワク感を求められるかどうか、ちょっと違う気がします。もちろんそういうものを求めて、そういう作り方をしているアーティストがいていいし、全然否定はしないけど、自分はそういうタイプじゃない気がしますね。
──そういう古いものに価値を見い出すような温故知新や懐古趣味がほとんどないところが、上田剛士というアーティストの際立った特徴という気がします。「古くてもいい」とか「懐かしい」という言葉が一番似合わないと言うか。
(笑)。そうですね。昔を懐かしむとか全然ないですね。今はそういうのはいらない。
──今までそういう気持ちが湧いたこともない?
昔聴いてた音楽を聴いて、そのときの情景が思い浮かぶとか、そういうのは普通にありますけど、それはそれでしかない、という感じですね。それ以上でもそれ以下でもない。
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根底にあるよりリアルでありたい思い
- AA=「(re:Rec)」
- 2018年4月4日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
[CD]
3240円 / VICL-64965
- 収録曲
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- LOSER
- 2010 DIGItoTALism
- posi-JUMPER
- KILROY WAS HERE
- WORKING CLASS
- GREED...
- Such a beautiful plastic world!!!
- HUMANITY2
- ROOTS
- meVIR
- sTEP COde
- The Klock
- STARRY NIGHT
- WARWARWAR
- DREAMER
- 4 leaf clover
- ALL ANIMALS ARE EQUAL
- FREEDOM
- PEACE!!!
ライブ情報
- AA= TOUR OIO 2018
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- 2018年5月2日(水)東京都 新宿LOFT
- 2018年5月5日(土・祝)大阪府 Music Club JANUS
- 2018年5月13日(日)宮城県 仙台MACANA
- 2018年6月8日(金)福岡県 LIVE HOUSE CB
- 2018年6月10日(日)愛知県 CLUB UPSET
- AA=(エーエーイコール)
- 2008年に始動した、THE MAD CAPSULE MARKETSの司令塔である上田剛士(Vo, B, Programming, Produce)のソロプロジェクト。アーティスト名はジョージ・オーウェルの小説「動物農場」に登場する言葉「All Animals Are Equal」に由来する。プロジェクトとしての活動の一方で、BABYMETAL、BiSなどの楽曲制作やプロデュースなどを担当したり、椎名林檎をはじめとするさまざまなアーティストの楽曲のリミックスをしたり、CM音楽や映画の劇伴を手がけたりと多岐にわたって活躍。2015年4月に0.8秒と衝撃。のJ.M.をボーカルに迎えた「→MIRAI→(ポストミライ)」をモード学園のCMソングとして提供して注目を集める。2016年5月に5thアルバム「#5」をリリース。2018年4月に全曲再録によるベストアルバム「(re:Rec)」を発表した。