DVD「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」 PR

有村昆が語るドラマ「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」|ハリウッド大作や日本アニメの入念なリサーチから生まれた中国エンタメの最前線

中国ドラマ史上最高となる総製作費100億円を掛けた超大作「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」(原題:武動乾坤)のDVDセットが9月3日より順次販売中。本作は、原作であるWeb小説の閲覧総数3200万回、セットの広さ6万平米、スタッフ1060人、CGシーン2000分と破格のスケールを誇るファンタジースペクタクル時代劇だ。

映画ナタリーでは、DVDの発売を記念して3回にわたって特集を展開。その第2弾として、海外ドラマにも精通している映画コメンテーターの有村昆に話を聞いた。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」や「スター・ウォーズ」、少年ジャンプのマンガ作品を例に出し、「入念なリサーチを重ねている」と本作を分析する有村。近年、存在感を増している中国エンタテインメント市場についても語ってもらった。

取材・文 / 岡﨑優子 撮影 / 佐藤類

「新世紀エヴァンゲリオン」的三角関係?

──テレビやラジオ、雑誌などいろんなメディアで映画や海外ドラマをご紹介されている有村さんですが、そもそも中国時代劇ドラマをご覧になったことは?

有村昆

ドラマだと「三国志 Three Kingdoms」、映画だったらチャン・イーモウ監督の「HEROES」「LOVERS」などは観ていますね。最新作「SHADOW/影武者」も観ました! あと僕自身が大のゲーム好きで、コーエーの「三國無双」「戦国無双」シリーズや、カプコンの「戦国BASARA」シリーズといったファンタジーと戦国時代劇を掛け合わせた女子向けのパッケージにもかなりハマっていました。

──「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」も「戦国BASARA」もファンタジー要素が多いから、女性人気が高いんでしょうね。

「神龍<シェンロン>」は中国では3日間5億回再生という高実績が物語っているように、架空の国、時代を舞台にしたファンタジー大作を作るうえでのマーケティングがしっかりされていますよね。これまで戦国ものや歴史ものというと、どうしてもおじさんばかりが出てくる渋い作りで男子だけが盛り上がり、女子や子供たちは置いてきぼりになっていた。そこに、マーケティングにもとづいた世界観をしっかり作ることで、一気に多くの女性や子供たちを取り込むことができたんだと思います。しかもエログロがないので、家族でも安心して観られる。

──試練を乗り越え、成長していく過程を追った物語もまた家族で楽しめますしね。

僕が好きな大人向けの海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」や、配信ドラマ「全裸監督」など、過激になりがちな作品とは相対しますね(笑)。中国には検閲があるというのもありますが、安心して家族と観られるスーパーエンタテインメントを中国史上最大規模の製作費で作るという大局に、だんだんエンタテインメント自体がなっていくと思います。それほど今の中国は、一般の人がネットでもテレビでもドラマが観られる環境や文化が育ってきているんだなと感じながら拝見していました。

──そんな中国史上最大規模の100億円を掛けて製作された「神龍<シェンロン>」を観始めた印象はいかがでしたか? 60話だから最初はちょっとひるみますよね?

この世界観にはすぐ浸れました。中国では、確か2話ずつ放送しているんですよね。早く次を観たい気持ちが正直あったので、DVDで一気に観ることができてよかった(笑)。何もわかっていない、元気がいいだけのヤン・ヤン演じる林動(りんどう)が成長していく物語にはやはり引き込まれます。個人的に好きなのは、前半の林動、綾清竹(りょうせいちく)、応歓歓(おうかんかん)の三角関係。言い寄ってくる歓歓には興味なし、興味ある清竹にはことごとく無視される。彼らがどうなっていくのかなと、かなり気になりました。

──硬派なヒーローというよりは、恋多き男と言える林動は人間味がありますよね。

イメージで言うと、「新世紀エヴァンゲリオン」とかぶるなあと思って観ていました。綾清竹は綾波レイで、神格化されている存在。林動は碇シンジで、こじらせている感じ。応歓歓は惣流・アスカ・ラングレーでしょうね。「あんたバカァ!?」みたいなノリ。おそらくプロット決めをするとき、スタッフはキャスティングボードを見ながらあーだこーだと言いながら人物相関図を作っていたと思うんです。30~40話あたりからダークな雰囲気に変わってくるところも「エヴァ」と似ていますよね。

──キャラクターとしては誰に一番惹かれますか?

主人公の林動に関しては、どうしても狂言回しだなって思っちゃうんですよ。ストーリーテラーなので無色透明。味があるという意味では、林琅天(りんろうてん)が意外に難しい役どころだったと思います。林動の義兄弟であり好敵手。最初は味方だけど、だんだんダークサイドに引きずり込まれる。裏切るところが1つの肝かなと思いました。林琅天がいるから物語が成り立っているところもある。林琅天に恋する義理の妹・林青檀(りんせいたん)の幸が薄い感じも気になっています。あと穆芊芊(ぼくせんせん)も色っぽいお姉さん担当で、いい味を出していますよね。

──どちらかと言えば、ヒールに惹かれるんですね?

「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」より、ウーズン演じる林琅天。

個人的にはそうですね。「バットマン」を観ても主人公のバットマンじゃなく、ジョーカーびいき。悪がいるから正義がいる。悪人がいなければ主人公が生きてこない。だから悪役って面白いし、悪人を演じることは役者冥利に尽きると思います。レクター博士やダース・ベイダーも映画史上に残る悪役。一方で、「シザーハンズ」や「エレファント・マン」など悪役ではないけれど、見た目で怖がられてしまうキャラクターの葛藤も描きがいがありますよね。今回は、悪役ゆえの苦悩もあった気がします。

入念なリサーチから生まれたドラマ

──ほかの海外ドラマ、映画と重ねてみていかがですか?

僕はどちらかというと映画のほうが専門なんですが、例えるなら「スター・ウォーズ」にも通じる。対比ができますね。岩(がん)大師という師匠がいて、妹がいて、好敵手がいて、仲間がいて、ダース・ベイダー的存在の穆芊芊がいて、その後ろで魔族の皇帝・魔皇が糸を引いている。三角関係があって、お供もいる冒険活劇。「ロード・オブ・ザ・リング」「ハリー・ポッター」や、「ONE PIECE」「ドラゴンボール」といった少年ジャンプ的な感じもあります。「桃太郎」もそうじゃないですか。林動と行動をともにする小貂(しょうてん)、小炎(しょうえん)のどっちがキジで、どっちがサルか(笑)。あと、平成の「仮面ライダー」現象に近いと思うのは、子供がアクションシーンをかっこいいからと観る傍ら、お母さん方はイケメンにハマって観ている。日本でも「神龍<シェンロン>」がそうなる可能性はあるでしょうね。

──そう思うと、中国のスタッフはかなりリサーチをしていますよね。

1060人のスタッフが関わっているので、めちゃくちゃ調べているでしょうね。それでなくても、近年の中国は映画にしろドラマにしろ、エンタテインメントにかなりのお金を掛けている。「トランスフォーマー」がいい例ですが、中国でロケーションをしたり、キャスティングに中国人を入れ込んだりと、今のハリウッド映画の3分の1はチャイナマネーで成り立っている。さらに中国の国力をもって、自国のエンタテインメントを作っていこうという流れがある。これまで中国が作ってきたものはアメリカナイズされていない作品が多かったけれど、洋画や海外ドラマを観て育った人たちが成長し、「スター・ウォーズ」のようなものを自国で作りたいと、「神龍<シェンロン>」のような作品ができあがったはずなんです。そういう心意気を感じました。

──中国ではゲーム「真・三國無双」が映画化されましたが、ゲーム好きの視点から観た「神龍<シェンロン>」はいかがでしたか?

有村昆

ゲームに通じるシーンはたくさん出てきましたね。応歓歓がとげとげした氷の武器を使い、相手を身動きできないように攻めるシーンは超ゲームっぽかったです。大きな見せ場で好きだったのは、第19~20話の符師塔の戦い。空中に浮いている岩をぴょんぴょん飛んで頂上に向かって進んでいくところなんて、まさにゲーム的でした。その戦いを前に、林動が雷に打たれながら修行をするシーンや、目が見えなくなり心眼を鍛えるシーンもよかった。結局、また見えるようになるから、なんだったのかっていうのはありますけど(笑)。死んだと思った主要キャラクターも生き返ったりするし……なんでもありです。

──バッドエンドにならないというのも、安心して観られる理由の1つでしょうね。アクションシーンについてはいかがでしょう? 実際に殺陣などをやられている有村さんはどうご覧になりましたか?

ヤン・ヤンの動きがけっこう速いんですよね。CGではありますが、炎虎と戦う冒頭シーンのアクションからすごかった。やるぞっていう意気込みが伝わってくる。がんばっているなと思いました。林琅天演じるウーズンとの対決も何度かありますが、2人とも動きがいい。綾清竹役のワン・リークンは北京舞踏学院出身、応歓歓役のチャン・ティエンアイも北京電影学院出身と超エリートぞろい。それだけに、身体表現を最大限生かしたアクションは見応えがあります。

中国肝入りの底力

──日本でも近年、時代劇は作られていますが、ここまでの超大作はなかなか作られないし、ヒットもなかなか難しいのでちょっとうらやましいですよね。

本当にそうですね。昔から、映画会社が儲かると「忠臣蔵」を撮るってよく言われますが、時代劇ってものすごくお金が掛かるんですね。登場人物も多いし、セットも組まなければいけない、雪のシーンもある。やっぱり映画会社がお金を持て余すくらいじゃないと撮れないと言われていて、予算がないと現代劇ばかりになってしまう。今、中国がかつて25億円掛けた「三国志 Three Kingdoms」や55億円掛けた「水滸伝」とは明らかに違うビッグバジェットで撮ることができるのは、中国の経済に深く関係していると言えるでしょう。日本で言うところの「忠臣蔵」理論では、「神龍<シェンロン>」のような時代劇を中国で撮るということ自体、今、中国の経済が絶好調ってことにつながるのかなと思いながら観ていました。

──では、60話掛けて展開していくドラマについてはどう観られましたか?

「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」

見どころがいろいろありました。恋愛もの、アクションもの、師弟もの、仲間もの、友情ものという目線で観られる。久しぶりに60話を一気見しました。日本だと50話の大河ドラマくらいのボリュームですが、今の時代、動画はYouTubeとかInstagramは1分10秒の世界。それを待てない若い子たちが次から次へとアップするから、動画はめちゃくちゃあふれているんですね。何かあるとYouTubeだけ観て消費していく。動画だけでなく、すべてのエンタテインメントが右から左へと流れるスピードが速すぎる。流行語も月1回流行語大賞を設けていいくらいの短いスパンだと思うんです。そんな中、「全60話でたっぷりやります」「腰を据えて観られます」みたいなドラマだからこそ逆に、ここまで深堀りできるんだなと思いました。

──長尺だからという面白さもありますしね。

確かに60話だからこそ、サブストーリーを描ける面白さがある。あのときの話があとでこうつながるのかと、観返したくなる面白さ。そこは2時間の映画とは違います。あと、ひそかに癖になったのは、毎回流れる最後のエンディングのバラード。いい曲だなあと思いました。

──配信の時代になった今、中国市場がこのメインストリームにどう絡んでいくかが楽しみでもあります。この「神龍<シェンロン>」の大ヒットで今後の中国の市場が見えてくる気もしますが。

「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」

中国は国が絡んでいるから強いですよね。国の許可、検閲がいまだに厳しいからファンタジー時代劇で好きにやる。これは発見でしたが、本物の時代劇だったら史実通りに作らなければならないけど、ファンタジーだったら結末がわからない。黒幕が誰だかわからないし、裏切りも次々と起こる。そんな先の見えない展開も面白いと思いました。あと、我々が日々生活している中で、上司とか友達関係とか恋人関係とかの悩みはありますが、本作も林動を中心に、いろんなキャラクターが板挟みで悩んでいたりする。基本、悩みがないとドラマにはならないけれど、それを1つずつ乗り越え、次のステージに上がっていき、気付いたらいつの間にか人類を救うところまできちゃった。そんな悩みを持つキャラクターたちに、ドラマを通じて自分を投影して観ることができる面白さも発見でした。

──最後に、60話ご覧になったからこそ言える、ハマる魅力をお願いします。

僕は本当に好きでした。久しぶりに、ここまでの肝入りドラマを観たという満足感。腰を据えて観ろ!っていう中国の本気度を感じました。クリエイターや俳優たちが本気で中国の素晴らしいところを見せようと作った、やっつけじゃないこのすごさをぜひ体感してください。

有村昆