ナタリー PowerPush - 1966 QUARTET×槇原敬之
クラシックとポピュラー音楽のヒミツの関係
1966 QUARTETが心地よく聴ける理由
槇原 僕、今日いっぱい聞きたいことがあるんですけど、聞いていいですか?
1966全員 お願いします!
槇原 まず第一に、1966 QUARTETはすごくハイブリッドな感じがするんですね。こういうコンセプトで、この2014年に活動しているということも含めて。今までいろんなインストゥルメンタルのグループの方々が“歌モノを演奏する”ということにトライしてきたけど、これまでにないくらいすんなりと聴けて、気持ちよかったんですよ。彼女たちの演奏で、The Beatlesの楽曲はすっごくいい曲だって気付かされました。
松浦 えー、うれしい!
槇原 彼女たちに新しい感じがしたのは……例えばThe Beatlesって、同じ音階の1音がずっと続くメロとかあるじゃないですか。♪タタンタンタンタンタンタンって。それをインストでやると平坦だし、弾いてる側もちょっとショボンってなるでしょう(笑)。たいがい失敗してる感じのものって、全部譜割り通りに弾いちゃってるんです。例えば僕の曲をインストゥルメンタルでやってくださる方の音源を聴いていても、少しオリジナルを追いすぎてるところがあって。でも1966は、ちょっと自分たちの感覚を入れてる。ある程度メロディの長さを自分たちで調節して演奏してるのが、すごく新しいなって。だからたぶん心地よく聴けるんだと思う。
1966全員 ああー。
槇原 それは誰が? みんなで決めるの?
松浦 そこが1966 QUARTETとして一番勉強してきたところなんですよね。初めは、私たちの課題はむしろそこだったんです。譜割り通りですごいつまらなくて、ずっとプロデューサーに言われてたのが「スーパーのBGMだよ」。
槇原 それ! スーパーで耳をすますとだいたいそうだよね。
松浦 で、まずやったのがThe Beatles通りに弾くこと。その次に、音符は譜面通りなんだけど、歌って同じ「ラ」でも100通りの「ラ」があるから、それを全部自分たちで解析しました。ここ微妙に低い「ラ」とか、ここからここの「ラ」はちょっとこうなってるぞ、とか。
槇原 ここの「ラ」はビブラート強いけど、こっちはしゃくっててとかそういうのを全部?
松浦 はい。初めはそこからです。それ以外に自分たちの引き出しがなかったから。でもそれを続けていくと、できるようになってくるっていうか楽しくなってくるんですね。自分で「ラ」を続けるっていうことに。
槇原 要は自分たちも歌う気持ちで。
松浦 そうなんです。ちゃんと理解した上で自分がカラオケで歌ってみるような感じで弾けば、自分なりのメロディになるじゃないですか。それが付かず離れずのバランスで、ちょっと自分のニュアンスを入れていくのもいいかなって。こういうふうにできるようになったのはきっと現場を踏んだのが大きいと思うんですよ。
槇原 いや、すごいと思う。聴いていて、作り手に一番近い感じでメロディを理解してるんじゃないのかなって思ってたんですよ。何よりもそこが1966 QUARTETの魅力だと思います。やっぱりスーパーの感じって心地よくなくて、何かせかせかしてたり、楽譜をプリントしたって感じでしょ。さらにクラシックの人たちが柔軟にそれをやるっていうのは、すごい努力があっただろうなって思って。
1966全員 (笑)。ありがとうございます!
音楽の啓蒙活動
槇原 僕、思わずツイートしたときがあったじゃん?「今、1966 QUARTETの新譜を聴いてます」って。(参照:槇原敬之 (Daviechan) on Twitter)
花井 はい、してくださって。ありがとうございました。
槇原 僕最近、啓蒙活動をやってて、音楽の。
江頭 啓蒙活動?
槇原 「偏るな」と。「とにかく失敗してもいいからいろんな音楽を聴け」と。そうしないと、10年後のミュージシャンやシンガーソングライターのことを考えて「ヤバいな」って思うんです。1つのことしかできない、音楽の楽しみをわかってない人がたくさん出ちゃうんじゃないかって。だからその中の1つとして僕のファンの人にも1966 QUARTETを聴いてもらいたくて。新しいものを知るってことにプラスして、The Beatlesのメロのキレイさも再確認できるし。
松浦 ホントキレイですよね。
槇原 The Beatlesの珠玉のメロディを、どうやってみてもダメにしちゃうものも多いわけよ。だけど彼女たちはThe Beatlesの根元にあるクラシックな感じをうまーく出しながらもすごくコンテンポラリーにやってて、「これやで、みんな!」みたいな。
1966全員 あははは(笑)。
槇原 こういうのを聴いてると、“よい音楽”の基準みたいものが聴き手の中で1つ増えると思うんです。だから、もちろん一般コンシューマーに聴いてもらいたい部分もあるけど、特にこれからミュージシャンになるぞとか、ポップスの世界でやっていくぞって思う人たちにぜひ聴いてほしい。なんか今は……基準がなさすぎる。僕が若い頃はクラシックのコンサートも、邦楽のコンサートも、和楽器のコンサートもなんでも行って、いろんな分野において“プロ”と言われてる人たちのコンサートをたくさん観たんだけど、今あまりにもそういう経験をしてない人が多くて。
1966全員 うんうん。
槇原 “よい音楽”なんて人の好き嫌いでしょって思うけど、僕はクラシックピアノを少しだけ勉強させてもらったときに、やっぱり感じたんですよ。基礎のある人とは、どうにも動かせないすごい差があることを。そういうのを興味として知ってほしい。無理やりに「基礎を勉強しておいたほうがいいよ」っていうわけじゃなくて、「基礎をちゃんとやってた人たちはこういうふうになるんだよ」っていうことを、未来にミュージシャンになろうと思ってる人たちにはもっと知ってほしい。そういう活動を今、勝手に自分でしていて。
松浦 うれしいよね。
槇原 きっと今の皆さんの力は、ちっちゃい頃から一生懸命お母さんとか先生に怒られながら練習してきた賜物ですよね。そこもみんなに知ってほしいの。ときには殺したろかと思うぐらい悔しい思いもしながら(笑)鍛錬して、その結果として今があると思うんだよね。あえて言うけど、やっぱり、“好き”っていうところで留まるのってイマイチなんだよね。
花井 うんうん。
槇原 すいません、すごく熱くなってしまいました。
松浦 いやいや、ありがとうございます!
収録曲
- Abbey Road Sonata:1st movement
- Abbey Road Sonata:2nd movement
- Abbey Road Sonata:3rd movement
- Abbey Road Sonata:4th movement
- Yesterday
- A Hard Day's Night
- All My Loving
- Please Please Me
- Penny Lane
- Lady Madonna
- Across The Universe
- The Long And Winding Road
- Hey Jude
1966 QUARTET(イチキュウロクロクカルテット)
The Beatlesの初代担当ディレクター・高嶋弘之が送り出す、クラシックのテクニックをベースに洋楽をカバーする女性カルテット。現メンバーは松浦梨沙(Violin)、花井悠希(Violin)、江頭美保(Piano)、林はるか(Cello)。The Beatles来日の年である「1966」をユニット名に冠し、2010年11月「ノルウェーの森 ~ザ・The Beatles・クラシックス」で日本コロムビアよりCDデビュー。2011年11月にQUEENをカバーした2ndアルバム「ウィ・ウィル・ロック・ユー ~クイーン・クラシックス」を発売したのち、メンバー交代を経て2012年11月にマイケル・ジャクソンをフィーチャーした「スリラー ~マイケル・ジャクソン・クラシックス」を完成させる。2013年6月、再びThe Beatlesに回帰した4thアルバム「Help! ~Beatles Classics」を発表。これが好評を博し、2014年6月に3作目のThe Beatlesカバー集「Abbey Road Sonata」をリリースした。
槇原敬之(マキハラノリユキ)
1969年大阪府生まれのシンガーソングライター。1990年にデビューし、1991年の3rdシングル「どんなときも。」がミリオンセラーを記録。その後も「冬がはじまるよ」「もう恋なんてしない」「僕が一番欲しかったもの」などヒット曲を連発し、2004年にはアルバム総売上枚数が1000万枚突破の快挙を遂げる。2010年11月には自主レーベル「Buppu Label」を立ち上げ、リリースを続けている。2014年は1月にカバーアルバム「Listen To The Music 3」、2月にシングル「Life Goes On~like nonstop music~」をリリースした。また他アーティストへの楽曲提供も多数あり、代表作はSMAPの「世界に一つだけの花」など。