カミナリが語る「任俠学園」|そういえばギャップばっかだな!“お笑い”としても極上の任俠コメディ

西島秀俊と西田敏行のダブル主演作「任俠学園」が、9月27日に公開される。

本作は世の中のルールは絶対守る、社会貢献が大好きな“ありえない”ヤクザ・阿岐本組(あきもとぐみ)が、経営不振に陥った高校の再建に奮闘するさまを描く人情コメディ。今野敏による同名小説を、ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」の木村ひさしが実写映画化した。

映画ナタリーでは、義理人情に厚いことで知られるお笑いコンビ・カミナリに本作をひと足早く鑑賞してもらった。任俠ものなのに舞台が学園、西島がこれまでのイメージにないヤクザ役……など、本作で描かれるさまざまな“ギャップ”が楽しいと語り、最後には「ぜひ家族で!と自信を持って言える」と太鼓判を押した2人。小ネタが満載で細部までこだわり尽くして作られた本作の魅力を、お笑いのプロの視点から語ってくれた。

取材 / 狩野有理 文 / 秋葉萌実 撮影 / 後藤壮太郎

コメディ好きはもちろん、任俠もの好きも満足できる(まなぶ)

──お二人には事前にこの作品をご覧いただきましたが、いかがでしたか?

石田たくみ 最初にタイトルを聞いたとき、「任俠ものなのに舞台は学校」という設定のギャップが新しいなと感じました。もしかしたら今の若い子は、劇中に出てくる高校生たちみたいに“任俠”とか“ヤクザ”ってなんだかとっつきにくい題材のように思うかもしれませんが、僕は逆に、「本来怖い存在であるはずのヤクザが学校を再建する」という振り幅のある設定が絶対に面白いだろうなって思ったんです。そして実際に観てみると、とても楽しくて観やすい映画で。こだわり尽くして作られた感じがありつつもスッと入ってきましたし、セリフ回しのテンポがよく、緩急の付け方の絶妙な感じが漫才っぽく感じられました。

カミナリの竹内まなぶ(左)と石田たくみ(右)。

竹内まなぶ 僕もわかりやすくてスカッと笑える感じがよかった。調子はコメディ要素が強いんだけど、ところどころに「アウトレイジ」を彷彿とさせるようなドスの利いたやりとりが出てきて緊張感があって。あのギャップがいいですよね。コメディ好きはもちろん、任俠ものが好きな人も満足できる映画だと思います。

たくみ 「任俠×学園」というテーマはもちろん、ギャップが利いた細かい描写が随所にちりばめられていて。本来正反対にあるはずのものが融合するとこんなに面白くなるんだなと感じました。

──配役についてはどうでしょう。旬の若手やベテランなど豪華な俳優陣がそろいましたが。

「任俠学園」より、左から西島秀俊演じる日村、佐野和真演じる真吉、前田航基演じる徹、池田鉄洋演じる健一、伊藤淳史演じる稔。

たくみ 日村役の西島秀俊さんがヤクザを演じるようなイメージがなかったので新鮮でした! あと、すごく顔が怖いし武闘派のヤクザ(池田鉄洋演じる健一)が、めちゃめちゃ料理上手なのもいい(笑)。

まなぶ 伊藤淳史さん演じる稔がよく日村に頭をたたかれていたので、僕は彼に感情移入できたかな(笑)。それと、まえだまえだのお兄ちゃん(前田航基)も組員を演じているのが意外でした。前田くん……芸歴的には先輩だから“前田さん”かな?

たくみ 俺は“前田くん”を貫くよ。芸歴じゃなくて年齢で決める!(笑)

まなぶ じゃあ俺は“前田さん”で行く! 前田さん演じる徹がヤクザらしい調子で返事をするシーンは普段の穏やかなイメージと異なりびっくりしました。彼は「ワイドナショー」に出たりもしているし、本当になんでもできるんだなあと発見がありましたね。

おやっさんの自分を貫く姿に憧れる(たくみ)

──西田敏行さん、中尾彬さん、光石研さん、白竜さんなど「アウトレイジ」シリーズを彷彿とさせるような俳優も多く出演しています。

「任俠学園」より、西田敏行演じる阿岐本雄蔵。

たくみ ヤクザもののイメージが強い俳優さんもいれば、西島さんのようにこういうジャンルの作品に出ているのを初めて見る人も。配役のバランスがいいなと思いました。かっこいいなと思ったのはやっぱり西田敏行さんが演じた組長です。追い込まれるシーンもあったのに、彼だけは一度も動揺しませんでしたよね。ちゃんと自分を貫いて筋を通しているからこそですが、その姿には憧れます。

まなぶ 組長は自分を、そして何よりも仲間を信頼している。自分たちは正しいことをしているんだと、信念を貫いている姿がすごくかっこいいよね。 芸人もそうですが、不安定な仕事をやっていると自分の中で大事に持っているものを貫かないといけない。そういう面では共感できるところがありました。

たくみ 僕にも信念はありますが、まだやっぱり動揺することが多いから、組長みたいな人間になりたいなと思います。それと最後にちょっと照れるシーンもまたよくて。

──ちなみに、お二人にとって西田さん演じるおやっさん(組長)のような方はいますか?

たくみ 恩があるのは、同じ事務所の先輩でもある永野さんですね。

まなぶ ……僕はサッカーをやっていたのでやっぱりジーコとかですかね! あとは永野さんも大きい。大学生の頃に、永野さんとハリウッドザコシショウさんとユンボ安藤さんの三つ巴ライブへ行ったときに、めちゃくちゃ笑いを取っているのを見て刺激を受けて、大学を辞めようと決めました。

石田たくみ

たくみ 永野さんには一度もおごられたことないし、誕生日プレゼントももらったことないけど、あの人のお笑いが本当に面白いから大好きなんですよ。一緒に飲んでも絶対割り勘ですし、なんなら14歳上の永野さんがお釣りをもらって得して帰っていく。僕は芯の部分で永野さんに惚れているので、それでもまた飲みたいって思うんです。

──永野さんがグレープカンパニーにとってのおやっさん的な存在なんですね。

たくみ いや、それは言いすぎです!(笑) 阿岐本組長は絶対後輩におごってくれる方だと思います。それに組長は社会貢献が好きで阿岐本組の人たちを振り回すけど、実はものすごく子分思いなところもあって、何かあったときはちゃんと守ってくれるし尻拭いをしてくれる。組織の上に立つ人としては理想的な存在ですよね。

「任俠学園」

──阿岐本組の中でも“中間管理職”的な、日村というキャラクターについてはどう思われましたか?

たくみ やるべきことはやる、責任感のある男ですよね。学園の再建はおやっさんに頼まれて始めたことですが、生徒たちが一歩を踏み出して変わっていく様子にやりがいを感じたのか、日村自身もだんだん前向きになっていく。あとヤクザだからこそできるような“教育”の仕方もかっこいい。先生は「俺のおごりだから一緒に窓ガラス割ろう」なんて言えませんしね(笑)。でもその結果、生徒たちは心を開いて変化していった。自分が高校生のときにこんな感じの大人がいたらよかったなとうらやましくなりました。

──確かに阿岐本組は、学校側が見ないふりをしてきた問題や生徒1人ひとりとちゃんと向き合っていますよね。

まなぶ ヤクザだけど人のよさを感じられる描写があったのも面白かったです。日村が初めて学校へ入るときに、脱いだ靴をそろえていたのが印象的で。

たくみ ああ、確かに!

竹内まなぶ

まなぶ いい人なんだなあと思った瞬間に、生徒に「おい!」って言うし(笑)。その振り幅が面白かったですね。そんな日村たちが、違う環境に行っても一生懸命やる姿に思うところもあって。2017年に「歌ネタ王決定戦」というコンテストに挑戦したときに、リズムネタは持っていなかったけど出るからには一生懸命やらなきゃとがんばったら、決勝まで行けたんですよ。

たくみ ちゃんとプライドを持ってやったら、気付いたら決勝にいて。4位で終わりました。

まなぶ あの大会だけ(M-1グランプリ優勝者の)霜降り明星に勝ってますから(笑)。

たくみ 映画の中で日村も「最低限のことじゃなくて、最高のことをしろ」とかっこいいことを言っていましたが、彼のように自分のフィールドじゃないところであったとしても、何事にもまっすぐ一生懸命取り組むというのは重要ですね。

「任俠学園」
2019年9月27日(金)全国公開
ストーリー

困っている人は見過ごせない、義理と人情に厚い弱小ヤクザ“阿岐本組”。地元を愛し社会貢献に目がない組長は、厄介な案件を次々と引き受けてしまう。そんな阿岐本組が依頼を受けたのは経営不振の高校の建て直し。親分に振り回されてばかりのナンバー2・日村は、子分たちを連れて学園を訪れるが、彼らを待ち受けていたのは、今どきの高校生と、事なかれ主義の教員たちだった。

スタッフ

監督:木村ひさし

原作:今野敏「任俠学園」(中公文庫)

脚本:酒井雅秋

主題歌:東京スカパラダイスオーケストラ「ツギハギカラフル」

挿入歌:歌・西田敏行、演奏・東京スカパラダイスオーケストラ「また逢う日まで」

キャスト

西島秀俊、西田敏行、伊藤淳史、葵わかな、葉山奨之、池田鉄洋、佐野和真、前田航基、戸田昌宏、猪野学、加治将樹、川島潤哉、福山翔大、高木ブー、佐藤蛾次郎、桜井日奈子、白竜、光石研、中尾彬(特別出演)、生瀬勝久ほか

カミナリ
茨城県出身の幼なじみ、竹内まなぶと石田たくみで2011年に結成されたお笑いコンビ。2016年、17年の「M-1グランプリ」で決勝に進出。現在「おはスタ」「名医のTHE太鼓判!」「カミナリのチャリ旅! シーズン3」「カミナリの『たくみにまなぶ』~そういえば茨城ばっかだな~」にレギュラー出演中。