AA=が約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「#6」を8月7日にリリースした。
2018年4月に発表した再録ベストアルバム「(re:Rec)」を経て制作された本作は、BALZACのHIROSUKEとのコラボ曲「DEEP INSIDE」のアルバムバージョンなどを含む12曲入り。ラウドかつ重厚なサウンドをベースにしながら、従来以上にポップな要素も存分に織り交ぜたAA=の真骨頂ともいえる作品となっている。
「(re:Rec)」をリリースしたことで見えたものやコンポーザーとしての意識、AA=というプロジェクトに向かう信念などについて上田剛士に聞いた。
取材・文 / 阿刀“DA”大志 撮影 / 西槇太一
再録ベスト「(re:Rec)」で見えたもの
──活動10周年を経て、上田さんはAA=というプロジェクトを改めてどういうものとして捉えていますか?
自分のいるべき場所、やるべきことをやる場所というのは変わっていないですけど、10年続けてきて自分の中での変化もいろいろあるし、そこから見えてきたものもあります。全部含めて「自分」という感じですね。そのとき、そのときの自分がモロに出ている場所というか。
──変化した部分というのは?
音楽的に成長しているし、作品ごとに新たなチャレンジもしているんですけど、この10年で一番変わったのは、一緒にやるメンバーが増えたり、チームがどんどん大きくなったりする中でみんなから影響を受けるようになったことですね。自分のソロプロジェクトという形はとってはいるけど、活動のスタイルとしてはバンドだし、そこから受けた影響はすごく大きい。今回の作品「#6」では、その影響をうまく表せているんじゃないかと思います。
──今作はバンドならではの力強さと、打ち込みのサウンドがいい具合に混ざり合っていますよね。
それは10周年を迎えて「THE OIO DAY」というワンマンライブをやって、「(re:Rec)」というアルバムを作ったことで一区切りつけたことが大きい気がしますね。
──バンドメンバーと共に録った再録ベスト盤「(re:Rec)」の存在は大きいんですね。
オリジナルアルバムというのは、そのときそのときの自分がやりたいことを詰め込んでいるものなんですけど、「(re:Rec)」はバンドとしてライブをやっていく中でアレンジが変わっていった曲を録音する目的があったんです。あの作品でバンドとしてのAA=を表現できたことで、改めて自分を見直すことができた。そこでメンバーから受けている影響の大きさにも気付いたし、それを今回の「#6」に反映したいと思うようになりました。
基本的にどんなものでも“自分の音楽”として作る
──ここ数年、上田さんはBiS、BABYMETAL、DEVIL NO IDといった女性ボーカルグループに楽曲提供する機会が何度かありました。そういう仕事を通じて自分の楽曲について改めて気付いた部分はありますか?
自分の作る曲は、ポップだったりキャッチーだったりという意味で、女性ボーカルに合うんだろうなとは自分でもずっと思ってました。だから実際にやってみて、合う部分もある一方で、いい感じの違和感も出せたんじゃないかと。というか、自分が作るとなったらそうなるしかないだろうし、それが面白いんだろうなとも思ってました。
──それは興味深いですね。
これまでずっと、ラウドな音楽にポップな要素を入れた曲を作ってきて。前にやっていたバンドでもそういうところが海外で評価されていたし、人に受け入れられやすいものなんだろうなとは思っていたので、それをティーンの女の子がやったらどうなるのか試すのは楽しかったですね。
──なるほど。
でも、よく男性アーティストのプロデュースをしてほしいという話がくるんですけど、それはちょっと難しくて。基本的にどんなものでも自分の音楽として作るので、そのアーティストの方々がこれまでに作ってきたものに寄せるというより、その人たちを使って自分がどういう音楽を作るかっていう形でしか考えられないんですよ。なので、先方にも事前にそういうことをお話して、それでもOKしてくださる方とならやるという感じです。でも男性アーティストだと、自分がAA=でやっている音楽と近くなりすぎちゃう気がして。結局、“自分”になってしまうんですよね。
──「だったら、自分で歌うほうが早いじゃん」という。
そうそう。なので、OKしないことが多いです。よっぽど自分と違うものなら別ですけど、そういう意味では女性のほうがプロデュースしやすい。自分の音楽をそのままやれちゃうので。
ポップでキャッチーなターム
──先ほど、これまでいろんな音楽を取り入れて成長してきたという話をされていましたが、今のAA=のような2つの曲を1つにした複雑な楽曲構成はあまりないスタイルだと思います。
これまでプロデュースしてきた方々にもそういうふうに作ってほしいとよく言われていたんです。でも、自分としてはあまりそうは感じていなくて。
──そうなんですか?
なるべくしてなっているというか。だから、自分としてはサビで突然展開を変えているという意識はなくて、あくまでも自然の流れでそうなっているし、自分の中ではその展開しかない。だから、例えば「ここのメロディを変えてください」と言われたとすると、その曲全体が違うということになってしまう。曲作りの発想がほかのミュージシャンとは根本的に違うのかもしれないですね。
──上田さんから影響を受けているバンドとしては、過去にコラボしたDragon Ash、Crossfaith、coldrainなどがいますけど、サウンド面での明らかなフォロワーはいないですよね。
こういう曲の作り方は自分にしかできないんだろうなという気はしています。自分の音楽をそのまま真似できるような人は多分いないと思うし、今後も現れないと思う。
──上田さんのように録音からミックスまですべて責任をもってやっていないと、このサウンドは絶対に作り得ないと。
そうですね。ちょっとした音のバランスでも変わってくるので、そうするともう自分の作品ではなくなるし、自分がやる必要がないと思ってます。
──それは「#6」にも通じる話ですよね。さまざまな音が渾然一体となっていて、何かの拍子で破綻しそうでいて、決してそうはならない。
聴いてる人が破綻してると感じても、自分が気持ちよければそれでいいだろうと思っていて。最終的には自分が気持ちいいかどうかなんです。そういうところに自分のパンク精神やD.I.Y.精神が残っているんですよね。なので、仮に楽しんでもらえない人がいたとしても、「まあ、そりゃそうかもね」でいいかなと思ってます。自分は大衆向けの商業的にパッケージされた音楽を作ってるつもりは全然ないので。しかも、自分が作って面白かったり、気持ちよかったりするものに共感してくれる人が一定数いるだろうとは思っているので、今のスタイルを変える必要はないと思っています。
──でも、これからも進化していきたいという気持ちは当然あるわけですよね?
進化をどう定義付けるかにもよるんですけど、自分が常に楽しんで音楽を作っていきたいという気持ちでいえばそうですね。でも、周りが聴いて「進化した」と思われることは目的に置いていません。
──とはいえ、上田さんの音楽は技術の進化の影響を受けやすいものではありますよね。
それはあります。これまでに作ってきた音楽は、自分の技術だけではなくて、ハードウェアやソフトウェアといったものの進歩がすごく影響していると思います。
──それらは今後も進歩していくもので、そこから上田さんは影響を受けていくんだと思います。
新しい技術に関してはやっぱり興味はありますね。でも今は1980~90年代に比べると劇的な変化は生まれづらくて、むしろ音楽に関する技術はかなり完成されていると思います。今はアナログとデジタルの違いもだいぶなくなっているし。昔はそれぞれがまったく違うもので、そのいびつなところが面白かったんだけど、これからは目に見えるような形での技術的な変化……例えばサンプラーが突然現れたような変化は減っていくのかもしれないですね。
──「#6」は従来のラウドな要素もありつつ、上田さんがもともと持っているポップでキャッチーな側面が強調されているように感じました。
自分としては全然狙っていたわけではないんですけど、そういう曲がたくさんできる時期ではありましたね。作る曲作る曲がたまたまポップでキャッチーだったっていう。そういう時期がたまにやってきたりするんですけど、AA=になってからだと今回はそれが一番表れたタームなのかもしれない。レーベルの方は実験的な作品と言ってくれるんだけど、自分としては自然にできたものを並べただけだし、自分らしいものになったと思っています。でも、それを聴いた人が実験的だとか、サウンドの幅が広いと感じてくれるなら楽しいですね。
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