弱きを助け強きをくじく義賊「怪傑ゾロ」とは？

ドラマ「ZORRO」場面写真

そもそも「怪傑ゾロ」というキャラクターってご存じですか？ 原作はアメリカの作家ジョンストン・マッカレーによる「怪傑ゾロ」（原題では「The Curse of Capistrano」もしくは「The Mark of Zorro」）という小説。架空のヒーローキャラで、スペイン領時代のメキシコを舞台に、盗賊でありながら弱きを助け強きをくじく正義の味方。日本でいえば鼠小僧のような義賊のキャラです。1919年（大正8年！）に発表された原作は、何度となく映像化され、日本で有名なのは1975年の「アラン・ドロンのゾロ」や米ABCで放送されたドラマの再放映、それとアントニオ・バンデラス主演による「マスク・オブ・ゾロ」（1998）あたりでしょうか。勧善懲悪、サーベルによる殺陣、キャッチーな「Z」のトレードマークなど、愛される要素がたくさん盛り込まれた一般大衆のヒーローであり、冒険活劇の決定版なんです。

日本初放送！「怪傑ゾロ」がドラマシリーズ「ZORRO」として蘇る

ドラマ「ZORRO」ビジュアル

覆面の男たちに襲われたアレハンドロはゾロに窮地を助けられるも、ゾロが去った後で残った覆面の男に殺される。一方、ゾロもカリフォルニア総督指揮下の兵士によって傷を負い、命を落とした。スペインにいたアレハンドロの息子は、父の訃報を聞き、カリフォルニア（劇中設定はメキシコ領時代）へ。そこで理不尽に傷つけられる罪なき人々を見た彼は、ゾロを受け継ぐことに……。
これまでアメリカはもちろん、イタリア、フランスで実写化され、おまけに日本のアニメにもなった「怪傑ゾロ」ですが、このたび日本初放送となるドラマ「ZORRO」は、2024年製作のスペイン版。スペイン語話者が多いラテンアメリカとアメリカ、そしてスペイン、ポルトガルなどで配信され、話題を呼びました。この古典ヒーローを21世紀の今、蘇らせたことには多くの意味があります。
ひとつ、スペインが製作したこと。ふたつ、多様な文化を持つ人々が共生する今だからこそ描かれるべき正義。みっつ、舞台をロサンゼルスにし、よりわかりやすい善悪構造で再解釈したこと。

まさかのスペイン製作!?

ひとつひとつ説明します。まずこれまでの映像版製作は、アメリカや非スペイン語圏の欧州が主体となっていました。が、そもそも原作はスペイン領時代のメキシコ。その時代には、スペインによる植民地化で少数民族などのネイティブが虐げられていました。ゾロはその暴政に異を唱え、平和と平等、人間社会における共生とはなにかを描くために生まれたキャラクターです。それを、まさかのスペインが!?という驚きは隠せませんし、スペイン語圏のヒーローキャラをスペインで映像化する意義は大いにあるでしょう。なにせ多くの「怪傑ゾロ」映像化のなかでも「マスク・オブ・ゾロ」でアントニオ・バンデラスがゾロを演じたときに、「スペイン人が初めてゾロを演じた」と話題になったほどですから。

ドラマ「ZORRO」より。主演はNetflixシリーズ「エリート」でも知られるスペイン人俳優ミゲル・ベルナルデアウ（左）。

偏見と差別による理不尽にNO

ふたつめ。原作のゾロが守ろうとしていたのは、侵略者たちによって虐げられていた先住民族をはじめとするマイノリティでした。この設定は映像化のたびに再解釈されてきましたが、一貫しているのはダイバーシティとインクルージョン。マジョリティによる横暴がまかり通ることを許さず、偏見と差別による理不尽にNOをつきつけるゾロは、いつの時代においてもヒーローです。が、不穏な世相の今こそ、この寛容さと正義を描き出すことに大きな意味があります。「カリフォルニアはチャンスの地」というセリフが出てきますが、チャンスをつかむためならなんでもあり、というのは野蛮な時代のお話。それを改めて強調するストーリーになっています。

ドラマ「ZORRO」より。ゾロは先住民族や立場の弱い人々を助けていく。

カオスなカリフォルニアで、先住民族の女性もゾロに名乗りを挙げ…

みっつめ。本作の舞台はLAを中心とした19世紀カリフォルニア。アメリカで言うと西部開拓時代の最中でした。ゴールドラッシュ、欧州列強による覇権争いなどなど、当時のその地はまさにカオス。その犠牲となっていたのはネイティブアメリカンなどの先住民です。アメリカ先住民の暗い歴史にスポットを当て、改めて平和な多民族共生を訴える映像作品が増えてきた昨今。この設定は、原作よりも今の時代にフィットしたわかりやすい構造です。そして「ZORRO」ではゾロの座をめぐり、先住民族の女性が名乗りを挙げます。

ドラマ「ZORRO」より。本作では先住民族の女性・ナリーンが大きな役割を果たす。

第1話からさっそく始まるサーベルアクションに大興奮

ディテールに踏み込んで解説してきましたが、難しいことを抜きにして、本作は冒険活劇、アクション大作として秀作。なにせ第1話からあるゾロ対複数のサーベルアクションから大興奮間違いなしです。セット美術や視覚効果のクオリティも高く、これまでのゾロのルーツを大事にしながらも再構築に成功したシリーズといえるでしょう。

特別な人気を誇るアントニオ・バンデラス主演映画「マスク・オブ・ゾロ」「レジェンド・オブ・ゾロ」

映画「マスク・オブ・ゾロ」ビジュアル

1998年に製作された「マスク・オブ・ゾロ」、その続編で2005年に製作された「レジェンド・オブ・ゾロ」は、どちらもマーティン・キャンベル監督×アントニオ・バンデラス主演による大ヒット作。スティーヴン・スピルバーグの制作会社アンブリン・エンターテインメントが製作、歴代ゾロで初めてスペイン人俳優であるアントニオ・バンデラスが主演を務めたことなどでも話題になりました。
「マスク・オブ・ゾロ」の物語は、民衆のヒーローであるゾロが引退を余儀なくされるところから。世間から姿を消したゾロが20年後、かつて彼の命を救った男アレハンドロと出会い、後継者にするための特訓をスタート。修行の後にゾロとなったアレハンドロは、金鉱山をめぐる覇権争いと奴隷扱いされていた鉱夫の解放のため戦いを挑みます。

映画「レジェンド・オブ・ゾロ」ビジュアル

続編の「レジェンド・オブ・ゾロ」は、アレハンドロが住民投票をめぐる権力者の陰謀を知るところから始まります。民衆の自由が約束されたら、家族のためにゾロを引退すると妻に約束した彼でしたが、秘密結社によって妻がさらわれてしまい……。
「怪傑ゾロ」の映像版のなかでももっとも知名度、人気があるシリーズ。近年、アントニオ・バンデラスがリブート版や続編製作の可能性について言及したこともあり、このシリーズの人気の高さは、数あるゾロの中でも特別と言えるでしょう。

ラテン系のスターとして話題をさらったアントニオ・バンデラス

なんといっても、主演作「デスペラード」（1995）でハリウッドでの成功を手にし、ラテン系俳優のビッグスターとなったアントニオ・バンデラスがゾロを演じたことが最大のトピック。今となってはヨーロッパ出身の俳優が、さまざまな役を演じることが当たり前となったハリウッドですが、1990年代当時までは成功例があまり多くなかったのは事実。その一方で、アメリカにおけるスペイン語圏出身者の急増にともない、ラテン系のスターが求められていた時期でもありました。そのニーズに応えるかのごとく、バンデラスによるゾロは話題を呼び、世界中で大成功を収めました。

映画「マスク・オブ・ゾロ」場面写真より、アントニオ・バンデラス。

20年以上前のシリーズとは思えないキレと迫力！

原作とはかなり違う西部劇ストーリー、ゾロが次のゾロへ直接バトンを渡す設定、などなど、オリジナルの部分が多い2作ですが、さすがは冒険活劇の名手マーティン・キャンベル監督。アクションシークエンスやマーシャルアーツのキレはもちろんのこと、冒険には欠かせない起伏に富んだ構成で、20年以上前のシリーズということを忘れるほどの大迫力です。
また、この2作品でもう一人のスターが生まれたことも忘れてはいけません。それがゾロの恋人～妻エレナ役のキャサリン・ゼタ＝ジョーンズ。「マスク・オブ・ゾロ」以前はテレビ映画などで活躍していた彼女が、本作での芝居とアクションが認められ、一気に大スターになりました。その後、「シカゴ」（2002）でオスカーを獲得し名実ともに名優となった彼女ですが、本シリーズが起点となったことは特筆すべきでしょう。

映画「マスク・オブ・ゾロ」より、アンソニー・ホプキンス（右）とアントニオ・バンデラス（左）。2人は師弟役を演じた。

映画「レジェンド・オブ・ゾロ」より、キャサリン・ゼタ＝ジョーンズ。

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