「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」特集 | 世界への扉は“東京都”が開けてくれた (2/2)

世界に出たからこそ、日本での価値が高まる

──MIFA出展を通じて得られた最大の成果と、その後の変化について教えてください。

大神田 世界中のクリエイターが集まる場に身を置くことで、「今、世界で何が作られ、何が求められているのか」を肌で感じられたのが大きかったです。自分たちの作品がその中でどういう立ち位置にあるのかを知れたし、「大変なのは自分だけじゃない、みんなも戦っているんだ」と感じられて、すごく勇気をもらえました。

大神田リキ

大神田リキ

中島 具体的な成果としては、スペインやインドのクリエイターとのCo-production(共同製作)の話が進んでいます。それに、面白いことに海外へ出たことで、逆に国内からの反響がすごく大きかったんです。MIFA出展後にプレスリリースを出したら、地方の行政の方から「特産物をテーマにしたアニメを作ってほしい」と声が掛かったり、僕らのAI活用の取り組みに興味を持ってくれた企業が見学に来てくださったり。

──世界での評価が、国内での信頼につながったんですね。

中島 まさしくそうです。世界を目指しているという姿勢が、僕らのポジションを確立してくれた。この作品をきっかけに新しい仕事が生まれ、国内でのネットワークも広がっていて、これもプログラムが与えてくれた大きな恩恵ですね。

AIは敵じゃない。クリエイターの表現を解放する翼だ

──「The Taste of Water / テイスト オブ ウォーター 水の味」ではAIロトスコープという先進的な技術も活用されています。AIの活用は、海外のマーケットではどのように受け止められましたか?

中島 まず言いたいのは、僕らがAIを使うのはコストダウンや効率化のためではないんです。「お金はないけれど、本来表現したかったものを実現させる」ためのチャレンジなんですね。その姿勢が、特に海外では高く評価されたかなと思っています。

大神田 実際、AIのおかげでインディーズの私たちでも時代劇風のシーンを再現したり、CGで壮大な風景を描いたりと、これまでなら膨大な予算が必要だった表現に手が届くようになっています。

中島 よくAIがクリエイターの仕事を奪うという話もありますけど、僕たちの考えはまったく逆なんです。AIはあくまで人間の想像力をサポートするツール。デザインの源泉はすべて人間のアーティストにあり、AIはその間をつなぐブリッジ(橋)のような役割です。AIという翼を得たことで、クリエイターはもっと自由に、自分の作りたいものを追求できる時代になったんだと思います。

大神田 そうそう。でも逆に、誰でも表現できる時代だからこそ、「あなたにしかできないことはなんですか?」というクリエイターとしての本質が求められているなとも感じますね。

中島 その点「The Taste of Water / テイスト オブ ウォーター 水の味」は、大神田さんの視点を通して描く「自分たちにしかできない表現」ですし、そこにはこだわりたいなと思っています。

中島良

中島良

迷っているなら、まず飛び込んでみてほしい

──それでは、この記事を読んで「自分も海外を目指してみたい」と思ったクリエイターの方々へメッセージをお願いします。

大神田 海外に作品を出すことで、自分の視野が劇的に広がります。国やマーケットによって求められるものはまったく違うし、日本では評価されなかったものが思わぬところで絶賛されることもある。その多様性に触れるだけでも、参加する価値は絶大だと思いますよ。

中島 このプログラムは、合格するかどうかにかかわらず、同じ志を持つ仲間と出会える最高の場所です。そのネットワークは、必ずあなたのクリエイター人生を豊かにしてくれるはず。それに、東京都がこれだけの熱意を持ってクリエイターを世界に送り出そうとしてくれていることがありがたいですし、こんなに心強いことはありません。

左から中島良、大神田リキ

左から中島良、大神田リキ

──企業から個人まで、参加へのハードルは低いプログラムですが、ピッチグランプリで勝ち抜くには相応の準備が必要ですよね。

大神田 そうですね。確かに準備は大変ですけど、同時に求められていることは非常に明確だとも思います。自分の作品に自信を持って、本気で世界に届けたいと思っているなら、それは乗り越えられる壁のはず。「よし、これから仕事だ」と頭を切り替えれば、きっと大丈夫ですよ。

中島 特に個人や中小企業のクリエイターは、海外事業だけに集中できるわけではないので時間が足りないのは当然です。でも、だからこそ、本気の人が集まる。その熱気の中に身を置く経験は、何物にも代えがたいものです。もし少しでも迷っているなら、まずは説明会に参加するところからでもいいので、ぜひ一歩を踏み出して、世界への扉を開けてみてください。

大神田リキ

大神田リキ

──ちなみに「The Taste of Water / テイスト オブ ウォーター 水の味」はシリーズ化の構想もお持ちだと伺いました。今後の展望についてもお聞かせください。

大神田 「The Taste of Water / テイスト オブ ウォーター 水の味」だけで終わるのではなく、「テイスト・オブ・シリーズ」としていろいろな作品を制作していければと考えています。例えば「The Taste of Miso / テイスト オブ ミソ」や「The Taste of Tea / テイスト オブ ティー」、あるいは海外に渡って「The Taste of Cheese / テイスト オブ チーズ」とか。もともと私は科学哲学が専門で、あらゆる物事の「なぜ?」を歴史的、文化的に掘り下げるのが大好きなんですね。1つの食べ物や飲み物から、シルクロードまでつながるような壮大な物語が広がっていく。その面白さを、このシリーズを通じて世界中の人々とシェアしたいんです。

中島 合同会社ズーパーズースとしては、僕たちがこのプログラムやAI活用を通じて得た知見や技術を、どんどんシェアしていきたいと思っています。来年からは、実写業界の人たち向けに具体的な制作手法を教えるワークショップを開く予定です。アヌシーで世界のレベルの高さを目の当たりにして、日本のコンテンツ業界も全体で力を合わせないと太刀打ちできないという危機感も生まれました。新しい技術や知見を独占するのではなく、オープンにすることで日本のクリエイター全体のレベルを底上げし、みんなで世界と戦っていきたい。本気でそう思っています。

──ありがとうございました。

MIFAでのピッチイベントの様子(左から合同会社S.o.K・田中氏、西澤氏 / 関厚人氏 / 紺吉有限会社・瀧澤氏 / 株式会社テトラ・幸積氏、谷口氏 / 大神田氏、中島氏)

MIFAでのピッチイベントの様子(左から合同会社S.o.K・田中氏、西澤氏 / 関厚人氏 / 紺吉有限会社・瀧澤氏 / 株式会社テトラ・幸積氏、谷口氏 / 大神田氏、中島氏)

取材後記

“海外進出”と聞くと、どこか遠い世界の話のように感じるかもしれない。しかし、中島氏と大神田氏の話からは、その扉が意外なほど身近にあることが伝わってきた。必要なのは、ほんの少しの勇気と、自らの作品に対する“本気”の思い。そして、その思いを全力でサポートしてくれる強力な伴走者の存在だ。東京都の「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」は、まさにその伴走者となり得る。資金や人脈、ノウハウといった現実的な課題を乗り越えるための具体的な手助けはもちろんのこと、同じ志を持つ仲間との出会いや、世界レベルでの成功体験は、何よりも代えがたい“自信”という名の翼をクリエイターに与えてくれるだろう。「The Taste of Water / テイスト オブ ウォーター 水の味」が描き出す、一杯の酒に込められた無限の物語。その壮大な挑戦は、日本のクリエイターたちが秘める無限の可能性そのものを象徴しているようだった。もしあなたが自らの創造力を世界で試したいと願うなら、このプログラムは、間違いなくそのもっとも確かな第一歩となるはずだ。

「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」に参加するには?

参加の流れ

STEP1:説明会に参加

Tokyo Anime Business Acceleratorの「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」に興味を持ったら、まずは9月もしくは12月に開催される説明会に参加してみるのがお勧め。事業全体の内容を、過去プログラムに参加したプロデューサーや映画監督、クリエイターの体験談も交えて詳しく聞くことができる。

開催概要

東京都アニメーション
海外進出ステップアッププログラム説明会
~先輩たちに聞くMIFA出展体験談~

第1回

2025年9月30日(火)19:00~21:00

第2回

2025年12月2日(火)19:00~21:00

会場:藤久ビル東五号館 14階貸会議室(東京都豊島区南池袋2-25-5)
定員:50名
参加費用:無料
参加申し込み:各回2営業日前16:00まで
※第1回、第2回の登壇者は異なるためご注意を

参加申し込みはこちら

STEP2:セミナー・ワークショップに参加

10月から12月にかけて、リアルまたはオンラインで4つのセミナーと2つのワークショップを開催。海外ビジネスセミナーでは「アニメ映画祭・海外マーケットについて学ぼう」「作品を企画し売り込むことを考えよう」といった、海外進出に必要な4つの知識を学べる。海外プレゼンスキル向上ワークショップでは、海外企業への効果的なプレゼン(ピッチ)ノウハウを実践的に習得することができる。

開催概要

海外ビジネスセミナー

セミナーA:アニメーション映画祭・海外マーケットについて学ぼう

2025年10月10日(金)19:00~21:00

セミナーB:作品を企画し売り込むことを考えよう

2025年10月28日(火)19:00~21:00

セミナーC:バイブルで伝えるべきことについて考えよう

2025年11月4日(火)19:00~21:00
※本セミナーのみオンライン開催

セミナーD:商談の実践と新たな時代の映像ビジネスについて考えよう

2025年11月10日(月)19:00~21:00

海外プレゼンスキル向上ワークショップ

ワークショップ①:ピッチの基礎となる要素を学ぼう

2025年11月28日(金)18:00~20:00

ワークショップ②:ピッチ・バイブルを作りこもう(対面グループワーク)

2025年12月12日(金)18:00~21:00

参加条件

  • 都内に登記がある中小企業者
  • 都内税務署へ開業届出をしている個人事業主
  • 将来、都内にて創業を検討している、都内在住 / 在勤 / 在学者(学校の本部が都内にある場合を含む)

セミナー会場:藤久ビル東五号館 14階貸会議室(東京都豊島区南池袋2-25-5)
ワークショップ会場:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 神谷町オフィス 24F会議室(東京都港区虎ノ門5-11-2 オランダヒルズ森タワー
参加費用:無料
参加申し込み:各回2営業日前16:00まで
※セミナー(オンライン開催を除く)、ワークショップで会場が異なるためご注意を

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STEP3:「東京アニメピッチグランプリ」に出場

セミナーまたはワークショップに1回でも参加すると、「東京アニメピッチグランプリ」への出場権が与えられる。募集要項・応募条件の詳細は、以下のWebページで確認を。

詳細はこちら

STEP4:MIFA2026の東京都ブースへ出展

「東京アニメピッチグランプリ」の受賞者は、賞金(最優秀賞:100万円 / 優秀賞:各50万円)と、フランス・アヌシーで開催される世界最大規模のアニメーション国際見本市・MIFAへの出展支援(英語ピッチ指導、商談設定、出展作品の広告、アフターフォローなど)を受けることができる。
海外進出を志す東京のアニメーション関連企業などは、この機会にぜひチャレンジしてみては。

MIFA2025出展の様子

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