ナタリー PowerPush - AA=
上田剛士が語る「2011年」
このアルバムは怒りが中心というわけではない
──震災を機にさまざまなアクションを起こしてきましたが、そういった活動はこのアルバムにも大きく反映されているんでしょうか?
そうですね。震災によって一度頭の中がリセットされたと思うし。例えば、同じフレーズやリフやサウンドでも、捉え方や発し方が変わってきたと思います。
──発し方の変化というのは、感情的な違いによるものなんでしょうか?
はい。喜怒哀楽の怒りの部分はもちろんあると思います。でも、このアルバムは怒りが中心というわけではない。いろいろ複雑な思いがある中で、答えに向かっていくみたいな気持ちが中心にあると思ってます。
──その答えというのは?
希望みたいなものだと思うんですけど、それが音楽の中で形となって表れたんです。これまでの僕の音楽って、ときに怒りの表現が出てきたりしたし、ときには悲しみの表現が出てきたりもした。でも、今回一番求めていたのは希望のある音楽で、そこは今までより強く出たと思います。さっき言ったストレートになったということにも関係していて、そうなったことで素直に表現できる気持ちになっていたっていうのはあります。
──前向きな気持ちを出しやすくなったと。
自分の中で意識したわけではないんですけど、わりと生々しく出てきたというか。言葉としてストレート、音としてストレートというよりも、気持ちの部分でストレートでしたね。
音楽は決して思想ではないと思ってる
──震災や原発事故に影響されて出てきたであろう楽曲もありますが、アルバムを通して聴いたときにそういった怒りの部分だけではない、ポジティブな前向きさを感じました。それが剛士さんの言う希望なのかもしれないですね。聴き終わった後の高揚感だけではなく、聴き手に何か考えるきっかけを与えてくれるというか。
このアルバムを聴いた人が共感してくれたり、逆に反発したり、そういう意見が生まれてきたら自分の音楽には意味があるんだと思います。音楽やアートというのはメンタルな部分が動かされて、そこで新たな何かが生まれるという作用を持っている数少ないジャンルだと思うので、自分もそうあれたらいいなと。
──なるほど。
それこそ音楽が持ってる特殊な力だと思うし、常にそういう働きができたらと思いますね。歌詞に出てくる言葉も言い回しも、それは1つの表現。そこから生まれる人それぞれの感情とか思いとかが一番重要な部分かなって思います。
──今話したような音楽に対する姿勢って、徐々にできていったものだと思いますが、そういう考えにたどり着いた、気付いたのっていつくらいだったんですか?
10年やった後ですね。それまで支えてくれたファンの気持ちとか、一緒に同じ時代を歩いてきた人たちの声とかが、そのときその時代の世界というか社会というか、そこにリンクしてくることに気付いたんです。改めて音楽ってリアルなものだなっていうのをすごく実感して。でも、音楽は決して思想ではないと思ってます。だからこそいろんな人たちと共有できるし。そういったことに気付いたのは、やっぱり音楽をある程度やってきてからですね。
──年齢を重ねて大人になって、いろんな考え方ができるようになってきたからこそなんでしょうか。
そうですね。
──個人的に初期からTHE MAD CAPSULE MARKETSの作品を聴いてきましたが、特に2000年前後の作品からは歌詞に少しずつ重みが加わってきて、聴き流せないものに進化してきたと感じていたので、今の話を聞いてすごく腑に落ちました。
音楽はすごいですよね。代わりになるものってないなと思うし。すごくモヤッとしていても芯の部分は伝わるというか、言葉がサウンドに乗ることで全然違う作用があると思います。
CD収録曲
- #3 INTRO
- WORKING CLASS
- DISTORTION
- posi-JUMPER
- sTEP COde
- Dry your tears
- coLors
- Sunshine glow
- PEOPLE POWER
- DREAMER
- We're not alone (AA= Ver.)
- #3 OUTRO
初回限定盤 / "AA-ID (All Animals' Identify Document)"エンブレムワッペン封入
AA=(えーえーいこーる)
2006年までTHE MAD CAPSULE MARKETSで活動した上田剛士(Vo, B, Programming, Produce)によるソロプロジェクト。プロジェクト名はイギリスの作家、ジョージ・オーウェルの小説「動物農場」に登場する言葉「All Animals Are Equal」に由来する。2008年10月に1stシングル「PEACE!!!」をリリース。以後、アルバム2枚とDVD1枚を発表したほか、精力的なライブ活動を展開してきた。また、社会意識も高く、アルバムの売り上げの一部を環境保全団体「WWWF」へ寄付。2011年3月には東日本大震災被災者への義援金を募るべく、チャリティTシャツを販売し、その収益の全額を寄付した。さらに、復興支援プロジェクトAA=AiDを立ち上げ、さまざまなミュージシャンと制作した楽曲「We're not alone」を発表している。12月にはレーベル移籍第1弾アルバム「#3」をリリース。