ナタリー PowerPush - 1966 QUARTET×槇原敬之
クラシックとポピュラー音楽のヒミツの関係
つらい詞作り、ウッキウキのメロディ作り
──1966の皆さんから槇原さんへ、音楽制作について聞きたいことはありますか?
林 私、すごくお聞きしたかったことがあって。
槇原 なんですか?
林 歌詞から作られるっていうふうにお伺いしたんですけれども。
槇原 そうなんです。
林 詞やメロディを作るときって、いろいろ音を出しながら思い付いてくるのか、それともどこかから降ってくるのか。どうやって曲を作ってらっしゃるんですか?
槇原 最近は、こんなことを歌ってる歌を書きたい!っていうところから始まるんですね。例えばそうだな。「お年寄りには優しく」というテーマで詞を書きたいとするじゃない。もう自分が気に入った「お年寄りには優しく」ができるまで、書きまくるんですよ。紙だったらノート1冊使うぐらい、1曲に対して。
1966全員 へえー。
槇原 で、できあがったときは、♪ピンポーンって音が頭の中に聞こえるような感じがあって。いくらカッコいい言葉を最後に言っても「まだ終わりじゃない」ってこともあるので。それで詞が書き上がると、画面上に残しておいてそのまま音楽ソフトを立ち上げて、口元にマイクをガッて持ってきて、ピアノの音を出しながら歌詞を見つつ歌うんですよ。メロディ作りは、誰かもう1人横に座ってる感覚を持ってるんですね。いつも。
1966全員 おおー。
槇原 僕の一番好きな時間ですね。詞は書く時間はつらくてつらくて……!
松浦 えっ? めちゃくちゃいい詞書かれるじゃないですか!
槇原 めちゃくちゃしんどいよ、もう本当に。半泣きですよいつも。
林 すごく意外です。
槇原 いや、好きですけど。鍛錬する苦しみとはまた違って、自分の中で混乱してくるんですよね。自分の欲と、書きたいこととがすごくせめぎ合うんですよ。欲というのは、「『この詞の表現いいですね』って言われたい」みたいな気持ちもあるし(笑)。
──逆にメロディの構築はすんなりと?
槇原 もうウッキウキですね!
1966全員 あははは!(笑)
槇原 歌いながらなので、ほぼなんにも考えてないですね。ただ1つだけ自分の中で意識してるのは、例えば「雨が降っている」っていうフレーズを(「め」にアクセントを付け訛りを効かせて)「雨が降っている」とはやらないとか。
江頭 イントネーションっていうことですか?
槇原 しょうがなく2番の歌詞がそうなっちゃうときはあるけれど、せめて1番は話している言葉のニュアンスに近いように。だから聴いている人は、話しかけられるのに近い感覚でメロを受け止めるかもしれないですね。
花井 ああ、なるほど。だから槇原さんの曲ってセリフのように詞が聞こえてくるんですね。そういうことだったんだ。
江頭 リアルだよね。
林 うんうん。
松浦 スルッと入ってくるもんね。初めて聴いた曲でも全っ然違和感を感じたことがないんです。
槇原 いや……今マジで照れてます。褒められるの……うれしいな!
1966全員 あははは!(笑)
弦の魅力、カルテットの魅力
──槇原さんはご自身の曲でもシンフォニックなアレンジを効果的に入れたり、「MAKIHARA NORIYUKI SYMPHONY ORCHESTRA CONCERT "cELEBRATION"」で大編成のオーケストラを従えた経験もあったりと、管弦楽に強い思い入れがあるのを感じます。
槇原 大好きですね。
──槇原さんが考える弦のよさってなんですか?
槇原 弦の魅力は、限りなく声に近いというところですね。
松浦 ホントそうですよね。
槇原 オーケストラのような大きいアンサンブルで弾くと、合唱みたいに聞こえるんですよね。僕は特にビオラみたいな、音と音をつないでるような楽器がすごい好きなんですよ。それが抜けるとスッカスカで、フワッと入った瞬間のあの「ワー!」みたいな高揚感。ポップスになんとかそれを入れたいというのは常々思ってました。きっと昔観に行ったポール・モーリアとかのコンサートが素敵だったからですね。
──では、カルテットという形態の魅力はどういうところだと思いますか?
槇原 やっぱり役割がハッキリと見えるっていうところだよね。
松浦 そうですね。
槇原 ちょっと言い方は悪いけど、大阪っぽく言うとかしまし娘的な。
松浦 はははは!(笑)
花井 どういう意味だ?
槇原 なんかこう、ガッとまず行く人がいて、それを受ける人がいて。でも3人があわさってこそのハーモニー、みたいな感じ。ハーモニーってオーケストラのほうがわかるような気がするんですけど、僕は逆にハーモナイズする気持ちよさはカルテットの醍醐味やと思うなあ。あと緊張感! 大勢いると、「あっ! 間違えちゃった」ってアリやん?
1966全員 あはは(笑)。
槇原 でもカルテットの場合はナシやん。
花井 ナシですね。
槇原 まあアリなんだけど。
松浦 (メンバーに向かって)ナシですよ!?
槇原 はははは!(笑) でもカルテットはそうやって4人でおしゃべりするみたいに演奏してるのがすごく好きだなあ。
収録曲
- Abbey Road Sonata:1st movement
- Abbey Road Sonata:2nd movement
- Abbey Road Sonata:3rd movement
- Abbey Road Sonata:4th movement
- Yesterday
- A Hard Day's Night
- All My Loving
- Please Please Me
- Penny Lane
- Lady Madonna
- Across The Universe
- The Long And Winding Road
- Hey Jude
1966 QUARTET(イチキュウロクロクカルテット)
The Beatlesの初代担当ディレクター・高嶋弘之が送り出す、クラシックのテクニックをベースに洋楽をカバーする女性カルテット。現メンバーは松浦梨沙(Violin)、花井悠希(Violin)、江頭美保(Piano)、林はるか(Cello)。The Beatles来日の年である「1966」をユニット名に冠し、2010年11月「ノルウェーの森 ~ザ・The Beatles・クラシックス」で日本コロムビアよりCDデビュー。2011年11月にQUEENをカバーした2ndアルバム「ウィ・ウィル・ロック・ユー ~クイーン・クラシックス」を発売したのち、メンバー交代を経て2012年11月にマイケル・ジャクソンをフィーチャーした「スリラー ~マイケル・ジャクソン・クラシックス」を完成させる。2013年6月、再びThe Beatlesに回帰した4thアルバム「Help! ~Beatles Classics」を発表。これが好評を博し、2014年6月に3作目のThe Beatlesカバー集「Abbey Road Sonata」をリリースした。
槇原敬之(マキハラノリユキ)
1969年大阪府生まれのシンガーソングライター。1990年にデビューし、1991年の3rdシングル「どんなときも。」がミリオンセラーを記録。その後も「冬がはじまるよ」「もう恋なんてしない」「僕が一番欲しかったもの」などヒット曲を連発し、2004年にはアルバム総売上枚数が1000万枚突破の快挙を遂げる。2010年11月には自主レーベル「Buppu Label」を立ち上げ、リリースを続けている。2014年は1月にカバーアルバム「Listen To The Music 3」、2月にシングル「Life Goes On~like nonstop music~」をリリースした。また他アーティストへの楽曲提供も多数あり、代表作はSMAPの「世界に一つだけの花」など。