第43回日本アカデミー賞で6冠を獲得した「新聞記者」の監督・藤井道人とプロデューサー・河村光庸が再び組んだ「ヤクザと家族 The Family」が、1月29日に全国公開される。
1999年、2005年、2019年──ヤクザという生き方を選んだ1人の男を、3つの時代から見つめる本作。変わりゆく社会の中で排除されていくヤクザの姿が、抗争ではなく“家族・ファミリー”の存在を軸に描かれる。今回初めてヤクザ役に挑んだ綾野剛と、組長役の舘ひろしが初共演を果たした。
本特集では綾野、藤井、そして主題歌「FAMILIA」を手がけた常田大希(millennium parade)の鼎談を掲載。さらに「極主夫道」作者・おおのこうすけをはじめ、笠井信輔、小林勇貴、シム・ウンギョン、横浜流星、横山由依の感想コメントも紹介する。
文・構成 / 金須晶子
俺、これ以上いい曲書けないかも……(常田)
──完成した作品をご覧になってみていかがでしたか?
綾野剛 感想を表現するには言葉では足りないぐらい、魂がえぐられました。今日まで生きてきて出会ったことのない感情です。エンドロールで歌詞が流れるのを観たとき、体内からあふれ出るものを必死に抑えても抑えきれなかった。自分にとって人生最愛の作品が生まれたと感じました。
常田大希 号泣しちゃいました。曲を作った過程とか関係なく、ただただ映画に持っていかれて。
綾野 勝手に涙があふれてくるような場面がたくさんあるんですが、なんとか。隣に(常田)大希が座っていたので、エンドロールの「FAMILIA」が流れ終わって、僕が泣いてたらびっくりさせてしまうかなと思い。会場が明るくなる前に涙を拭い、よし落ち着いたと思って大希のほうを向いたら、大希が号泣していて。ああ、こういうことかなと。言葉はいらないというか。この映画を完成まで導けたことに感謝しています。
藤井道人 もう思い残すことはないです。本編を編集しながら、常田さんの作った曲を聴いて、そう思えたんです。いつもどこか心残りに思いながら、次こそと思って生きてきたけど、もう思い残すことはない。だから次からどうしようかなと(笑)。
常田 わかる。俺、これ以上いい曲書けないんじゃないかな……(笑)。
──どういった経緯で常田さんに楽曲を依頼したのでしょう?
藤井 映画には主題歌が付きものですよね。この作品の話が立ち上がってすぐに企画を書いて、綾野さんに渡したんです。そうしたら、この脚本を読んだイメージで「常田さんが書く楽曲を主題歌にするのはどうでしょう?」と提案してくださったんです。そんなに素晴らしい機会があるんだったら、ぜひ僕もオファーしたいですと。綾野さんのおかげです。綾野さんも、いち俳優、いちスタッフとして、作品のすべてに関わってくれたので。
綾野 映画を観終わったあと、その世界を生きていない第三者の愛が、どうやってこの作品とお客様の懸け橋となってくれるのか? そう考えたとき、自分たちが心の中に宿している静かなマグマを治癒してくれるのは大希しかいなかった。2020年代の新しい景色を(曲に)入れられるのは彼なのではないかと伝えて、それを監督が取り入れてくださって今に至ります。特別なディレクションがあってオファーをしたわけでもなく、本来であればとても失礼なことだとは思いますが、そういったお願いも大希は全部受け止めてくれました。
──常田さんはオファーを受けてどう思われましたか?
常田 今おっしゃっていたように、お二人から特別なディレクションはほとんどなくて「この映画の音楽を頼みたい」と。「とにかくお前が思う最高のものを出してくれ」という気概あるオファーだったので、気合いを入れて向き合わなくてはと思いました。すごく純粋な気持ちで作れて、やりがいがありました。
最高です!とLINEしました(藤井)
──楽曲制作はスムーズに進みましたか?
常田 (綾野演じる主人公)山本賢治の不器用さはけっこう理解できるところがあって。自分の言葉で歌を紡ぐ、作るという基本的なところも、映画とリンクするところがあったかなと感じました。“ヤクザ”を題材にしている作品ではあるけれど、かと言って“ヤクザ映画”という印象はまったくなく。多かれ少なかれ誰しも生きていれば起こりうること、生きていれば感じるような普遍的なことが仮編集の時点で伝わってきたので、自分はそこに乗っかるだけでした。
綾野 (曲ができあがるまで)すごく速かった。仮編集を大希と観てから1週間ぐらいで「剛ちゃん、これ傑作よ。思い浮かんだのですぐ書くよ」と連絡をくれて、その1週間後に「ヤバいのできた」って連絡が来て。めちゃくちゃ速いなと。
藤井 すぐ常田さんに、最高です!とLINEしました。「あたりめえだろ」ばりに(返事が)来なかったですけど(笑)。
綾野・常田 (爆笑)
常田 俺もオフライン(仮編集)を観て、監督に「あなた天才ですね」って送った記憶が……。
藤井 僕はすぐ返信した。うれしかったから(笑)。
綾野・常田 (笑)
藤井 オフライン(仮編集)を観て、曲としてすぐに返してくれて。こんなに近いクリエイティブをしてもらった経験がなかったのでうれしかったです。
綾野 2人のことを客観的にすごいなと尊敬していますし、3人が3人でたたえ合えたのがよかった。
常田 本当にそう。作品に出ている役者の皆さんがすごかったし、誰1人欠けちゃいけないというぐらいしっくり来て。関わらせていただきありがとうございます。
エンドロールでまぶしいと思ったのは初めて(綾野)
──エンドロールでは「FAMILIA」の歌詞が映し出されますよね。
藤井 いろいろな思いがあるんですけど。常田さんが送ってくださったデモを聴いたとき、“レクイエム”というか、余韻というか……エンドロールにもちゃんとストーリーがあると感じて、そこも含めたすべてを映画にしたかったんです。そういった思いもあり、3人で話し合ってエンドロールに歌詞を付けることになりました。
綾野 歌詞が入っているエンドロールを観るとグッと来るね。
常田 自分が作ったもので号泣を加速させられるとは思ってなかった。それぐらい相乗効果がハマッていましたね。
綾野 “レクイエム”でもあって、でもどこか“讃美歌”であって、微かだけど、光しか見えない。エンドロールでまぶしいと思ったのは初めてでした。走馬灯のようにいろいろ思い返せましたし、「FAMILIA」が最後に入ったことで映画が完成したと思います。