ナタリー PowerPush - 1966 QUARTET×槇原敬之
クラシックとポピュラー音楽のヒミツの関係
うちらがやる前からクラシックとThe Beatlesは結びついてる
──2組それぞれのThe Beatles観を伺いたいんですが、槇原さんにとってはルーツミュージックの1つになるんでしょうか。
槇原 間接的にルーツですね。僕は1969年生まれなので、ギリ通ってないんです。一足飛びにYMOに行っちゃって、YMOで初めて「Day Tripper」を聴いたんですよ。ただ、今の音楽界の皆さんの源流に脈々とThe Beatlesがあるので、親しんではいます。
──The Beatlesの楽曲の魅力ってどんなところだと思いますか?
槇原 やっぱり、品のよさじゃないかなと思いますね。
松浦 うんうん。
槇原 ロックのアレンジで演奏するからちょっとやんちゃに聞こえるんですけど、本質的には、一朝一夕では手に入れられないような技術の高さと、様式美みたいなものがあると思います。あとホントにキレイ、曲が。やっぱり時代が大きいんですかね? ポップスやロックが生まれる狭間っていう。
──1966の皆さんはどうでしょう。3作目のカバーアルバム制作、「Abbey Road」をソナタ形式に仕立てるという大胆な挑戦を経た今、改めて思うThe Beatlesの奥深さとは。
松浦 今回はクラシックの曲と絡ませて作ったんですけど、すごくキレイにマッチすることに初めて気付いたんですよ。今までは、クラシックはクラシック、The BeatlesはThe Beatles、その両方を知ってる私たちだからこの1966があるんだよって分けて考えてたんです。でも今回ソナタのアレンジにして、ピアノはクラシックの楽譜そのままを弾いて、バイオリンはThe Beatlesのメロディを弾いてるのに違和感がないんですよ。
槇原 なるほどね。あの1~4曲目の「Abbey Road Sonata」は、見事やね。
Abbey Road Sonata:4th movement / 1966 QUARTET
花井 でもそれは逆に言うと、探してきたらぴったり合う曲があったってことなんですよ。それにはすごいびっくりして。アレンジャーさんはクラシックの和音を知ってたのかどうかわからないけど、偶然の一致なのか、天才なのか。もうポールたちはその(クラシック)曲を聴いてメロディを作ってたのかなっていうくらい。
松浦 うちらがやる前からクラシックとThe Beatlesはちゃんと結びついてるんじゃないかってことが、今回一番の大発見なんですよ。The Beatlesの楽曲が美しいっていうのは前から知ってたんですけど、そもそも曲自体がしっかりクラシックと絡み合ったメロディやから、The Beatlesを知らない世代の人もこんなにすんなりと入ってきてくれたんだって。
槇原 むしろ音楽的に見ると、みんながThe Beatlesをカバーするのはすごく自然なのかもね。うわー、素敵な話だー。
アビーロードスタジオに宿るもの
──今作で、1966の皆さんは「アビーロードスタジオに行ってレコーディングする」という前々から公言していた夢が実現しましたね。実際のスタジオはどうでしたか?
1966 QUARTET・ロンドンレコーディング映像 Part1
花井 自分の中で“The Beatlesがレコーディングしていたスタジオ”っていうイメージがずっとあったので、古い作りのスタジオなのかなと思って入ったら、建物から内装までけっこう近未来な感じで。
松浦 でも、スタジオの階段の扉を開けた瞬間、「ここになんか宿ってる!」ってすごい思いましたよ。あの匂いは今でも覚えてます。
槇原 えっ、匂いってどういう?
松浦 なんて言うのかな……木の匂いなんですけど、「あ、なんかいろんな人がいる、ここに」って感じたんですよ。いろんな人がここで音楽を奏でてきたなって。なんかスッキリしてない空気感っていうのかな。「淀んでる」って言ったら言葉は悪いんですけど……(笑)。
槇原 いや、むしろ淀んでるかもね。
松浦 いつもの「はい、スタジオ入ります」っていうスッキリ感じゃないなっていう。そこで一度身震いしましたね。
槇原 うわー、それは行かないとわかんないことだ。この話興奮する!(笑)
松浦 あと、自分たちでいろいろ挑戦して作っていこうって思える空間なんです、あそこは。
槇原 なんかこう新しいものを求めてしまう空間というか?
松浦 はい。普通はディレクターさんがいたりして意見をもらいながらやるんですけど、ブースの扉を閉めた瞬間、うちら4人だけ。で、4人がそれぞれに向かって演奏する。1人ひとり個々に、じゃないんですよ。今まで、花井は花井の音だけ追っかけてるっていうようなことしかしてこなかったけど、すごく他人のことを考えてアンサンブルを作ろうっていう感覚になったんですよね。
江頭 だからコンサートをしてるみたいな、そういう感覚で。
槇原 ほおー。打ち込みでやってる僕とはまったく対極ですね。実を言うと僕は、YMOから音楽に入ったくらいだから、とにかく一番にコンピュータと自分の距離を考えてたんです。ここで音楽は生まれていくと。実際に今は3畳ぐらいのところで曲作ってるんですけど(笑)。
──ちなみに機材は何を使ってるんですか?
槇原 機材は2年ぐらい前のMac Proと、ヤマハの最近出たCP4 STAGEっていうMIDIキーボードだけです。あとは全部ソフトウェアで作ってて。
松浦 へえー。それに向き合って曲を作ってるんですね。
槇原 そんなんと戦いながらやってきたから、僕の中では「アビーロードスタジオでやりたい」とか、そういう目標とか憧れがないまま音楽をやってきたの。で、花井ちゃんから「アビーロードでやったんです」って聞いたときに自分を振り返ったら、僕にはそういう場所はまったくないな、うちの家の3畳だなって。そう思ってただけに、ニューエイジな彼女たちがアビーロードにほくほくとレコーディングをしに行くというのはどんな気持ちなのか、実はちょっとわからなかった。だけど今の話を聞いて、僕も意味もなくアビーロードスタジオに行きたくなっちゃいましたよ。
松浦 でも、うちらも行って初めて気付いたことですよ。行くまでは「やったあ! 行けるー」みたいな(笑)。
花井 漠然と憧れてただけで。でも行って空気感に触れたときに「あ、違う」ってすごい説得力とともに感じたんです。
槇原 外国に行かなくてもちゃんといい音を自分の世界で作るっていうことに命を賭けてきたんですけども、今の話を聞いてるとやっぱりちょっと違うっぽいですよね。モチベーションとか。
収録曲
- Abbey Road Sonata:1st movement
- Abbey Road Sonata:2nd movement
- Abbey Road Sonata:3rd movement
- Abbey Road Sonata:4th movement
- Yesterday
- A Hard Day's Night
- All My Loving
- Please Please Me
- Penny Lane
- Lady Madonna
- Across The Universe
- The Long And Winding Road
- Hey Jude
1966 QUARTET(イチキュウロクロクカルテット)
The Beatlesの初代担当ディレクター・高嶋弘之が送り出す、クラシックのテクニックをベースに洋楽をカバーする女性カルテット。現メンバーは松浦梨沙(Violin)、花井悠希(Violin)、江頭美保(Piano)、林はるか(Cello)。The Beatles来日の年である「1966」をユニット名に冠し、2010年11月「ノルウェーの森 ~ザ・The Beatles・クラシックス」で日本コロムビアよりCDデビュー。2011年11月にQUEENをカバーした2ndアルバム「ウィ・ウィル・ロック・ユー ~クイーン・クラシックス」を発売したのち、メンバー交代を経て2012年11月にマイケル・ジャクソンをフィーチャーした「スリラー ~マイケル・ジャクソン・クラシックス」を完成させる。2013年6月、再びThe Beatlesに回帰した4thアルバム「Help! ~Beatles Classics」を発表。これが好評を博し、2014年6月に3作目のThe Beatlesカバー集「Abbey Road Sonata」をリリースした。
槇原敬之(マキハラノリユキ)
1969年大阪府生まれのシンガーソングライター。1990年にデビューし、1991年の3rdシングル「どんなときも。」がミリオンセラーを記録。その後も「冬がはじまるよ」「もう恋なんてしない」「僕が一番欲しかったもの」などヒット曲を連発し、2004年にはアルバム総売上枚数が1000万枚突破の快挙を遂げる。2010年11月には自主レーベル「Buppu Label」を立ち上げ、リリースを続けている。2014年は1月にカバーアルバム「Listen To The Music 3」、2月にシングル「Life Goes On~like nonstop music~」をリリースした。また他アーティストへの楽曲提供も多数あり、代表作はSMAPの「世界に一つだけの花」など。