共感の詰まったハートフルな作品?相席スタート山添&オズワルドが語る「死刑にいたる病」

阿部サダヲと岡田健史がダブル主演、「孤狼の血」シリーズで知られる白石和彌が監督を務めた「死刑にいたる病」が5月6日に全国公開される。本作は連続殺人鬼・榛村から届いた冤罪証明の依頼をきっかけに、大学生の雅也が事件を独自に調べていくサイコサスペンス。阿部が24人もの若者を殺し死刑判決を受けた榛村、岡田が自身の理想とは違う大学に通いながら榛村との面会を重ねる雅也を演じている。

映画ナタリーでは、狂気じみた発言で視聴者を引きつける“クズ紳士”こと相席スタートの山添、「M-1グランプリ2021」の準優勝も記憶に新しいオズワルドの畠中と伊藤による座談会をセッティングした。本当か嘘か「共感の詰まったハートフルな作品」と驚きの感想を述べる山添と、不思議な魅力を放つ榛村の細かな言動に注目するオズワルド。“本当に面白い映画しか観たくない”という3人に「死刑にいたる病」の感想を聞いた。

取材・文 / 奥富敏晴撮影 / 向後真孝

本当に面白い映画しか観たくない3人(山添)

──皆さん普段は映画をご覧になりますか?

山添寛(相席スタート) どう2人は?

畠中悠(オズワルド) 僕はもう趣味の欄に「映画鑑賞」って書いてるくらいですね。

伊藤俊介(オズワルド) 年間何本観るんだっけ?

畠中 年間12本は。月1で観ますね。

伊藤 消せ、すぐに。それで映画の仕事が来て、頭を抱えてるんですよ。

左から畠中悠、伊藤俊介。

左から畠中悠、伊藤俊介。

畠中 あそこの欄見られて「映画鑑賞が趣味なんですよね?」って聞かれるんですけど、毎回このボケ1本で乗り切ってます。

山添 ははは(笑)。俺はNSC(吉本総合芸能学院)の願書の趣味は「映画鑑賞」でした。年6本です。

伊藤 いや少な! 僕も以前は観てたんですけど、今はなかなか。先輩に「絶対これ観ろ」って言われたりしないと。

畠中 ふた開けてみたら3人中3人とも、あんまり観ないっていう結果(笑)。

伊藤 いや、何を観ようかなって選ぶのがおっくうなんですよ。正直。

山添 わかる。本当に面白いのしか観たくない3人。映画でミスったときのショックって、たまらんのですよ! ほかでは味わえへんショックやんな?

伊藤 わかります。やっぱり最後の5分で大どんでん返しみたいな作品もあるじゃないですか。だから一応最後まで観るんですよ。

畠中 何もなかったときね?

山添 そう。フリを作ったすかし芸だけ見せられたらお客さん怒ると思うんですよ。

山添寛

山添寛

伊藤 「究極の一発ギャグ作ってきました」って言って、55分間そのギャグへの思いを語られて、最後アイーンされたら……。

山添 はははは(笑)。

畠中 それは大どんでん返しだ(笑)。

伊藤 アイーンは国宝ですよ。

共感が詰まったハートフルな作品(山添)

──この座談会のオファーはどう思われました?

山添 正直なこと言っていいですか? こういうまだ誰も観てない作品を観てコメントするのはめちゃくちゃ苦手なんですよ。万が一面白くない作品だったときに嘘をつかないといけない。それがめっちゃ嫌やからこの仕事も「来てもうた!」って思ったんですよ。でも、しばらく時間置いて監督を確認したら白石(和彌)さんじゃないですか。「孤狼の血」が大好きなんですよ。

伊藤 僕も「孤狼の血」大好きですわ。

山添 これはおもろいやろ!って前のめりで観て、案の定しっかり面白かったです。めちゃくちゃうれしかったですね。自信を持って人に薦められます。僕が一番びっくりしたのが、阿部サダヲさん演じる榛村が本当に異常者じゃないですか。サイコパスと言っていい連続殺人鬼。でもすでに捕まってるから安心なところもある。

「死刑にいたる病」より、阿部サダヲ演じる榛村。

「死刑にいたる病」より、阿部サダヲ演じる榛村。

──榛村は10代後半の少年少女、特に制服を校則通りに着るような真面目な黒髪の学生ばかりを狙って24人を殺した人物です。獄中にいる榛村と面会を重ねる大学生の雅也が精神的に大きく影響を受けていく物語でした。

畠中 さっきも楽屋で山添さんと映画の話で盛り上がりました。やっぱり起こした事件はさすがにヒドすぎるだろうと思って「僕は胸が苦しかったです」って言ったら山添さんが「え?」って顔をしたんですよ。あれ……? この人、榛村のほう?と思って。

山添 はははは(笑)。

左から畠中悠、伊藤俊介、山添寛。

左から畠中悠、伊藤俊介、山添寛。

伊藤 榛村も普段はすごく人がいい。仕事もしっかりしていて、いろんな人と親密な関係を作ってから……ってところまで似てるんですよ。山添さんもその反面、実はクズみたいなところがある。クズっていうのも実はさらに大きな何かを隠すためのフェイクなんじゃないかな?と思うくらいです。

畠中 山添さん、実は山奥に小屋とか借りてないですか?

山添 借りてないよ(笑)。本当に真っ白。ただ、認めたくはないですけど、オズワルドにそう言われるのも正直わかる。榛村って動じない人じゃないですか。一度も焦ったりしない。自分の計画の方向性が変わったとしても機転を利かせて別の方法を考える。そういうところは僕もあるんちゃうかなって思います。

──なるほど。

山添 だから、ここで本音を話すなら、観終わった直後の最初の感想は榛村への共感が詰まったハートフルな作品やなって思いました。

畠中 こっわ……危ないです。

伊藤 ただちに中止してください。

畠中 もう山添さんに会えないです。これが最後です。

山添 ぜひ白石監督を震え上がらせてください。でも榛村と雅也の面会シーン、拘置所のアクリル越しのはずなのに気付いたら榛村が横に来て耳元で何かを言う場面があったじゃないですか。あの感じでお金を借りたことはあります。向き合って話してたはずなのに、気付いたら耳元で「お金貸してよ」と言ってたらしい。

「死刑にいたる病」

「死刑にいたる病」

畠中 ははは(笑)。まさにあの描写だったんですね。

あの顔は山添さんに似てた(伊藤)

伊藤 榛村のナチュラルな「ん?」って顔があるじゃないですか。「どうしたの?」って顔して人の顔をのぞき込む。あれが一番怖かったです。あの感じって弱ってるとき心を持ってかれてしまう。冗談でもなんでもなく「どうした? なんでも言ってごらん」の顔は山添さんに似てました。

パン屋を営みながら、常連となる10代の若者をターゲットとして物色していた榛村。

パン屋を営みながら、常連となる10代の若者をターゲットとして物色していた榛村。

山添 僕にとって、これは営業妨害ですわ。もう「笑える怖さじゃない」って言われそう。榛村さんが「君はすごいね」って褒めるシーン怖かったよね? あの相手を取り込もうとしてる感じ。これから構えられすぎて、褒める人が世の中にいなくなりますよ。

畠中 あの言葉を街中で聞いたらドキッとしますよ。そして阿部「さん」はわかりますけど榛村「さん」はちょっと。

山添 揚げ足取りやめとけよ! 俺じゃなくてみんなで榛村を責めよう(笑)。

伊藤 本当に山添さんと、大阪のジュリエッタの藤本(聖)さんって人を思い出しましたね。こんな感じなんですよ。

山添 “こんな感じ”は失礼だって(笑)。

──もっとも記憶に残っている榛村の登場シーンはありますか。

伊藤 僕はオープニングですね。あの桜の花びらと思わせるスタート。一瞬で引き込まれました。あと被害者をいたぶるときの、ちょっとほほえんだ顔。日本人であの顔できる俳優さんいないんじゃないですか? 引き込まれ方が半端なかったです。

山添 最初は榛村が一見、素敵な生活を送っているように見えるじゃないですか。家の中も整っていて、すごくきれい。優雅に自分の時間を過ごしながら紅茶を飲むシーンも全部怖く見えました。1個に絞るとしたら、雅也の手に触れるところですかね。

山添寛

山添寛

伊藤 決まった年齢、決まったタイプを狙うのは映画でよくある殺人鬼像だと思うんですけど、ターゲットが女性だけじゃなくて「男女」ってわかったとき、めっちゃ怖かったです。どっちでもいいんだって。