樋口真嗣が語るNetflix映画「ミッドナイト・スカイ」|革命的なプロダクションデザイン!ジョージ・クルーニーが贈る、現代と地続きの壮大なドラマ

ジョージ・クルーニーが監督、製作、主演を担当したNetflix映画「ミッドナイト・スカイ」が12月23日より独占配信される。滅亡の危機に瀕した地球で孤独に生きる科学者のオーガスティンが、探査ミッションを終えて帰還しようとする宇宙船のクルーたちに、惨状を伝えようと奔走するさまを描いた本作。クルーニーがオーガスティンを演じ、フェリシティ・ジョーンズ、カイル・チャンドラー、デミアン・ビチルらがキャストに名を連ねた。

映画ナタリーでは「シン・ゴジラ」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」などで知られる映画監督の樋口真嗣にインタビューを実施。大のSF通でもあり、普段から頻繁にNetflixを利用しているという樋口に、本作の魅力を語ってもらった。壮大な物語でありながら、深遠でエモーショナルなドラマも紡がれる「ミッドナイト・スカイ」は、美しいバランスで着地した傑作だと語る樋口。「ご飯3杯はいける」という宇宙服や、3Dプリンタ的だという宇宙船など注目すべきプロダクションデザインについての話も聞いた。

取材・文 / 小澤康平 撮影 / 後藤壮太郎

監督ジョージ・クルーニー×Netflix×SF

「オーシャンズ」シリーズや「ゼロ・グラビティ」への出演で知られるジョージ・クルーニーは、これまでに「スーパー・チューズデー ~正義を売った日~」「サバービコン 仮面を被った街」といった映画で監督を務め、「グッドナイト&グッドラック」ではアカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされるなど製作者としても高い評価を得ている。そして今回、Netflixと初タッグを組んだクルーニーが描いたのは、人類滅亡が迫る地球で北極圏に留まる孤独な科学者オーガスティンと、惨状を知らずに地球へ帰還しようとする宇宙船クルーたちの物語。宇宙と地球を舞台にした壮大なスケールで、ミステリアスかつ深遠な心揺さぶるドラマが紡がれる。

「ミッドナイト・スカイ」

ハリウッドのレジェンドであるクルーニーのほか、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」「インフェルノ」への出演で知られ、「博士と彼女のセオリー」ではアカデミー賞主演女優賞ノミネートを誇るフェリシティ・ジョーンズも参加。「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のカイル・チャンドラー、「ヘイトフル・エイト」のデミアン・ビチル、「インターステラー」のデヴィッド・オイェロウォら演技派が脇を固め、脚本は「レヴェナント:蘇りし者」で高い評価を得た実力派マーク・L・スミスが担当した。

樋口真嗣インタビュー

歴史に残る名作は必ずしも経済的に成功したわけじゃない

樋口真嗣

──「ミッドナイト・スカイ」の話に入る前に伺いたいのですが、普段からNetflixは使っていますか?

使ってます。ちゃんと一番高いプレミアムプランで(笑)。だから画質は4K UHD、音声は(ドルビー)アトモスで観られる作品はうれしいですよね。

──配信で映画を観ることについてはいかがですか? スクリーンで映画を観て育ってきたと思うのですが。

抵抗はないですね。昔からVHSやレーザーディスク、DVDを買ったり借りて家のテレビで観ていたわけですし。むしろ家の視聴環境を充実させつつ、映画館は最高の環境で映画を観られる体験なんだと気持ちを切り替えてます。

──ソフトをレンタルして観る時代が20年くらい続いていて、そのときと比べたら今のほうが映画を観やすくなったと言えますね。

配信をダメと言っていたら先に進めないんじゃないと思うし。かつてテレビが台頭してきたとき映画はお客さんを取られちゃったけど、そのあとテレビに対抗できるような映画が作られてきた流れもあるわけで。Netflixが次々に面白い作品を生み出しているなら、それに負けないような劇場映画を作っていけばいい。Netflixがあるおかげで、「ミッドナイト・スカイ」のような劇場公開では企画が通りづらそうな作品も生まれてくるわけですし。

──と言いますと?

「ミッドナイト・スカイ」メイキング写真

宇宙と地球を舞台にしたスケールの大きな物語でありながら、ある意味で、引き算をして研ぎ澄まされた映画だとも思いました。こういう静謐な名作SFと言えば「ブレードランナー」があるけれど、公開当時は大損していて、製作したラッド・カンパニーはすぐに潰れてる。「2001年宇宙の旅」だって「惑星ソラリス」だって、歴史に残っている名作って必ずしも経済的に成功したわけじゃない。だから配信という形でも「ミッドナイト・スカイ」のようなクオリティの高い映画の企画が通るのは、すごくいいことだなと思います。もしかしたらNetflixにも「より盛り上がるシーンを入れたほうがいいのか?」という葛藤があったかもしれませんが、そういう場面って観客には「ここいる!?」と思われることが多い。今作にはそういう不要なシーンがなくて、美しいバランスで着地していると感じました。

──日本ではなかなか企画が通らなさそうな作品でもありますよね。

うん、だからうらやましさもあります。アメリカではSF映画というジャンルがしっかり定着している。日本はコミックやゲームではSF的な切り口のものが多いけど、映画は少ないので。

「メッセージ」のような壮大で静かなSF映画の傑作

──ジョージ・クルーニーの監督作にはどんな印象をお持ちでしたか?

何作かは観てますけど、実直な社会派の映画ですよね? そんな過去の作品と比べると「ミッドナイト・スカイ」は十分キャッチーな題材というか。スティーヴン・ソダーバーグの「ソラリス」やブラッド・バードの「トゥモローランド」、アルフォンソ・キュアロンの「ゼロ・グラビティ」に出ているし、ジョージ・クルーニーはSF好きなんじゃないのかな?と思いました。

──「ゼロ・グラビティ」での経験は撮影にも生きているみたいです。

予告を観たときに「また同じことやるのか?」と思ったんですけど(笑)、逆でしたね。ジョージ・クルーニー本人は宇宙ではなくて地球にいる、という。撮影は大がかりながらも、ある程度場所を絞り込んでやっていたのが映画的ですごくよかった。今ほどアメリカ映画が豊かじゃなかった「スター・ウォーズ」旧3部作あたりの時代には、スケールの大きいSFを限定された視点でどう見せていくかがたくさん試されていて。「エイリアン」も宇宙船の外のシーンはあまりなくて、実はそんなにセットを作っていない。でもそれを感じさせない映画というのがあの時代には数多くあった。

──「ミッドナイト・スカイ」もその系譜の作品だと。

マーベルみたいな規模が大きすぎる映画を観ていて、みんなちょっとまひしちゃってるけど、「SF映画ってもともとこういう工夫にあふれたものだから!」と思います。マーベルはマーベルでもちろんいいんですけど。ドゥニ・ヴィルヌーヴの「メッセージ」のような、壮大かつ静かなSFの傑作でした。

「ミッドナイト・スカイ」

──敵が現れるような展開がなくとも、2時間退屈せずに観られるのは、何が理由だと思いますか?

一番は脚本だと思います。ストーリーがしっかりしているということですね。そしてもちろん、ジョージ・クルーニーの監督としての手腕もすごい。お芝居が本当にうまい人が集まっているし、「キングコング」「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」に出ていたカイル・チャンドラーの一人芝居にも泣かされました。あとはカットの美しさ。滅亡しかけている地球のカット、よかったなあ。