
笑うだけじゃない作品に仕上げているのが、とても現代的
──ジョンウもといジョンミがまだ女装に慣れていないとき、足を開いて座っちゃったりするシーンがありますけど、ドリアンさんも経験ございます?
私、こういう所作に関しては本当に雑なんですよ……。18歳くらいから女装してますけど、それこそデビューしたての頃は諸先輩方から指摘されたりしましたから。
──例えばどなた?
〇〇さんとか……。いや、やめておきましょ(笑)。いずれにしても、私が体現していることは、女性らしい所作を求められていない世界観だったのでそれほど気にしてなかったんですよね。ただ、歳とキャリアを重ねていくうちに、やはりエレガンスは携えていかないと、と思うところはあります。こういうしぐさって、慣れていないと絶対にできないですから。その点で言うと、チョ・ジョンソクさんは芝居とはいえ、よくできちゃってるんですよ。偏見かもしれないですが、ヘテロセクシュアル(※編集部注:異性に対して恋愛感情や性的感情を抱くセクシュアリティのこと)の男性が女性を演じると、トゥーマッチになってしまいがちなので。ジョンミは女性の役ではなくて、男性が女性に化けている入れ子構造の役じゃないですか。だから最初から女性になりきることでもないですし、次第に身に付けていくプロセスも含めて、すごく上手にこなしてらっしゃると感心いたしました。
──なかなかこういう役はないですよね。
ヘテロセクシュアルの男性が女性になりきる、というと「ミセス・ダウト」や「トッツィー」がありますけど、どれも本作のように隠しごとがバレないようにしているから起きるドタバタを描いているんですよね。言わばこの作品もそのジャンルでは王道と言えるんじゃないでしょうか。
──「ミセス・ダウト」や「トッツィー」は女性に化けるのにものすごい時間が掛かるし、本作同様にバレそうになる面白さを見せますけど、ジョンウがジョンミになるのは早替えくらいのレベルですよね。
そこはもう演出として割り切って(笑)。私もドラマに出演したときは、2分くらいの間ですっぴんから女装になるってくだりがありましたから。ただ、トイレでちゃちゃーっとしたメイクではバレないレベルにできませんよ(笑)。
──ドラァグクイーンの皆さんが本作を観たときの反応が楽しみです。
ただね、トランスジェンダーではなく、ゲイでもなく、ドラァグクイーンでもなく、ただの女装というのはなかなかニッチでもあるんですよね。仕事のために女装する、という点では私たちと似ているんですけど、クィアのコミュニティの話ではないので。それでも、今の社会に根付いているホモソーシャル(※編集部注:男性同士の性愛を伴わない結び付きや“男の絆”を意味する言葉)な部分やジェンダー格差の問題、またはジェンダーの捉え方の世代間格差みたいなところもさりげなく描いているじゃないですか。ドタバタコメディではあるものの、それだけじゃない。笑うだけじゃない作品に仕上げているのが、とても現代的だと思います。

制服はごっこ遊びの中でも最強のアイテム
──好きなキャラクターはいました?
映画では総じて強い女性キャラが好きなんですが、この作品で言うとソ・ジェヒさん演じる航空会社のCEOノ・ムニョンが大好物でしたね。ネタバレになるので多くは言えませんが、そもそも女性が大企業、それも男性が強い業界である航空会社の重役というのも好印象でした。
──本作に登場するパイロットやCAさんの制服はどうでした?
どちらにしても気分が上がりますよね。なんでしょうね、この制服への憧れって。自分も含めて、クィアコミュニティの人たちはある意味、必要に迫られて“ごっこ”をしていると思うんです。例えば、ストレート社会になじむために“ストレートごっこ”とか。そういうことに慣れている私たちからすると、制服はごっこ遊びの中でも最強のアイテムだと思います。
──「気分が上がる」といえば、ジョンウがスルギに誘われて買い物に行くシーンで、ランジェリーを選ぶじゃないですか。そのときに攻めた真っ赤なランジェリーを身に着けたジョンウが「気持ちが上がった!」と言っていたのがリアルだなと思っていて。
あのシーンも、ジョンウが男性だからってことがあるんじゃないかしら。ほら、多くの男性ってだいたいスーツじゃない。いい生地や仕立てで勝負っていうことはあると思うけど、スーツ自体は色も形もそれほど変わらないから、バリエーションが多くないんですよね。その点、女性はいろいろなバリエーションを服装だけで作ることができちゃう。私もね、街の婦人洋品店に行くと驚くんですよ。すごい種類の形、色を使った服がたくさんあるの。男性からしたら、女性服のバリエーションの豊富さは未知の世界ですから、ジョンウがランジェリーの色だけで気持ちが上がるというのも理解できます。
──ドリアンさんはメイクやアウトフィットでスイッチが変わるんでしょうか?
それが、それほどでもないんですよね。デビュー当時からドラァグクイーンになること自体が楽しかったですし、なにせ今ではアウトフィットとルックを作り込むことでおまんま食わせていただいているようなものなので。メイクをして衣装を着る。板前さんが鉢巻を締めるみたいな感覚かしら? むしろ一番テンションが上がるのは、パフォーマンスをするためにお客様の前に出る瞬間ですね。そこはスイッチが切り替わります。

人付き合いは腹六分目がちょうどいい
──では、ジョンウのように隠しごとをしながら生きることに対してはいかがでしょう?
そもそも人は、大なり小なり隠しごとをして生きているもの。隠しごとがない人なんかいないと思うんですよ。隠しごとをしているという事実を、自分の中でどう落とし込むかが大切。自分のすべてを全員にわかってもらおうっていうのは、私はある意味、おごりだとも思うし、TPO(時・場所・場合)によってペルソナを変えるのは、皆さんがしていることだとも思うんですね。ただ、その中でも、隠しごとをせずに会いたい、隠しごとをも分かち合える人に出会ったときのプレシャスさやありがたみはひとしお。だからお墓まで持っていく秘密があってもなくてもいいし、ちっちゃい隠しごとをしていくのもいい。それが本人のストレスにならなければ。
──なるほど。大人としてどう情報処理するか、ですね。
そう。セクシュアリティや体のこととか、一朝一夕ではどうにもできないセンシティブなことを隠しながら生活を営むのはストレスフルだと思うし、自分らしく生きるためには壁になっちゃうかもしれないけど、それも人それぞれの状況と選択ですし。私の持論ですが、人付き合いは腹六分目がちょうどいい。親子でも夫婦でも恋人でも友達でも、親しき仲にも礼儀ありって言葉が示す通り、それを超えると厄介だと思いますよ。
ドリアン・ロロブリジーダ interview ~behind~
プロフィール
ドリアン・ロロブリジーダ
1984年12月24日生まれ、東京都出身。2006年にドラァグクイーンとしてデビューし、イベントやMC、モデル、映画、ドラマ、舞台、CMなど活動は多岐にわたる。主な出演作は、映画「エゴイスト」、ショートフィルム「ストレンジ」、ドラマ「人事の人見」「ぼくたちん家」、Netflix映画「シティーハンター」、Netflixリアリティシリーズ「ボーイフレンド」など。映画ライターのよしひろまさみちとクィア映画を中心に紹介するYouTube企画「新宿二丁目映写室」を展開中。
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元スターパイロットハン・ジョンウ(演:チョ・ジョンソク)
かつては情熱に満ちたパイロットだったが、予期せぬトラブルと誤解によって職を失い、人生が急転。失意の中、思いもよらない出来事をきっかけに“人生の再離陸”を目指すことになる。ユーモアと不器用さ、そして揺れる感情が交差する、物語の核となる人物。
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航空会社に現れた新人パイロットハン・ジョンミ(演:チョ・ジョンソク)
突如として現れ、周囲の注目を集める新人パイロット。真面目で淡々とした態度の裏に、どこかぎこちなさを感じさせる。彼女(?)の登場が、物語を予想外の方向へと動かしていく。
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ジョンウと出会う女性スルギ(演:イ・ジュミョン)
再起を目指すジョンウが出会う女性。まっすぐで誠実な性格で、どん底にいる彼と自然体で向き合う。その存在は、ジョンウの人生に静かな変化をもたらしていく。
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ジョンウの妹 ジョンミ(演:ハン・ソナ)
現実的でしっかり者の性格。転落した兄を厳しくも温かく支える。再起を目指すジョンウのもっとも身近な理解者であり、物語の中で重要な選択を後押しする存在となる。
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ジョンウの元同業者ヒョンソク(演:シン・スンホ)
かつてジョンウと同じ世界に身を置いていた人物。現在は異なる立場から彼の前に現れ、過去と現在を対比させる存在。ジョンウにとって現実を突き付ける役割を担う。






















