邦画では無理だと思っていた
──原さんには、原作が連載10周年を迎えた2016年にコミックナタリーの特集(参照:原泰久「キングダム」インタビュー)に出ていただいて。
お久しぶりです。
──あれから約3年が経過した今年、実写映画が公開されることになりました。連載を開始して長い間映画化の話はなく、実現しないと思っていたとお聞きしたのですが。
はい。実写だととにかく予算が莫大になるので、邦画では無理だと思っていました。中国が何かをきっかけに気付いてくれるしか可能性はないなと(笑)。そんな中でいただいた話だったんですよね。
──映画化に対しては話が来た時点から乗り気だったんですか?
もちろんうれしかったんですけど、僕含め集英社も慎重に考えていて。実現するかどうかわからないから、まだ喜ばないようにしようみたいな。でも脚本が上がってきたので本当にやるんだなと。
──予算も邦画の中では最大級とのことです。
そうですね。ただ、もっとかかると思っていたんです。予算を抑えられた理由には松橋真三プロデューサーの「戦場を撮らない」という英断があって、今回は原作5巻までの王都奪還編で勝負しようという話になりました。「キングダム」のストーリーは長いですし、もし可能なら続きを作って戦場はそっちで撮ろうと。
──なるほど。原さんは脚本担当として黒岩勉さん、監督の佐藤信介さんとともにクレジットされていますが、どのように関わっていたんでしょうか?
まず最初に言ったのは原作をそのまま画にしてしまうと失敗するということです。なぜかと言うと、原作5巻までの話を2時間ものとして描いていないから。ちゃんと2時間もののパッケージになるように、必要があれば遠慮なく変えてくださいと伝えたんです。それを踏まえて黒岩さんから素晴らしい脚本が上がってきて。その後は「ここはこうしたほうがいいんじゃないか」など案を出させていただきました。
──具体的にはどのような案を?
5巻までには王騎があまり出てこないんですよね。メインとなる話と接点がないまま登場するので、王騎をストーリーと近付けるか、もしくは離す必要があると思ったんです。離す場合は、出さなくてもいいと伝えました。代わりとなる何かを盛り込んでドラマチックにしましょうと。でもプロデューサーサイドは「王騎はいいキャラなので出しましょう」という考えだった。原作者としてうれしかったですし、じゃあ出しましょうと。
──では王騎をストーリーに寄せることになったんですね。
はい。そこで導入部分に、奴隷の馬車に乗っている幼い信が王騎軍と遭遇するシーンを入れることにしました。あとあと信にとって羅針盤的存在となる人物、王騎が映画で登場することが不自然にならないように。
吉沢亮さんの檄を見て「これはいける」
──中国の撮影現場も見学したと伺いました。
規模に圧倒されましたね。死体役のエキストラの方がたくさんいらっしゃって。
──実写に対する違和感はなかったですか?
むしろ安心しました。最初に見させてもらったのが、吉沢亮さん演じる嬴政が檄を飛ばすシーンだったのですが「これはいけるな」って。小さなモニターで観てもすごい説得力だったんです。ずっと現場にいる人たちもこの場面を見たときは唸ってましたね。撮影が終わったあとは現場に入らせてもらったんですけど、信や河了貂(かりょうてん)がマンガそのままにそこにいる感じで。大沢さん演じる王騎が来たときは、役者さんたちにも緊張が走ったのがわかりました。
──実写版・王騎を見ていかがでした?
王騎は正直、人が演じることをまったく想定せずに描いてるんですよ。演じるとなると外国のプロレスラーを連れて来ないといけなくなる。大沢さんはトップクラスの役者さんですし、演技は申し分ないんですけど、パッと見たときの肉体の説得力に関しては一抹の不安がありました。……でも、実際に見たらすごかった。
──どのあたりにすごみを感じたんでしょうか。
まず、プロレスラーみたいに腕の太さが常人の2倍なんです。姿勢もすごくよくて、穏やかな方だから挨拶しても気さくに返してくれるんですけど、ちょっと王騎が入ってるから怖いんですよ。ニコッとした顔も王騎に見えて「うわっ!」って(笑)。
──(笑)。外見の威圧感はもちろん、マンガだからこそ成り立つような笑い方も自然に表現されていると感じました。
しゃべると本当にすごい。怖くて現場の空気が変わりますよね。ものすごい量の肉も食べていたみたいで、松橋プロデューサーが「プロフェッショナルなんで作って来てくれます」と言っていた意味がわかりました。
成蟜は原作の100倍増し(笑)
──以前のインタビューで、マンガよりも映画をよく観ていたから、空間を感じないと嫌だとおっしゃっていました。今作での空間表現はいかがでした?
信と漂が森の中で訓練しているシーンがあるんですけど、色がすごくきれいなんです。CG処理をしていないそのままの色なんですよ。スタッフさんが飛び回って美しい場所を見つけてきてくれたおかげで、空間の存在をリアルに感じることができます。王都で戦うシーンも映画のためにさまざまな場所の色を塗り直しているので説得力がある。あと、成蟜の玉座の間の描き方はすごいですね。
──本郷さん演じる成蟜が座っているところですね。
あそこまで凝った玉座と空間一式のデザインは自分にはできなかった。週刊連載で、時間的に優先順位が下がってしまう部分というのもあるんですが。
──本郷さんも悪役である成蟜を憎たらしさたっぷりに演じてました。ビジュアルが公開されたときもSNSを中心にぴったりだと話題になっていて。
僕は実写化にあたり一番躍動したキャラクターは成蟜だと思ってます。もちろんすべてのキャラクターに命が吹き込まれているわけですけど。今思うと、僕は成蟜に感情をそこまでシンクロさせて描けていなかったんですよね。
──しゃべり1つ取っても上手で説得力があるので、成蟜にも感情移入しやすいと思います。
そうなんですよね。本郷さんの成蟜を観たとき「そっか、そうだよな」と納得感がありました。色気も感じますし、原作の100倍増しです(笑)。
- 「キングダム」
- 2019年4月19日(金)全国公開
- ストーリー
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時は紀元前、実力者たちが勢力を振るい合う春秋戦国時代。戦災孤児の少年・信は天下の大将軍になるという夢を持っていた。幼なじみの漂と剣術の鍛錬をして日々を過ごしていた信は、あることをきっかけに中華統一を目指す若き王・嬴政(えいせい)と出会い、王都へ向かうことに。そこで起こっていたのは自身こそが正当な王であると主張する嬴政の弟・成蟜によるクーデター。信は、王派と王弟派の血で血を洗う覇権争いに巻き込まれていく。
- スタッフ / キャスト
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原作:原泰久「キングダム」(週刊ヤングジャンプにて連載中)
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、佐藤信介、原泰久
主題歌:ONE OK ROCK「Wasted Nights」
出演:山﨑賢人、吉沢亮、長澤まさみ、橋本環奈、本郷奏多、満島真之介、阿部進之介、深水元基、六平直政、髙嶋政宏、要潤、橋本じゅん、坂口拓、宇梶剛士、加藤雅也、石橋蓮司、大沢たかお ほか
- 映画「キングダム」公式サイト
- 映画「キングダム」公式アカウント (@kingdomthemovie) | Twitter
- 映画「キングダム」公式アカウント (@kingdom_movie) | Instagram
- 「キングダム」作品情報
©原泰久/集英社 ©2019映画「キングダム」製作委員会
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ユナイテッド・シネマ / シネプレックス
- 原泰久(ハラヤスヒサ)
- 1975年6月9日生まれ、佐賀県出身。2003年に週刊ヤングジャンプ(集英社)の新人賞・第23回MANGAグランプリにて、「覇と仙」が奨励賞を受賞。同年ヤングジャンプ増刊・漫革Vol.36に掲載の「金剛」でデビューする。週刊ヤングジャンプ2006年9号から「キングダム」の連載をスタート。同作は実写映画だけでなくアニメ化やゲーム化も果たしており、2013年には第17回手塚治虫文化賞の大賞に輝いた。