心臓に爆弾を埋め込まれた秘密組織のエージェントが、24時間ごとに迫る死の危険を抱えながら、極秘情報の争奪戦に挑む──。映画「太陽は動かない」のBlu-ray / DVDが9月29日に発売される。主人公の鷹野一彦と相棒の田岡亮一を演じたのは、事務所の先輩後輩でもある藤原竜也と竹内涼真だ。映画ライターSYOは本作における競演を「完全に同タイプがしのぎを削り合う“デュエル”」と表現。生死の狭間をかいくぐる2人の姿から見えてきたものとは。
文 / SYO(レビュー)、奥富敏晴(コラム)
演技から立ち昇る“熱さ”
いわゆる“バディもの”では、よく「水と油」や「正反対」「凸凹」と言われるふたりが組むことが多い。古くは小説「シャーロック・ホームズ」の時代から、映画「リーサル・ウェポン」も「メン・イン・ブラック」も「相棒」も、属性が異なるキャラクターが組むことで化学反応が生じ、絶妙なコンビネーションが生まれる姿を描いていた。
しかしこのふたりにおいては、真逆というよりもむしろ“同志”、同じ道を行く先駆者と後継者の雰囲気が漂う。ドラマ・映画と展開した「太陽は動かない」シリーズでバディを組んだ藤原竜也と竹内涼真だ。
芸能事務所の先輩・後輩にあたるふたり。藤原は1982年生まれ、竹内は1993年生まれと年齢は11歳差。これまでに活躍してきたフィールドや経歴、演技へのアプローチ等々、一見するとオーバーラップする部分は少ないように感じるが、根幹に同じ“におい”を感じるのはなぜだろう? 両者ともにサッカーが特技で、テレビ番組でサッカー対決も行っているが、共通点はもっと奥底にある。それはきっと魂の部分、演技から立ち昇る“熱さ”だ。
藤原は言うまでもなく、当時15歳の若さで舞台演出家・蜷川幸雄に見いだされたデビュー作「身毒丸」(1997年)から映画「バトル・ロワイアル」シリーズ、「デスノート」シリーズ、「カイジ」シリーズ、「るろうに剣心」シリーズなど、腹の底から湧き立ってくるようなエネルギーを全身に放出した演技が印象に残る。もちろん「太陽は動かない」の原作者・吉田修一の小説を映画化した「パレード」(2010年)など、クールなキャラクターを演じるのも得意だろうが、この作品で扮した役どころが後半になると暴走し、熱量が一気にスパークするものだったように、多くの人々が藤原の“熱さ”に魅せられているのは確かだ。
竹内に関しては、デビュー後まもなく「仮面ライダードライブ」(2014年)に出演。その後、ドラマ「下町ロケット」シリーズ、映画「青空エール」(2016年)「帝一の國」(2017年)など、天性の爽やかさを振りまきつつも、彼の“熱さ”が役とシンクロする作品で重用されてきた。近年では有村架純に続いて本人役を演じた「竹内涼真の撮休」(2020年)で表現の幅を広げ、ゾンビアクションドラマ「君と世界が終わる日に」(2021年)では実に泥臭い演技を披露し、ますます熱量が増している。元々の特性に、藤原の後を追うような分厚さが加わってきた印象だ。藤原との共演を経た2021年には、初舞台「17 AGAIN」でミュージカルに挑戦している。
男同士がしのぎを削る“デュエル”
彼らが誰かを演じるとき、モニターやスクリーン、或いは舞台上から発せられる、熱。それは「ひたむき」とか「真摯」から数段階上、どちらかといえば狂気の傍に存在する。自らリスクを冒し、限界突破の方向に挑んでいく彼ら。「きつい」「大変」と知りながらもその道を選択してしまう、どうしようもない役者としての性(さが)。この心意気に、藤原と竹内の大いなる“つながり”を感じずにはいられない。先輩・後輩の関係でありながら、表現のために肉体を酷使するアスリート気質の“仲間”。そうでなければ、「全編吹替なしでアクションシーンを撮る」という超難関ミッションに、自ら志願するわけがないのだ。
つまり、彼らが初共演した「太陽は動かない」は、正反対のふたりがコラボすることで補完し合うのではなく、完全に同タイプがしのぎを削り合う“デュエル”である。だからこそこの映画に漂うガチ感は、ものが違う。頑張りすぎてしまう男たちが現場で顔を合わせれば、相乗効果で熱はどんどんエスカレートするだろうし、「海猿」「MOZU」シリーズの羽住英一郎監督は、それが大好物。明らかに藤原と竹内のガチンコ対決を狙ってキャスティングしているとしか思えない。
映画版の見せ場のひとつである、1日180トンの水を使用し、役者たちを徹底的に追い込んでいったコンテナ船が水没しかけるシーンも、藤原と竹内がブルガリアに着いて早々“洗礼”を受けた、危険度抜群の飛び降りアクションも、「この2人ならばやってくれる」という期待をみっちり詰め込んだディープなものばかり。しかも、上に述べたように吹替はなし。
優等生的な真面目さなど通り越した、肉体表現に対する強烈な“執着”を持つ役者でなければ、この内容をこなすどころか、プレッシャーでつぶれてしまうところだろう。しかし藤原と竹内は、勇猛にそこに飛び込んでゆく。コンテナ船のシーンの撮影では、ワンカット撮り終えるごとに励まし合いながら「今までの仕事で何番目に入るくらいのつらさ?」と語り合っていたそうで、このエピソードひとつとっても、胆力が違う。
高め合う120%の関係性
もちろん役柄としては、藤原演じる鷹野はエリート諜報員、竹内扮する田岡は新人と上下関係が存在する。彼らは「心臓に爆弾が埋め込まれ、24時間以内にミッションをクリアできなければ死亡」という特殊な環境下におかれ、田岡は「死への恐怖」を克服できておらず(ドラマ版で彼の内面が掘り下げられる)、「今日を生きるだけだ」と語る鷹野の境地にはまだ達せていない。
しかし“芝居の熱量”という点においては、上下も遠慮も一切なく、竹内はガムシャラに藤原に食らいつき、藤原も負けじと応戦する。そこには、ふたりの役者の必死さしかない。そのため、「太陽は動かない」は、藤原と竹内が「合わせる」ではなく、「高め合う」構造が成立した。互いが120%を出し合うことのできる関係性──これが本シリーズで藤原と竹内が示したバディの形だ。
この大黒柱をもってして、コロナ禍では難しくなった大規模な海外ロケや過激アクション、シリアスなテーマをはらんだドラマが1本の線で結ばれた感がある。「太陽は動かない」は「キャラクター(人物)」「アクション(映像)」「ドラマ(物語)」のどの要素を切り出してみても、ひたすらに濃い。本気100%で構成された要素を束ねるのが、藤原と竹内の個々の存在感であり、ふたりが組んだときの爆発力が、作品全体をさらに高みへと押し上げていく。
一気に走り抜ける一級のエンタテインメント
個々の要素がケンカするのではなく、より強い熱を放つ役者陣の燃料として機能しているということ。逆に言えば、藤原と竹内だからこそ、ここまで濃い素材を前にしても霞むことがなく、むしろ従えてみせるのだろう。
たとえば本作には、裏側に多くのシリアスなテーマが潜んでいる。一例は、鷹野と田岡がなぜこの稼業を選んだのか、だ。そこには幼少期の彼らが背負った壮絶な過去があり、いまだふたりを苦しめている。この部分には深刻な社会問題が潜み、作品の見ごたえを増す材料になっているのだが、一方で映画全体の疾走感をダウンさせてしまう要因にもなりかねない。
ただ、藤原と竹内はその“重さ”を演技に盛り込み、鷹野と田岡が必死に生きる理由へと変換してしまう。役の背景を現在の心理・行動における必然性(つまり人格形成の要因)に変えることで物語の真剣さやキャラクター造形の説得力をプラスし、なおかつスピード感とエンタメ性も失わず、クライマックスまで一気に走り抜けることに成功している。
「太陽は動かない」は、大迫力&危険極まりないアクションに目を見張り、常に死と隣り合わせにいるキャラクターの複雑な内面に琴線を刺激され、世界を股にかけたミッションのスケール感や息もつかせぬ展開に魅せられる一級のエンタテインメント。その最前線に立つ藤原竜也と竹内涼真は、結果的に作品を最後尾から支えるショーランナーの役割も果たしているのだ。
表向きは小さな通信社であるAN通信。その実態は国や企業の機密情報を入手し、競合他社へ高値で売りさばく諜報組織だ。情報漏えいを防ぐため爆弾を胸に埋め込まれ、24時間ごとの連絡を怠ると爆殺されるエージェントたち。エネルギー業界に革命を起こす情報をめぐり世界を飛び回る鷹野と田岡の足跡をたどる。
- ソフィア
- 国家中枢を巻き込んだ一大プロジェクトの情報を追っていた山下の救出のため、ブルガリアの首都ソフィアの団地を訪れた鷹野と田岡。しかし、山下の胸の起爆装置が作動。残された時間はわずか。トラックに乗り込んだ3人は追手を巻きながら、山下の時限爆弾を止めようとするが……。
- ウィーン
- 中国の巨大エネルギー企業、CNOXの会長で裏社会を牛耳るアンディ・黄。鷹野と田岡は山下を拉致したCNOXの狙いを探りにオーストリアの首都ウィーンで開かれるチャリティパーティへ。アンディ・黄のかたわらにはミステリアスな女性スパイ・AYAKOがいた。眼鏡&スーツ姿の田岡にも注目。
- 香港
- 香港に構えるCNOX本社のサーバールームで機密情報を盗み出す鷹野。しかし韓国の産業スパイ、デイビッド・キムが行く手を阻む。キムはその時々の依頼人のために動く、くせ者の一匹狼。鷹野とは長年にわたる因縁があり……。ムササビのように飛ぶ鷹野の姿は必見。
- タクラマカン砂漠
- 高度に暗号化されたCNOXのデータから、長年地図にも載らず、上空の飛行制限もある地点を示す座標を手に入れたAN通信。中国・タクラマカン砂漠に位置するその場所には、衛星からの太陽光エネルギーを受け取る次世代の発電所、レクテナ基地があった。ヘリコプターから基地を見つけた鷹野たちだが……。
- ソフィア→モスクワ
- 山下の目的とCNOXの思惑を突き止めたAN通信。舞台は再びブルガリアへ。エネルギー事業の鍵を握る大学教授、小田部の身柄をめぐって、AN通信、CNOX、ロシアンマフィアの三つ巴の争いが勃発。ソフィアとロシア・モスクワをつなぐ列車内で物語が大きく動く……!