WOWOW「殺意の道程」特集|バカリズムが挑む新感覚サスペンスコメディ、描いたのは復讐実行までの“どうでもいい過程” / 井浦新インタビューも / 第1話を無料公開

おっさん2人が再び人生を謳歌する

──井浦さんは現場に入る前に、自身の役が普段どんな生活をしているのかをじっくり考えると伺いました。一馬についてはどうお考えですか?

「殺意の道程」

一馬はどこかで自分の人生をあきらめていたんだと思います。可もなく不可もなくの生活が続いていくと考えていた。仕事は嫌いではないけれど生きていくためにこなしていて、ちょっと年式の古い車に乗ってそれをたまにいじることが最大の幸せ。女性とデートする楽しさとかはもう忘れちゃってるし、だからこそ、そこにエネルギーを注がなくていいと思っていたんです。朝起きて、仕事して、テレビを観て寝る生活の繰り返しで、それが別に嫌でもないという。

──そんな一馬が父親の自殺という予期せぬ出来事に直面して、仇である室岡への復讐を計画するようになります。

皮肉にも、復讐というすごくネガティブな動機によって一馬は変わっていきます。撮影しながら感じたのは、一馬はキャバクラで働いているこのはやゆずきといい関係になるわけではないですが、復讐を行動に移していくうえで大事なものを取り戻し始めるということです。何かに一生懸命取り組んでみるとか、人と深く関わり合ってみるとか、大切な人のことを思うとか、忘れていた感覚を思い出していく。

井浦新

──サスペンスコメディでありながら、人間の再生も描いているということでしょうか?

そう思います。親だったり知人だったり、死というものに向き合わないといけない瞬間は必ず訪れる。そこで絶望してしまうこともあるけれど、日々の暮らしの中で小さな希望を見つけることでまた一歩前進することができる。その再生が復讐を通して描かれています。もちろん笑えるというのが核なんですが、人間讃歌の物語にもなっていて。バカリズムさんにこの話をしたら「深読みです」と言われましたけど……たぶん照れているんだと思います(笑)。

──「涙が一筋出てしまうような喜劇が好き」とおっしゃっていましたが、本作にもそういうシーンはありますか?

バカリズムさんのモットーは笑わせたい、楽しませたいということだと思うんですが、正直泣きそうになる部分もあります。一馬と満という冴えない生活を送っていた2人が、再び人生を謳歌していくところにもグッと来ます。おっさん2人の青春物語とも言えるかもしれませんね。

わかりやすくダサいのではなくて、ダサさがにじみ出ている

──撮影中は笑いがこらえきれないシーンが多かったと聞きました。

もう楽しすぎて。それが要所要所で出てしまっているかもしれません。芝居を超えちゃうところが多々ありました。

──一馬が満やゆずきにファッションセンスを指摘されるコミカルなシーンもあります。井浦さんはファッションブランド・ELNEST CREATIVE ACTIVITYのディレクターを務めていますが、一馬のダサさはどのように表現したんですか?

わかりやすくファッションセンスが悪いアイテムでそろえると作品とずれると思って、微妙なズレを攻めました。バカリズムさんが書いたセリフにも狙って笑わせようとするものはなくて、あくまで登場人物たちは真面目で、それが視聴者からしたら滑稽に見える。だからファッションも狙いすぎないようにしました。

──服はどのように決めていったんでしょうか?

「殺意の道程」

一馬は自分のことをイケてると思ってるけど、どう考えても色が地味すぎるとか、この上着にこのパンツは合わないみたいな服装になっています。雑誌に載っているちょっと変わったコーディネートに影響を受けて、そのままマネしてるような。見た目がわかりやすくダサいのではなくて、ダサさがにじみ出ている感じです。

──なるほど(笑)。

具体的なところで言えば、一馬がキャバクラに行くときに着ているシャツはポール・スミスのものなんです。服単体で見ればかっこいいじゃないですか。何がダサいかと言うと、シャツの袖の内側がカラフルになっていてボタンを留めると見えないんですが、一馬はあえてボタンを留めずにその部分をみんなに少し見えるようにしているんです。そういう一馬の小さなこだわり、内面的なダサさにも注目してみてください(笑)。

第1話を無料公開

第1話が公式サイトおよびYouTubeで配信中。期間は2020年12月25日(金)正午まで。


2020年10月29日更新