ヒグマはゴジラとかなり近い(鈴木)
──劇中に登場するヒグマのビジュアルは想像していたよりも“モンスター味”が強いなと感じました。メイクアップアーティストとして実写シリーズ「ゴールデンカムイ」の百武朋さんが参加されていますね。
内藤 VFXではなく造形でやり切るという方向性はもともと決まっており、百武さんから「ある程度キャラクター性を出したほうがいいんじゃないか」と意見をいただいて。脚本にも“隻眼のクマ”という設定は入れていたのですが、百武さんのデザインでは体に傷跡があり、流れた血が固まって毛がゴワゴワしている特殊なディテールが作り込まれていました。先ほども申し上げた通り、フィクション要素が強いほうが現実との距離が生まれて安心して観ることができるのかなと。
鈴木 撮影現場で完成形と対峙したとき、想定していたよりもリアルで驚きました。「造形だろう」と思って撮影に臨んでも、いざ1対1で向き合うとめちゃめちゃ怖い。ローションでべちゃっとした気持ち悪さも相まって……。
内藤 そうだよね。百武さんは最初、大盤振る舞いで多めに傷跡を入れてくださったんです。でも「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガーみたいになってしまうと思い、現場で少し量を減らしました。またフォグマシンをヒグマの体毛に付けたら蒸気がもわっと出るようになり、生命感が増した。現場でディテールを足しながら撮影していったんです。
──なるほど。造形に異質感がある一方で、動き方はとてもリアル。近付いてくる姿には過酷な自然を生きてきた猛者の風格を感じました。
内藤 撮影ではスタントが1人で入る2足歩行のクマ、スタント2人が入って獅子舞のように動かす4足歩行のクマの計2種の着ぐるみを作ってもらいました。ただ百武さんは獅子舞スタイルで撮影したことがなかったことから不安を示されていて……。“4足グマ”のほうが人間2名が入る分大きくなりますし、のっそのっそと近付いてくる映像にもインパクトが生まれるから、絶対に使いたかった。1994年製作の「スターゲイト」という映画に出てくる白い宇宙生物も同じ手法で作られているんじゃないかと予想していたので、その映像を抜き出して、百武さんに「この時代でもやっているんですから絶対に大丈夫ですよ」と説得しました。絵コンテでは2足・4足のどちらも使用する想定でしたが、撮影中に4足のほうをメインで使用するようになっていきました。
鈴木 そういった作り込みがあった分、CGのヒグマと対峙することでは表現しきれないリアクションが生まれたのではと思います。
──ちなみに鈴木さんは「ゴジラ」シリーズがお好きだそうですが、「ヒグマ!!」に何か共通点は感じましたか?
鈴木 「ゴジラ」を含め、モンスター映画は「そのモンスターがどれだけ魅力的に見えるか」がすごく重要だと思うんですけど、ヒグマはまさにそのポイントを押さえたキャラクターでした。
福くんって存在自体がフィクションのようじゃないですか(内藤)
──また特に印象に残ったのは、小山内が最初にヒグマと対峙する、いわば“ファーストコンタクト”の場面でした。小山内の驚き・絶望が入り混じったあの表情が物語を動かすスパイスになっていたように感じます。
鈴木 絵コンテを事前にいただいていたので「こういう表情をしてほしいんだ」という意図は理解しやすかったです。楽しく観てほしい作品ですし、コメディ要素も意識して「ちょっとオーバーにやってもいいのかな」と。それであの表情になっています。でも心の内には恐怖感の軸をしっかり持っていたので、シリアスとコメディのバランスが取れた“映画らしい”場面になりました。
内藤 福くんには“陽”のエネルギーがあるから、撮影現場が明るい雰囲気になるんです。そのおかげで、たとえ恐怖シーンでもコミカルかつポップな要素を出せたと思っています。あと福くんって、もともと存在自体がフィクションのようじゃないですか。
鈴木 え、そうですか?(笑)
内藤 我々一般人からしたら、鈴木福という存在は実在の人間というより空想上のものに感じるんですよ(笑)。だからこそヒグマに襲われていてもけっこう楽しく観られるというか、笑えるんです。福くんが出ているだけでフィクション感が増す。この作品にとってはそれがプラスになりました。
鈴木 それはよかった……。
──鈴木さんのフィクション感、なんとなくわかるような気がします。
内藤 今回はクマ自体が造形であるが故に、引きの長回しで見せるよりは細かいカットを積み重ねて、まるで生きているかのような躍動感を表現することが必要でした。だから芝居も短いカットで成立するような、瞬発力のあるものを求めていました。福くんはオーダー通りにやってくれたのでやりやすかったし、「もうちょっとオーバーに」「ここは逆に抑えてシリアスめにしたほうが面白いかも」という調整もスムーズにできましたね。
鈴木 ありがとうございます。でもうまくいったのは、何より円井さんが近くにいてくださったことが大きかったです。派手なリアクションをする小山内と対照的に、若林は隣で常に冷静でいるタイプ。円井さんがうまくその緩急を作ってくださったので、小山内というキャラを自由に動かしても大丈夫だと思えました。現場ではそれをなんとなく感じていたんですが、映像になったときに「あの感覚はこれだったのか!」と気付いて、円井さんのすごみもそこで改めて実感したんです。
内藤 若林は小山内がヘンテコなことをやっても受け止めて、ツッコんでくれるんですよね。
鈴木 それがこの映画の楽しさにつながっています。あとこれはずっと感じていたことなんですが、この映画は一応“主演:鈴木福”になっているけれど、主演はヒグマでもあるんです。当初は「この映画はダブル主演だよな、なんなら“ヒグマ単独主演”と言ってもいい」と思いながら撮影をしていました。でも現場でだんだんと小山内のキャラクター感が強くなっていって、彼の愛らしさを出せるようにもなっていった。僕が演じるということの意味を自分なりに咀嚼できたし、小山内がヒグマに負けないキャラクター性を持っているからこそ、この作品がうまくまとまっているんです。
次回作は?「モチーフはまだまだありますから」
──ちなみにヒグマの次に戦ってみたいものはありますか?
鈴木 やっぱり大きいものと戦いたいですね。ライオンとかヒョウとか……クジラもいいかもしれませんね!
──次は水中戦ですね。監督は次作を撮るとしたら?
内藤 やるんだったら「ヒグマ!!2」でしょ! 小山内の物語はこれで終わりましたけど、ヒグマと掛け合わせたら面白い映画が作れそうなモチーフはまだまだありますから。例えば「○○VSヒグマ」。○○が○○するために山へ行ったら、ヒグマに襲われて、でも皮肉にも自らが虐げた○○に助けられちゃう、みたいな。ほかにもいっぱいアイデアがありますよ。
鈴木 ぜひ観てみたいです!
──読者にはまだ内緒ということで、あれこれ想像していただきましょう。楽しみにしております!
プロフィール
鈴木福(スズキフク)
2004年6月17日生まれ、東京都出身。1歳当時にNHK教育番組でデビューを果たし、2011年にテレビドラマ「マルモのおきて」で人気を博した。以降は映画、テレビ、舞台、CMなどで活躍。近年はミュージカルや情報番組のコメンテーターなど新たなジャンルにも活動の幅を広げている。最新作はドラマ「惡の華」など。
内藤瑛亮(ナイトウエイスケ)
1982年12月27日生まれ、愛知県出身。短編「牛乳王子」で学生残酷映画祭2009のグランプリを獲得し、「ライチ☆光クラブ」「ドロメ」2部作、dTVオリジナルドラマ「不能犯」のほか、「ミスミソウ」「許された子どもたち」「毒娘」などで監督を務めた。脚本担当として「ホムンクルス」「嗤う蟲」、2月6日公開のゆりやんレトリィバァ監督「禍禍女」にも参加している。



