ルームロンダリング 池田エライザ×羽賀翔一インタビュー|幽霊が生き方を教えてくれる?「漫画 君たちはどう生きるか」著者と語る“人生のロンダリング術”

撮影が始まるまでコメディだって気付かなかったんです(池田)

池田エライザ

──池田さん、台本を読まれたときの心境などお聞かせいただけますか?

池田 台本をいただいたときは、ちょうど母の実家に帰っていた時期だったんです。この作品のどの要素が観る人に寄り添うかっていうのは、その人の人間性や環境によって、それぞれ違うと思うんですけど。私の場合は、久しく会っていなかった家族が生きててくれること自体がありがたいなと考えているときに、ちょうど台本をいただいて。なので私にとってこの作品は、母親と向き合う御子ちゃんが「0.5歩進むまで」のお話だと思っていたんです。

──温かいヒューマンドラマのような印象でしょうか。

「ルームロンダリング」より渋川清彦演じる公比古。

池田 なので、この作品がコメディだって気付いたのは、撮影が始まってからだったんですよ。それまでは自分の中で、すごくハートフルなお話だなと思っていました。(渋川)清彦さん演じる幽霊の公比古が現れて「コメディかもしれない……!」と思って(笑)。でも作品にとても惚れ込んでいたので、すぐに「やりたい」って思いました。

──作中に登場する幽霊たちにちなんでの質問ですが、お二人は亡くなった方の存在を感じたことはありますか?

池田 亡くなった祖父のギターを高校生のときから弾いてるんですが、ある時期に「なかなか上達しないな」とくじけてしまったんです。それから1カ月後ぐらいに弾いてみたら音色がまったく変わっていて。シンガーをやっている母や、母のバンドメンバーに「弦変えた?」って聞いても誰も変えてないって言うんです。母には「おじいちゃんが素敵にしてくれたんじゃないの?」と言われました。「このギター、こんなにいい音だったんだ!」って急にすごく愛着が湧きましたね。それ以来弦は変えてないんですが、深みがあってやる気が出る音を今も鳴らしてくれています。

──羽賀さんはいかがですか?

左から池田エライザ、羽賀翔一。

羽賀 吉野源三郎さんの「君たちはどう生きるか」をマンガ化する企画が始まったとき、マガジンハウスの編集者さんがマンガ家を探してたそうなんです。そこでその編集者さんが講談社の原田隆さんに相談したところ、たまたま原田さんが「ケシゴムライフ」を読んでいて、僕を推薦してくださったんです。ですが僕が描いている途中に、原田さんが突然倒れて亡くなってしまって。一番の恩人というか、直接お会いしてはいないんですが僕を推薦してくださった方にこの本を届けることができなかったんです。顔を見て、「本ができました」って伝えたかったですね。でもなんだか、原田さんが見守ってくれている気持ちになって、だからこそこれだけたくさんの人に届く本になったのかなと。

──もし原田さんが生きてらしてたら、なんて声をかけてくださると思いますか?

羽賀 原田さんの周囲の方に聞くとすごく“いいおっちゃん”というか、面倒見のいいおじさんだったと聞くので、明るく声をかけてくれたのかなと想像しています。

悟郎の優しさは、僕が描きたかったおじさんと似てる(羽賀)

──この映画と「漫画 君たちはどう生きるか」の共通点として、叔父と姪もしくは甥の関係性が描かれている点があります。「漫画 君たちはどう生きるか」の“おじさん”と本作でオダギリジョーさん演じる御子の叔父・悟郎は正反対の叔父さん像として映りますが、羽賀さんは悟郎についてどう思われましたか?

「ルームロンダリング」よりオダギリジョー演じる悟郎。

羽賀 僕は「漫画 君たちはどう生きるか」でおじさんを描くとき、説教臭くならないようにというか、「こう生きなさい」って上から下にベクトルが行かないように気を付けていました。押し付けがましくなると読めなくなっちゃう本だったので、どちらかというと、原作よりも親しみやすいおじさんにしたかったんです。だから御子に向ける悟郎の優しさは、僕が描きたかったおじさんと似てるなと思いました。破天荒ではあるんですが「こうしろああしろ」って言わず、御子の進んでいく道を一歩引いて照らしているっていう。

──なるほど。池田さん、そんな悟郎を演じられたオダギリさんとのエピソードをお聞かせいただけますか?

池田 オダギリさんはずっと悟郎さんでいてくださいました。ご一緒するのは初めてで、自分でも萎縮してしまうんじゃないかってすごく不安だったんですけど、現場でも悟郎さんとして振る舞っていただけたからこそ、御子ちゃんが内弁慶でいられたんじゃないかなって思います。反抗期や思春期に親がいなかった御子を受け止めてくれた悟郎さんは、悪友じゃないですけど、親よりも少し近いところでコミュニケーションが取れる、御子ちゃんにとってホームみたいな存在で。それは私にとってもそうです。

──本作では読書家の御子がいつも手にしている本も注目ポイントの1つでした。登場する本のセレクトはいかがでしたか?

「ルームロンダリング」

池田 基本的に登場する本は監督が読んでいた本で、私も児童文学が好きなので子供の頃に読んだ本があって懐かしくなりました! 子供も読める本だけど、数年経って読んでみると社会的な皮肉だったり風刺が交えられていたりするものとか。いつ読んだかで見え方が変わってくる本もいくつかあったりして。そこから監督の人間性が見えるようで、面白かったです。

羽賀 「ぽっぺん先生と帰らずの沼」もそうなんですか?

池田 ぽっぺん先生もそうです。御子ちゃんと(健太郎扮する)亜樹人は片桐監督の分身なんですって。本のラインナップを見ると、それもうなずけるなと思いました。

羽賀 へえー。

「ルームロンダリング」
2018年7月7日(土)全国公開
「ルームロンダリング」
ストーリー

いわく付きの物件を渡り歩く八雲御子の職業は、自殺・殺人などでワケありとなった部屋に住み込み、事故の履歴を帳消しにする“ルームロンダリング”。隣人との交流がご法度となるこの仕事は、人付き合いが苦手な御子にとって好都合、のはずだった。行く先々で御子を待ち受けていたのは、この世に未練を残して幽霊になった元住人たち。幽霊が見えてしまう御子は、彼らの絶え間なく続く悩み相談に振り回されていく。

スタッフ / キャスト

監督:片桐健滋
脚本:片桐健滋、梅本竜矢
出演:池田エライザ、渋川清彦、健太郎、光宗薫、オダギリジョーほか

池田エライザ(イケダエライザ)
1996年4月16日生まれ、福岡県出身。2009年にニコラモデル・オーディションでグランプリを受賞し芸能界デビュー。女優としても活躍しており、2011年公開作「高校デビュー」で映画初出演を飾る。ほか出演作に「チェリーボーイズ」「となりの怪物くん」などがあり、2018年8月31日には「SUNNY 強い気持ち・強い愛」、10月19日には「億男」の公開を控える。
羽賀翔一(ハガショウイチ)
1986年生まれ、茨城県出身。2010年に「インチキ君」で第27回MANGA OPEN奨励賞受賞。2011年に「ケシゴムライフ」をモーニングで短期集中連載し、2014年には同作が単行本化された。「漫画 君たちはどう生きるか」(原作:吉野源三郎、マガジンハウス刊)で注目を集める。現在はTwitter上で「お題マンガ」として1ページマンガを公開している。