身体の突然変異と恋愛の“共依存”を掛け合わせたホラー映画「トゥギャザー」が、2月6日より全国で公開される。本作の物語は、倦怠期カップルであるミュージシャン志望のティムと小学校教師ミリーが移住した田舎の森で迷い、不気味な地下洞窟で一夜を過ごしたことから展開する。その直後からティムは、体が勝手に暴走する奇妙な症状に悩まされるように。異変がミリーの身にも移ると、2人は磁力に引き寄せられるかのように互いを求め始めるのだった。監督を務めたのは、オーストラリア出身の新人監督マイケル・シャンクス。2025年のサンダンス映画祭で披露され、配給会社の争奪戦の末にNEONが北米配給権を獲得した。
映画ナタリーでは公開に先駆け、ラブコメ要素に狂気やシュールさを内包した「霧尾ファンクラブ」「男子高校生とふれあう方法」などで知られるマンガ家・地球のお魚ぽんちゃんが「トゥギャザー」を鑑賞。ホラー・ギャグ・人間ドラマが「すごいバランスで成り立っている」という本作の、印象に残ったシーンを語ってもらった。さらに創作者として「嫉妬した」という点や、本作から想起されたという意外な映画タイトルも。インタビューとあわせて、映画の世界観を表現したイラストもチェックしてほしい。
取材・文 / ナカニシキュウ
映画「トゥギャザー」予告編公開中
拍手したくなるくらい、1本の映画として完成されている
──地球のお魚ぽんちゃん先生はかなりの映画好きだと伺っています。
好きなんですけど、そんなにめちゃくちゃ観ているというほどでもなくて(笑)。「映画好きと言っても大丈夫かな」くらいには観てると思います。
──鑑賞作品数でいうと、だいたいどのくらいですか?
時期によるんですけど、多いときで年間150本ぐらいですかね。連載中だったり仕事がバタバタしているときは劇場から足が遠のいてしまうので、かなりムラはあるのですが。小さい頃からホラー映画をよく観ていたこともあって、ホラーはけっこう好きなほうだと思います。自分がマンガ家になってギャグマンガを描くようになってからは、ホラーとギャグに共通点が多いと気付き、さらに魅力を感じるようになりました。
──“ホラーとギャグの共通点”というのは、どういった部分に感じるのでしょうか。
作り手のサービス精神が旺盛なところでしょうか。あと、作家性がとにかく出やすいジャンルだと思っていて……出やすいというか、出たほうがいいんです。「俺はこれをやりたいんだ!」という作り手の個人的な思いが作品に色濃く反映されればされるほど傑作になる、という点で共通すると思います。
──今回は「トゥギャザー」をご覧いただきましたが、この取材の話が来る前から本作に注目されていたそうですね。
そうなんです。まずはやっぱり設定のキャッチーさやインパクトのあるキービジュアルに強烈に惹かれました。ギャグ的なテイストもあるビジュアルですし、「絶対に好きな映画だろうな」と思い、劇場公開されたらすぐ観に行くつもりでした。
──実際にご覧になって、まず率直にいかがでした?
期待以上に面白くて、すごくうれしかったです。想像していた面白さと想像していなかった面白さがどちらもあって、全体的にとても完成度の高い映画だなと純粋に思いました。
──その“想定していた面白さ”と“想定していなかった面白さ”というのは、具体的にどういった部分でしょう?
ビジュアル的なトンチキさ(笑)は想定通り面白かったです。また笑える部分やホラー表現の楽しさはもちろんありつつ、主人公のティムとミリーを中心とした人間関係の部分にかなりフォーカスしていたので、そこが想定外でしたね。こういう設定が強烈な作品って、得てして“設定一点突破”になりやすいと思うんですけど……もちろんそれもそれで最高なんですが、この作品ではそれに加えて人間模様の深みもちゃんと味わえた。そういうところに作り手のサービス精神を強く感じましたし、真摯に作品づくりをしている姿勢が伝わってきました。
──確かに「人と人が磁力に引き寄せられるかのように互いを求め始める」という設定だけでも、それなりに売れる映画は作れるでしょうけど……。
そうそう。その設定を打ち出せた時点でもう勝ったようなものなのに、それだけで終わっていない。この映画って、冒頭から1時間くらいまではさほど大きな展開がないんですよ。でも最後まで観ると、その1時間でしっかり人間関係を丁寧に描いてくれていたからこそ、オチが素晴らしいものになったということがわかる。拍手したくなるくらい、1本の映画として完成されているんですよね。ホラーやギャグといったような“前面にある魅力”と、もっと奥にある深みが、すごいバランスで成り立っている。
──おっしゃる通りで、安易に類型化できない作品といいますか。僕は個人的に「この映画って“ホラー映画”というくくりだけでは表せない」と感じたんです。
わかります(笑)。
──“何映画”とかじゃなくて、もっと根本的なところで“いい映画”を作ろうとしたんだろうなと。
表面的なところだけではなく、本質的なところまでちゃんと考えながら作られていることが伝わる作品ですよね。主演のお二人が実際のご夫婦で、プロデュースも手がけているというのをあとから知って「あ、やはり」とひざを打ちました。だからこその説得力なんだな、と答え合わせができた感じがしましたね。
“一点突破”できるくらいのキャッチーな設定に嫉妬
──特に印象的だったシーンは?
まずビジュアル面でいうと、ジャパニーズホラーっぽい文脈で見せるシーンが興味深かったです。布団の中から顔が出てくるシーンもそうですし、すりガラス越しにミリーが体をぶつけてくるシーンなんかも純粋に怖くて……いわゆるジャンプスケアではない、日本的な怖がらせ方に近い感じが好きでした。「呪怨」とかにも通ずるような。
──「いかにもホラー」という表現も抜かりなくやってくれるんですよね。
かと思えば、体がくっついてしまう現象の描写では、直球で笑っちゃうシーンも多くて。例えばトイレでのセックスシーンとか「当然そうなるよね」と想像はできたんだけれど、やっぱり笑っちゃいましたね。「よくぞやってくれた!」と(笑)。あとは寝ているティムがミリーの髪の毛を吸い込んじゃうシーンなんかは、純粋にギャグとして笑えました。あそこはお気に入りのシーンで、今回もイラストで描かせていただきました。
──僕が個人的に好きだったのは、体がくっつくときのVFX表現がすごく生々しかったところです。あまりCG臭さがなくて。
確かに。最初に洞窟で2人のふくらはぎがくっついたときに「白カビかな?」と言って無理やり引きはがすところとか、かなり生々しかったですよね。“地に足のついた嫌さ”があって、すごくよかった。あとはコメディ表現のところで、ビジュアルのみならずセリフの間などにもコントっぽい雰囲気があったなと思います。例えば電ノコを使用した中盤のシーン。あそこはもう完全にコメディの間でしたよね(笑)。それ以外でも、例えば洞窟に落ちたときにティムが彼女のことよりも先にスマホのデータを心配して、ミリーが「私は大丈夫だけど?」みたいにチクッと言う“共感性の笑い”もあって。気の利いたセリフの応酬が小気味よく、かなり細部にまで「楽しませよう」というサービス精神が行き届いているのを感じました。
──ミリーの同僚であるジェイミー(演:デイモン・ヘリマン)を交えた3人で食事をするシーンなどもそうですが、ああいう会話の妙みたいなものは、先生がマンガで描く世界とも共通するものがあるように感じました。
ありがとうございます。おっしゃる通り、ああいうふうにお互いに何か思うところがありつつ、うわべの会話を交わす感じは好きで、自分の作品でもチャレンジしているところです。いやらしいことを言うと、そういうのをやってウケたいな~みたいな(笑)。でも「トゥギャザー」ではそこにまったく嫌味や下心がなくて、華麗に表現されていたなと思いますね。非常に勉強になりました。
──作り手目線で嫉妬したポイントなどはありましたか?
最初のお話と被りますけど、一点突破できるくらいのキャッチーな設定を打ち出せているところには本当に嫉妬しました。そこはギャグマンガでもすごく大事な部分だったりするので、まだ誰もやっていない設定を生み出し、なおかつそれを形にできているのは純粋にうらやましいです。「自分もそういうものを作れるようになりたいな」と強く思いました。
──個人的には「霧尾ファンクラブ」に近いものを感じました。設定もキャッチーで、でも実際に読んでみるとそれだけの作品ではないという点が。
大変光栄です……! 本当におっしゃる通りで、タイトルも含めて入り口がキャッチーであることをかなり意識した作品ではありますね。「◯◯ファンクラブ」というネーミング自体も「早く付けないと誰かに先を越されてしまう!」という思いがあり、発表するまではドキドキしていた経験もあって(笑)。その意識を持っていたからこそ、「トゥギャザー」を観てからはそういうものを作りたい気持ちがより強固になったんですよね。
次のページ »
あんなに美しい“最悪のハッピーエンド”はない

