「ラ・ラ・ランド」のシネマ・コンサートがやってくる!映画好き芸人・こがけん×映画評論家・松崎健夫が劇中音楽の魅力を熱くトーク (2/2)

この映画は“ハリウッドの神話”みたいな話(こがけん)

──「ラ・ラ・ランド」は、お二人とも何度も観られているんですか?

こがけん 映画館で2回観て、そのあとBlu-rayを買ってから3回以上は観ていて、テレビでも観て……みたいな感じなので、全部で6回ぐらいかな?

松崎 僕も一緒ぐらいです。何度も観れる理由の1つは、観るたびに演出に発見があること。最初のほう、ミアがカフェで働いているシーンではコーヒーを俯瞰で撮ったりしていて、(カットの切り替えに)音を入れることでリズムを出してミュージカルっぽくしている。隅から隅までそういうことをやっているので、何度か観ることで意味があるショットに気付くんです。オープニングのショットもタイミングが素晴らしくて、ダンサーたちのポテンシャルの高さを感じたり。そういうのが何度も観れる要素なんですよね。

こがけん それと、オフビートな感じで明確な笑いとかじゃないんですけど、やっぱり観てもらいたいのは、ライアン・ゴズリングの二度見。

松崎 やっぱそこか!(笑)

左から松崎健夫、こがけん。

左から松崎健夫、こがけん。

こがけん ライアン・ゴズリング、めちゃくちゃ大好きなんです。ゴズリング演じるピアニストのセブは基本的にポーカーフェイスで、本当は「これはクリエイティブじゃないな」と思っている仕事でも顔にはなかなか出さないんですけど、ゴズリングはそれをちゃんと目の光り具合で表現しているんです。あと僕、この映画って“ハリウッドの神話”みたいな話だと思ってて。おそらくこれは、ハリウッドにはミュージシャンや俳優の卵が何度となく繰り返してきた夢を追う人生の歴史があって、その話を1つ象徴的なものにしたかった気持ちがあるんじゃないかなと。

松崎 映画についての映画にもなっているので、100年以上の歴史を持つハリウッドで、2010年代にこういう男女を描いたってことは、その意図もあると思います。

こがけん セブは、ハリウッドでミュージシャンを目指してきた人の象徴的存在で、ミアは女優の卵の象徴的存在。音楽の神と演技の神のロマンスを描いて、それをロサンゼルスに閉じ込めちゃう。しかもタイトルを「ラ・ラ・ランド」にすることによって、舞台のロサンゼルスまでもファンタジックに!

「ラ・ラ・ランド」より、左からセブ役のライアン・ゴズリング、ミア役のエマ・ストーン。 ®, TM & © 2023 Lions Gate Entertainment Inc. and related companies. All Rights Reserved. HURWITZ LIONSGATE

「ラ・ラ・ランド」より、左からセブ役のライアン・ゴズリング、ミア役のエマ・ストーン。 ®, TM & © 2023 Lions Gate Entertainment Inc. and related companies. All Rights Reserved. HURWITZ LIONSGATE

松崎 ハリウッドのおとぎ話にしてしまうってことですよね。

こがけん クラシカルな美術や服もそういうテーマの表れかもしれないです。

松崎 衣装などで原色がよく使われているのも、1920年代に映画に音が付いたときにすぐミュージカルが作られるようになって、その後カラーになったときに色が付いていることをわかりやすくするために原色がめちゃめちゃ使われたことに対するオマージュみたいなものかなと。今だったらなかなかやらないような、わかりやすい色の使い方をすることで、かつての映画の作り方に対する敬愛みたいなものを残しているのもすごくよかった。ポスターにも使われている(劇中曲「ア・ラヴリー・ナイト」の)シーンなんかは、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの姿を想起させるような踊りにしているし。

こがけん

こがけん

松崎健夫

松崎健夫

こがけん 街灯を使って踊るシーンは、「雨に唄えば」(1952年)の感じもありますよね。

松崎 今までミュージカル映画が好きで観てた側からすると「ジーン・ケリーだ!」ってわかるようになっていて、ほかにも「ここはあの映画のあのシーンをまねたんじゃないか」って言いたくなるような作りを監督はわざわざやってる。

こがけん だからこそ、アカデミー賞で14部門ノミネートされるほど支持されたんだと思います。このあとのミュージカル映画を決定的に活気付けましたよね。ここからすぐ「グレイテスト・ショーマン」「イン・ザ・ハイツ」とか出てくるわけじゃないですか。ミュージカル映画復活のとんでもない起爆剤になったなって思います。

これこそが4Dじゃないですか?(松崎)

松崎 そんな「ラ・ラ・ランド シネマ・コンサート2024」に期待するのはどんなことですか?

こがけん 例えば、素晴らしいスピーカーやイヤフォンを形容するときに、「音が立体的」って言いますよね。シネマ・コンサートなんてその最たるものですから。

松崎 これこそが4Dじゃないですか?

こがけん そうですよ! 音を研究されている方が、「音の振動を体で感じるから、人間は映画を体験として感じることができる。大画面での映像の迫力だけじゃない」って話をされていて。実際にオーケストラの音を振動として感じられるっていうのは、これ以上にない体験だと思います。

2017年「ラ・ラ・ランド」シネマ・コンサートの様子。

2017年「ラ・ラ・ランド」シネマ・コンサートの様子。

松崎 僕は以前にも「スター・ウォーズ」などでシネマ・コンサートを拝見したことがあったんですけど、「メリー・ポピンズ」を観たときに、ミュージカルってさらに親和性があるなと思いました。「ラ・ラ・ランド」も音楽がメインの映画だから、4D的な体験をするのには一番いい環境なんですよ。あと、今回の「ラ・ラ・ランド」では、セブが弾いているシーンに合わせて本物のピアニストが生演奏するらしいです。

こがけん とんでもないプレッシャーじゃないですか! ライアン・ゴズリングはこの作品のために数カ月掛けてピアノを習得しましたからね。その画面に合わせてやる……。その人だけでもギャラをアップしてほしいですね(笑)。あと、ジョン・レジェンド(扮するキース)が歌う売れ線の曲「スタート・ア・ファイア」は、セブが弾くキーボードだけゴダイゴのミッキー吉野さんみたいな演出になってるんですけど、そのときセブは(自分がやりたい音楽じゃないから)顔が死んでるんです。だから、シネマ・コンサートでもそのキーボードを弾いている人の表情が見たいです。負荷が高いですけど、セブがやってた重要な役なので、どうしても逃れられないスポットライトです(笑)。

──まだシネマ・コンサートを体験したことがない人も多いと思うんですけど、どう楽しむのがお勧めですか?

松崎 映画を観に行くというよりも、音楽の生演奏を聴きに行くんだっていう気持ちが僕はいいと思ってます。東京フィルの演奏を聴こうと思って行ったら、音はすっごくリアルな生演奏ならではの音が聞こえてくるのに途中から映像のほうに引っ張られて、いつものように映画を観てる感覚になっちゃうっていうのがシネマ・コンサートの魅力な気がするんです。映画が、映像と音楽どちらの力も働いて1つの芸術になっていることを再確認できる場になると思います。

こがけん 映画ファンの人って、家の音響を5.1chサラウンドとか7.1chサラウンドにしたりするじゃないですか。うちも7.1chサラウンドスピーカーを持ってるんですけど、限界はあるので、このバランスで聴けることは絶対にないです!

松崎 「ラ・ラ・ランド」自体が旧作になったので、映画館で観る機会も少ない中、ホールの大スクリーンで観れるっていうことも貴重な体験になると思います。

左から松崎健夫、こがけん。

左から松崎健夫、こがけん。

プロフィール

こがけん

1979年2月14日生まれ、福岡県出身。コンビでの活動を経てピン芸人となり、バラエティ番組で披露したハリウッド映画の“細かすぎて伝わらないモノマネ”で話題に。2019年には「R-1ぐらんぷり」の決勝に進出した。同年、おいでやす小田とのピン芸人ユニット・おいでやすこがを結成し、「M-1グランプリ」に出場。2020年には同大会で決勝進出を果たし、準優勝を飾った。

松崎健夫(マツザキタケオ)

兵庫県出身の映画評論家。テレビ・映画の撮影現場を経て映画専門の執筆業に転向。キネマ旬報やELLE、映画の劇場用パンフレットに多数寄稿しているほか、テレビ・ラジオ・ネットメディアにも出演している。ゴールデングローブ賞の国際投票権を有し、田辺・弁慶映画祭のコンペティション部門などで審査員を務めている。デジタルハリウッド大学の客員准教授。