ナタリー PowerPush - 1966 QUARTET×槇原敬之
クラシックとポピュラー音楽のヒミツの関係
クラシックはダンスミュージックの祖
槇原 クラシックって、ダンスミュージックの祖みたいなところがあるよね。王様とか貴族が踊るための音楽だから。円舞曲とかバロックとかさ、素敵じゃん。
林 そうか。舞踏会とか。
槇原 豪華で品のある趣味やんなって思いますよね。わきまえた音楽っていうところが魅力かなあと思います。あくまで主役は踊る人じゃないですか。その人たちがエレガントに見えるように、または楽しく踊れるようにひたすら演奏する音楽なんだけど、そこに華がある感じが好きです。
──1966の皆さんもライブで「お客さんが楽しんでくれるように」と意識はしますか?
松浦 そうですね。The Beatlesの楽曲をやってよかったなって思うのは、お客さんが歌えるっていうことなんですよ。
槇原 おお!
花井 そう。この間も口ずさんでるおじさんがいたね。
松浦 しかもうちらの演奏には歌詞がないから、そうやって歌ってもらえるし、オリジナルも共有できるというか。頭の中で同じものが鳴ってるっていうこの空間はThe Beatlesをやってよかったなって。
槇原 わかるわあ。やっぱり自分も気持ちよく演奏してて、お客さんも口をパクパクさせてくれたりすると、本当にうれしいよね。そういうとき、自分たちがもう何であっても構わないなって思うでしょ。
1966全員 うんうん。
槇原 その音楽であれば、自分たちに名前がなくてもいいって思う瞬間が絶対来るよね。
花井 わかります。
松浦 そのときの空気感、一体感っていうのが……。
槇原 もうたまらんよね。脚光を浴びるための演奏家もいるんだけど、僕なんかはどっちかっていうと調和して、いつの間にか客席とステージの区別がつかないような音像になっていく感じが好きですね。
敷居を低くする運動
槇原 でも画期的だね、1966 QUARTETは。
──クラシックの素養のある人たちがポピュラー音楽の至高を演奏するという、素晴らしい形で2つを融合させてるわけですからね。
槇原 そう。しかもお客さんが歌ったというのは、普通に思うかもしれないけどすごいことだと思う。すごいよ。
──私もそう思います。クラシックって主に“鑑賞”するものですし。
松浦 そうなんですよ。ライブって立ったりしてもいいけど、クラシックのホールではできないじゃないですか。それがすごいもどかしいっちゃもどかしいんやけど、だからこそ歌ってくれたりちょっと足踏みしてくれたりするのがうれしいし、クラシックではないこともどんどんやって!って思う。
槇原 いいことやね。僕、今年のお正月にウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団を観てきたの。
1966全員 へえ。
槇原 そのとき「ラデツキー行進曲」ですごい手拍子が起きて。その瞬間に「……みんな好きなんじゃん」みたいな(笑)。なんかあと紙とか飛ばしてたよ、ポーンって。
松浦 楽しそう(笑)。
槇原 だから、僕らが思ってるよりもクラシックはもっと遊び心が強い音楽なんだということを完全に感じて帰ってきたね。
花井 そうですよね。あの曲とか、海外の人がやってたりすると、ものすごいおちゃらけてるし盛り上がりますよね。
松浦 固くないよっていうのがわかってもらえたらいいな。
槇原 そう。歴史的なものであることは確かなんだけど、そこまで肩肘張って聴くものじゃないよと。
松浦 全然ジーパンでいいから聴きに来てくれればって思うんですけど、なんかキレイな格好して行かなきゃって思われてたり。
槇原 そうそう。で、そこでまず観て、「次はフォーマルにしていこう」って思うのが理想だよね。最初にフォーマルにして行くので疲れてるから、みんな。
松浦 そうですね。
槇原 だからまずはこの1966 QUARTETとかを聴いて、とにかく「カルテットって素敵」とか「ピアノって素敵な楽器だな」とか単純に感じてほしいですよね。敷居を低くする運動ですね。
1966全員 はい!(笑)
収録曲
- Abbey Road Sonata:1st movement
- Abbey Road Sonata:2nd movement
- Abbey Road Sonata:3rd movement
- Abbey Road Sonata:4th movement
- Yesterday
- A Hard Day's Night
- All My Loving
- Please Please Me
- Penny Lane
- Lady Madonna
- Across The Universe
- The Long And Winding Road
- Hey Jude
1966 QUARTET(イチキュウロクロクカルテット)
The Beatlesの初代担当ディレクター・高嶋弘之が送り出す、クラシックのテクニックをベースに洋楽をカバーする女性カルテット。現メンバーは松浦梨沙(Violin)、花井悠希(Violin)、江頭美保(Piano)、林はるか(Cello)。The Beatles来日の年である「1966」をユニット名に冠し、2010年11月「ノルウェーの森 ~ザ・The Beatles・クラシックス」で日本コロムビアよりCDデビュー。2011年11月にQUEENをカバーした2ndアルバム「ウィ・ウィル・ロック・ユー ~クイーン・クラシックス」を発売したのち、メンバー交代を経て2012年11月にマイケル・ジャクソンをフィーチャーした「スリラー ~マイケル・ジャクソン・クラシックス」を完成させる。2013年6月、再びThe Beatlesに回帰した4thアルバム「Help! ~Beatles Classics」を発表。これが好評を博し、2014年6月に3作目のThe Beatlesカバー集「Abbey Road Sonata」をリリースした。
槇原敬之(マキハラノリユキ)
1969年大阪府生まれのシンガーソングライター。1990年にデビューし、1991年の3rdシングル「どんなときも。」がミリオンセラーを記録。その後も「冬がはじまるよ」「もう恋なんてしない」「僕が一番欲しかったもの」などヒット曲を連発し、2004年にはアルバム総売上枚数が1000万枚突破の快挙を遂げる。2010年11月には自主レーベル「Buppu Label」を立ち上げ、リリースを続けている。2014年は1月にカバーアルバム「Listen To The Music 3」、2月にシングル「Life Goes On~like nonstop music~」をリリースした。また他アーティストへの楽曲提供も多数あり、代表作はSMAPの「世界に一つだけの花」など。