4s4ki|目指すはハイパーポップを超えたカオス

4s4kiのメジャーデビューアルバム「Castle in Madness」が7月7日にビクター・ SPEEDSTAR RECORDSよりリリースされた。

作詞、作曲、編曲、DTMでのトラックメイク、ピアノでの弾き語りなど、すべてを1人でこなしつつ、同世代を中心とするアーティストとの柔軟なコラボレーションにより、その音楽性を拡張してきた4s4ki。近年は世界的なトレンドであるハイパーポップ(トラックやボーカルに過剰なエフェクトをかけるなど、既成概念に囚われないサウンドメイクが特徴的な楽曲を総称する音楽ムーブメント)に共鳴したサウンドのアーティストとしても国内外から支持を集めており、海外アーティストも迎えたメジャーデビューアルバムは、彼女が「自己サイコ記録更新しました ^_^」と語る通り、今まで以上にスケールアップした作品となっている。

音楽ナタリーでは本作の発売を記念して4s4kiにインタビュー。そのルーツから話を聞きつつ、アルバムの制作エピソードや、8月に出演する野外ロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL '21」への意気込みなどを語ってもらった。また特集の最後には、アルバムに参加したアーティストから寄せられたコメントを掲載している。

取材・文 / 三浦良純 撮影 / 後藤倫人

ルーツはネットラップ

4s4ki

──2018年に術ノ穴からインディーデビューし、多彩な活動を続けている4s4kiさんですが、音楽ナタリーの特集に登場するのは今回が初なので、そのルーツからお話を聞きたいです。4s4kiさんがアーティスト活動をするうえで、特に影響を受けたカルチャーなどはありますか?

学生時代に引きこもってDTMを始めたんですけど、その頃はネットラップ(2000年代後半から2010年代前半にかけて、ニコニコ動画などを中心に盛り上がったシーン。釈迦坊主、電波少女、Jinmenusagiらを輩出)がすごく好きでしたね。でも自分の周りでは、ネットラップ界隈が好きな人がいなくて。同級生で聴いているのは私だけなんじゃないかって優越感が当時はありました。

──今回のアルバムに参加している釈迦坊主さんもネットラップ出身ですよね。個人的な話をすると、自分が4s4kiさんを初めて観たのも電波少女のライブだったので、やはりネットラップシーンのアーティストというイメージがありました。

釈迦さんも電波少女もファンとしてめっちゃ聴いてたので、コラボしたり、ライブに誘ってもらえたりして、すごくうれしかったですね。活動を始めた頃、私は謎のアイドル箱のようなライブハウスでもライブをしていたんですけど、全然お客さんがいなくて、「チェキとかやったほうがいいのかな」とか思ってたんですよ。そんなときに釈迦さんが私のことを見つけてくれて、イベントに出させてもらえるようになったんです。

──ルーツであり、恩人という感じなんですね。

シンプルに尊敬している先輩ですね。あと音楽的なルーツで言えば、その前にヒップホップダンスを習っていて。今の活動であまりヒップホップを意識はしていないんですけど、そこでヒップホップの文化とかリズムの取り方を知ったことはルーツの1つとしてあるかもしれないです。

──マンガやゲームなど、音楽以外で影響を受けているものはありますか?

マンガもゲームも好きですけど、アニメが特に好きで。幅広くいろいろ観てきたと思います。その中でも特に好きなのは「コードギアス」。私ずっと中二病なんですよね(笑)。中二っぽい作品が好きだし、そういうキャラが出てくるとエキサイトしちゃいます。

──「I LOVE ME」(YouTubeでの再生回数が100万回を超える人気曲)のリリックに「今もやっぱり 可愛いな綾波 昔アニメが好きでいじめられた高橋」とありますが、これはアニメが好きでいじめを受けた過去を歌ってるんですか?

いや違います(笑)。同級生に高橋くんっていう男の子がいて、典型的なアニメオタクで、すごく面白くて、彼とずっとアニメの話をしてたんですよ。でも高橋くん、クラスでめちゃめちゃ浮いてて、いじめられっ子だったんですよね……それを思い出して書きました。今、高橋くん何してるのかな。

表現したいことにスキルが追い付いてきた

──4s4kiさん自身がアニメキャラっぽい容姿になってきたというか、デビュー当時からタトゥーも増えて、ビジュアルのインパクトが強くなった印象があります。ビジュアルも含めてその世界観を表現しようと意識している面はありますか?

中途半端にアーティスト気取りな人にはなりたくないなと。タトゥーは20歳の頃に初めて入れて、「アーティストとして生きていくぞ」という決意で増やしていきました。「もうバイトとかしないぞ!」「ほかの仕事ができない見た目にしたろ!」みたいな(笑)。

──決意の表れだったんですね。

そうですね。昔、すごくヴィジュアル系が好きな友達にライブに連れて行ってもらったことがあって、そこで見た奇抜なファッションとかメイクに影響を受けた面もあるかもしれないです。

4s4ki

──2019年に“アサキ”から“4s4ki”に名前の表記を変えたのはどのような理由があったんですか?

これはエゴサーチのためだけですね(笑)。“アサキ”だと検索したときに違う人がヒットしちゃうことが多くて、スタッフとも相談してヒットしやすい表記を考えました。4じゃなくて△にする案もあったんですけど、数字に落ち着きましたね。

──今もエゴサーチはよくされてるんですか?

めっちゃしちゃいますよ! ふふふ(笑)。どの曲が人気なのかとか、自分のファン層がどういう人たちなのか興味本位でチェックしてます。

──ファン層についてどのように分析していますか?

最近は若い女の子のファンが増えてきて、“生きづらさ”を歌った私のリリックに共感してくれたり、救いがある曲を好きになってくれたりしてるなと。一方で、音楽好きな方たちは、私の最近の尖った曲たちに興奮してくれてるみたいですごくうれしいです。

──YouTubeのコメント欄が顕著ですが、最近の4s4kiさんは海外人気もすごいですよね。

めっちゃうれしいですね。国内にこだわらず、全世界に向けて発信していきたいです。とはいえ、海外色に染まりすぎないようにしたいとも思っていて。日本のカルチャーをルーツにしつつ、音楽的には世界に通用するハイブリッドなアーティストになりたいですね。

──音楽性について、同世代アーティストとのコラボアルバム「おまえのドリームランド」(2020年4月配信)で一気に幅が広がって、Masayoshi Iimoriさんをプロデューサーに迎えたEP「遺影にイェーイ」(2020年8月配信)でさらに尖った印象があります。

当初から自分のできる範囲で好きなことをやっていたんですけど、やりたいことに自分のスキルが追い付いていなくて。どんどんスキルが上がってきた結果かなと思います。2019年に名前の表記を変えてプライベートレーベル「SAD15mg」を立ち上げたあたりから攻めていこうという気持ちはあったんですけど、大きな変化はやっぱり「おまえのドリームランド」ですかね。いろんなカッコいいアーティストと一緒に曲を作って、その中で「そういうふうに作るんだ!」って学ぶところもあって、自分のスキルも上がってきたのかなとは思います。今回のアルバムは「おまえのドリームランド」の進化系ですね。

──「おまえのドリームランド」では、今回のアルバムに参加しているトラックメイカーのKOTONOHOUSEさん、gu^2さん、GigandectさんからGokou Kuytさん、Rin音さんといった若手ラッパー、アイドルのrinahamu(ex. CY8ER、BiS)さんまで幅広いアーティストとコラボしていますが、どのように出会ったんですか?

友達の友達とか「はじめまして」の人と遊ぶのがすごく好きなんですよね。そういう遊びの場で「あなたが〇〇さんだったんですね!」「曲知ってます!」ってアーティストと知り合うことが多くて。コラボしているアーティストはプライベートから仲よくなって一緒に曲を作るようになった人たちがほとんどですね。意見も言いやすいし、一番信頼の置ける人たちです。

「ササクレクトに恩返しをしたい」という気持ち

──ビクターからのメジャーデビューはファンにとってすごくうれしいニュースだったと思いますが、メジャーデビューが決まったとき、ご自身はどんな気持ちでしたか?

もちろんめちゃめちゃうれしかったです。術ノ穴と契約したときもスタッフから「ぜひメジャーデビューを目指してほしい」と言ってもらっていて、1つの目標にしていたので「来たぞ!」という気持ちでした。それに、よりドープなことをできる、それをOKと言ってくれる人たちがいる会社でメジャーデビューできたことがうれしくて。

──よき理解者を得たという感じですか?

その通りですね。私のやりたいことを尊重しつつ、その規模を大きくしてくれて。

──ビクターからメジャーデビューしつつも、術ノ穴の皆さんとは今後も一緒に活動していくんですか?

ビクターがレーベルで、術ノ穴が立ち上げたササクレクトが事務所というチームです。術ノ穴のスタッフさんがいなかったら、私はどこの事務所でもクビだと思うんで(笑)。術ノ穴とは4年目なんですけど「なんで見放さないんだろう」と思うくらい、とにかくずっと迷惑をかけてきたんです。ササクレクトという会社に恩返しすることが、自分の音楽のモチベーションにもなってます。自分のためだけだったら、活動がマイペースになっちゃう部分があると思うし、できるものも限られてくるんですけど、恩返ししたいという気持ちがあると曲の作り方もちょっと変わるんですよね。