樋口真嗣が語るNetflix映画「ミッドナイト・スカイ」|革命的なプロダクションデザイン!ジョージ・クルーニーが贈る、現代と地続きの壮大なドラマ

“絶望的な状況で人間はどう生きるべきか”を説く作品

今の世の中に響く映画だと思いました。新型コロナウイルスがはびこる現代と地続きな感じもするし。

──先が見えない状況に置かれたとき、人間はどんな行動を取るか、取るべきかが描かれていますね。

普通だったら物語を盛り上げるために地球側と宇宙側の対立を入れたり、裏切り者を用意したりする。でもこの映画はそうじゃない。登場人物の純粋さ含め、美しくきれいな物語。脚本を書き始める前の段階から、「絶望的な状況で人間はどう生きるべきか」という指針が関わっている全員にたたきこまれている気がしました。

──人類が滅びかけている話ではありますけど、暗い気持ちにはならなかったです。絶望的な状況だからこそ誰かのために生きようとする気持ちも人間にはあるよなと思って。

自分だけ助かればいいわけじゃないんだ、と教えられている気持ちになるよね。でも説明は少ないから説教臭くないという、そのバランスも見事でした。

宇宙船やヘルメットが革命的で、SF好きはご飯3杯いける!

──これまでに何千本というSF映画を観てきたと思いますが、新鮮に感じた場面はありましたか?

「ミッドナイト・スカイ」

宇宙船のデザインに今のテクノロジーがものすごく反映されていると思いました。3Dプリンタで作られているような感じ。最近はギプスもけがに合わせた形で作られたりしているけれど、それに似てる。今では現実の宇宙服や操縦席が映画と同じくらい洗練されていて、「じゃあSF映画ではどう表現していけばいいんだ?」と思ったときの答えが「ミッドナイト・スカイ」の中にありました。

──宇宙服のデザインも見たことがないものでした?

「ミッドナイト・スカイ」

ヘルメットに驚きました。今まで宇宙映画ではヘルメットをどうするかという問題がずっとあって。リアルに作っちゃうと顔が見えないから、どうやって見えるようにするか、どうお芝居を撮るかというのが悩みごとだった。中に電球をたくさん付けて顔を照らしたりしてたんですよね。今作では金魚鉢みたいに360°ガラスになっていて、しかもそれが浮世離れしてるようにも見えないのがかっこよかった。我々宇宙ものをずっと観てきた者にとっては、宇宙船と同じくらいヘルメットが革命的でした。

──SF好きならではの視点ですね。

自動で降りてきて、後ろからカチャッとはまる装着の仕方も初めてじゃんっていう。例えば「ゼロ・グラビティ」はすごくリアルなんです。でも本物をほぼ忠実に再現しているから、NASAのサイトに行けば同じようなものが見れたりする。それに対して「ミッドナイト・スカイ」は誰かが考えた新しいもの。映画の宇宙服って2010年代のどこかで確立されたデザインでしばらく止まっていたんだけど、今回更新されたなと。写真付きで解説したいくらいです(笑)。SF好きはあの宇宙服だけでご飯3杯いける!

──(笑)。ほかにも樋口さんだからこそ気付けたような部分はありますか?

SFというかアメリカ映画でよくあることなんだけど、肌が印象的。ジョージ・クルーニーとフェリシティ・ジョーンズ演じる2人が交信しているところでそれぞれのアップになるんだけど、シワや毛穴がちゃんと見えたりする。でもそれが嫌な感じに見えないというか。老けたと言われる可能性はあるのに、まったくいとわずに年輪を出し切っている。ヒロインであろうと小ジワがあるほうがリアルだし美しいという考え方が存在しているし、それが映画に説得力を与えていると思います。

配信で観ても映画館と同じ心理状態に持っていく方法が
ある気がする

──2021年初夏には監督作「シン・ウルトラマン」の公開を控えていますが、今後配信向けに作品を作ってみたい気持ちはありますか?

樋口真嗣

やってみたいですね。シリーズものっていいなと思うんです。せっかく作ったキャラクターを2時間の映画で終わらせるのがもったいなくて、「このキャラクター使って別の話も作れるのに」とよく思いますし。

──例えば今は「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」2作や「シン・ゴジラ」がNetflixで配信されています。ご自身の監督作が配信で観られるようになってきていることについてはいかがですか?

映画館で上映される期間って公開日から数カ月なので、「映画館で観てもらわないと困る」とは言えないですよ。映画自体を観てもらえないよりは配信で観てもらえたほうがうれしいです。配信で観ても映画館と同じような心理状態に持っていく方法って何かある気がする。それをNetflixが発明してくれたらうれしいです(笑)。