「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」が4月10日に劇場公開される。2017年に放送されたテレビシリーズのその後を描く本シリーズでは、アンジェとプリンセスの約束の行方と、チーム白鳩に下された新たな任務の模様が全6章構成で描かれる。
映画ナタリーでは、監督の橘正紀と脚本を担当した木村暢の対談をセッティング。劇場版で大きな柱となる2つのトピックが語られるほか、制作陣が気にかける意外なキャラクターの存在が明かされた。
※9/24追記:本作の公開は2021年2月11日に延期となりました。
取材・文 / はるのおと
トリッキーさもコメディも入り混じった「プリプリ」
──木村さんは劇場版からの参加ですが、もともと「プリンセス・プリンシパル」は観られていましたか?
木村暢 観ていました。だからオファーをいただいた段階でどんなものかは知っていたんですが、正直悩みましたね。テレビのシリーズ構成を担当されていた方が個人的に「すごいな」と思っている大河内一楼さんだったので、その続きが自分に務まるかなという思いもあって。ただそういうお話をいただけたのは素直にうれしかったし、1時間尺の脚本も初めてだったので、チャレンジのつもりで参加しようと決めました。
橘正紀 木村さんには劇場版のプロットを作る頃から参加していただきました。それで僕やチーフプロデューサーのバンダイナムコアーツ湯川淳さん、アニメーションプロデューサーのアクタス丸山俊平さん、リサーチャーの白土晴一さんなどと一緒に方向性を決めていきました。
──木村さんは「プリンセス・プリンシパル」の魅力はどこにあると感じていましたか?
木村 自分がまず衝撃を受けたのが第1話のラストでした。スパイに「僕を殺すのか」と言われた主人公のアンジェが「いいえ」って言いながら銃を撃つという(笑)。それからトリッキーな話が続いていくかと思えば後半の話でいきなり土俵入りが出てくるし、硬軟入り混じっていたところが面白かったです。
橘 あの相撲シーンはビジュアルのインパクトもすごかったですしね。シナリオをもらったときはどう絵にするか迷ったけど、(アニメーターの)江畑諒真さんがきちんと描いてくれたのでよかったです。
木村 少し画面の前でずっこけましたけど(笑)。「後半にこの話やる?」って。
橘 終盤は重い話が続くので、息抜きが必要だろうということであそこに入れたんです。全体の構成については、プロデューサーや各話脚本の方々と頭を突き合わせてすごく考えました。
──「プリンセス・プリンシパル」はシリーズ構成の妙も魅力だったと思います。24話分に相当する量のエピソードの中から12話分をピックアップし、シャッフルして放送するという。
木村 シャッフル構成自体は前例がないわけではないけど、面白い方法ですよね。しかも放送になかったエピソードでは何があったんだろうと気になりましたし。
橘 シャッフルは大河内さんからの提案でした。エピソードをそのままやっていくとチーム白鳩の5人がそろうまで時間が掛かるので、最初に全員が活躍してどんなテイストの作品かわかる話(※第1話として放送された「case13 Wired Liar」)をやって、興味を持ってもらってからキャラクターを掘り下げていこうという意図がありました。
「裏切りのサーカス」をエンタテインメント寄りに
──「プリンセス・プリンシパル」はスパイ×スチームパンク×女子高生という独特な世界観のオリジナル作品ですが、制作にあたって影響を受けた作品はありますか?
橘 ありますね。スパイもののメジャーなところだと「007」や「ミッション:インポッシブル」、あと女の子が主人公なので「チャーリーズ・エンジェル」とか。
──橘監督はもともとスパイものの映画やドラマが好きだったとか。木村さんはいかがですか?
木村 監督と同じく「007」や「ミッション:インポッシブル」は観ていましたし、今回やるにあたって「キングスマン」や「裏切りのサーカス」を参考用に観て楽しませてもらいました。
橘 リアリティのあるスパイものを目指すために、一番参考にしたのは「裏切りのサーカス」ですね。でも「裏切りのサーカス」のようにやりすぎると難しい話になるので、もう少しエンタテインメントに寄せました。あと劇場版の作業中には「ブラックリスト」(※米国のテレビドラマシリーズ)の話も出ましたよね。
木村 そうそう。ああいう感じで、ドラマと展開がうまく噛み合っている作品は面白いですよね、という話をしたんです。「プリンセス・プリンシパル」のテレビシリーズもそうでしたけど。
橘 この作品はスパイ活動を追いながら、彼女たちの内面を描くという映し鏡のような構造になっているんですけど、テレビシリーズではそこが狙い通りに描けた手応えはあります。
木村 あと劇場版の脚本を書いていても感じましたけど、「プリンセス・プリンシパル」は情報の密度が高いですね。そのおかげで観ていて飽きないし、何度観直しても楽しめる。
橘 それはシナリオだけでなく絵的な部分も含め意図しています。画面の端っこに伏線になるようなものを仕込んだりして、当初からリテラシーの高い話にしようとは考えていました。視聴者の皆さんはそうやって仕掛けたものも逃さず拾ってくださってうれしかったです。
──そういった楽しみ方もできるし、女の子たちが活躍するさまやドラマをただ楽しむこともできるという懐の深さも「プリンセス・プリンシパル」の特徴だったと感じています。
橘 そのさじ加減は、「攻殻機動隊」シリーズで神山健治さんが作ったシナリオで勉強させてもらいました。あれって実在する事件や治療薬をモチーフにしているけど、あまりその話を前面には出さず、あくまで作中世界の中でわかる情報を提示するだけ。深く説明はしないけど、興味を持ってネットで調べればいろんな情報が手に入る。そういった、かゆいところに手が届かないけど話の筋はわかるというバランス感覚はそこで学んで、「プリンセス・プリンシパル」で生かせました。
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テレビシリーズのその後を描くことを決めました
2021年2月4日更新