ドラマ「宮(クン)~Love in Palace」や映画「神と共に」シリーズで知られる俳優チュ・ジフンの主演映画「ジェントルマン」が2月9日に全国で公開される。
ツンデレ皇太子や怨霊と戦う冥界の使者など、さまざまな表情で観客を魅了してきたチュ・ジフンは、「ジェントルマン」で“依頼された事件は100%解決”が売り文句の興信所の社長に扮した。劇中では誘拐事件のぬれぎぬを着せられた主人公が、ひょんなことから検事になりすまし、無実の罪を晴らすため奔走するさまが小気味よいテンポで描かれる。
筋金入りのファンはもちろん、「顔は見たことあるかも」という観客もチュ・ジフンの魅力に取りつかれるに違いない本作。この特集では彼のフィルモグラフィをおさらいするとともに、チュ・ジフンのファンミーティングに参加するため渡韓したこともあるライター・ひらりさによる「ジェントルマン」のレビューをお届けする。チュ・ジフンのインタビューもお見逃しなく!
レビュー / ひらりさ文 / 金須晶子
韓国映画「ジェントルマン」予告編公開中
1982年5月16日、韓国・ソウルで一家の長男として生まれる。2002年、187cmの高身長を生かしてモデルデビュー。数々のファッションブランドの広告やCMに起用され、2005年に俳優活動を開始する。2006年にドラマ「宮(クン)~Love in Palace」の皇太子役に抜擢されて数々の新人賞に輝き、翌年には日本で自身初のファンミーティングが開催された。
兵役を経て2012年に映画「私は王である!」で復帰してからは、映画やドラマで幅広く活躍。ドラマ「ハイエナ -弁護士たちの生存ゲーム-」の日本リメイク版が2023年に製作されたことは記憶に新しい。左右で雰囲気の異なる瞳を使い分け、ミステリアスな役から親しみやすい役までこなす。
20代、30代、そして40代へ!俳優人生をおさらい
役者の道に進んでまもなく、2006年のドラマ「宮(クン)~Love in Palace」のメインキャストに抜擢されたチュ・ジフン。現代の韓国に王室制度が残っていたら…という架空の世界の王宮ラブコメで、孤高な“高校生皇太子”を演じて一躍ブレイクする。明洞の繁華街のど真ん中でゲリラ撮影されたキスシーンなど、韓ドラ史に残る名場面も生み出した。アイドル的人気を博す一方、日本でもリメイクされたドラマ「魔王」では王子イメージを裏切る“復讐の鬼”を好演。そのほか20代の頃は「アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~」の美男子たちを率いる洋菓子店オーナー、「キッチン~3人のレシピ~」の自由奔放な天才シェフなど、愛嬌と危うさがミックスした姿でファンを惹き付けた。
兵役が終わってからは、これまで以上にジャンルを問わない作品選びで役者としての成長を見せつける。時代劇コメディ「私は王である!」では王位継承のプレッシャーから逃げ出す泣き虫王子と、彼にそっくりな奴隷身分の青年という1人2役に挑んだ。また男たちが地獄さながらの人間ドラマを繰り広げる「アシュラ」では人懐っこくも悪の道に踏み外す後輩刑事、「コンフェッション 友の告白」では友達思いだが保険金詐欺に加担するセールスマンを熱演。我を忘れて善悪を行き来する表現で注目を集めた。本人のひょうひょうとしたキャラクターも相まって、“世渡り上手でスマート”な役柄がハマり役となっていく。
韓国累計動員数2700万人超えのメガヒット大作「神と共に」シリーズは、日本での公開時にも大きく盛り上がり、応援上映やオールナイト上映ではコスプレをした観客の姿も。“冥界の使者”という奇異な役どころだが、圧巻のスタイルと軽やかな身のこなしで見事に演じきり、初共演したハ・ジョンウとはハワイ旅行に同行するほど親しい仲となった。刑事との攻防劇「暗数殺人」で見せたサイコパスな役柄は春史大賞映画祭で主演男優賞に輝くなど高く評価され、さらに韓国初のNetflixオリジナルドラマ「キングダム」で堂々と主演を張ったのもチュ・ジフンだ。演技力・人気どちらも折り紙付きの俳優として存在感を示している。
ドラマに専念したのち、4年ぶりに映画作品へと復帰した「ジェントルマン」は彼の魅力を余すところなく詰め込んだ作品に。日本で今夏公開予定の「非公式作戦(原題)」では、1980年代に中東地域で発生した拉致事件をモチーフに、同僚を救出しに行く外交官役でハ・ジョンウ、現地のタクシー運転手役でチュ・ジフンが再共演。極限状態の激しいアクションが大規模な海外ロケで展開される。40代に突入し、円熟味を増していくチュ・ジフンの今後にも要注目!
チュ・ジフンの変幻自在な魅力を堪能できる「ジェントルマン」
文 / ひらりさ
チェシャ猫みたいだ、とずっと思っていた。
「ジェントルマン」の主役を演じる俳優チュ・ジフンのことだ。
187cmの長身や涼しげな目元の第一印象が「猫っぽい」というのもある。大ヒットした「神と共に」で、黒のロングコートをひらめかせるチュ・ジフンの容貌を目にした時には、あまりのかっこよさに、心臓が止まるかと思った。
しかし、好きになってから圧倒されたのは、見た目から受ける「イケメン」のイメージを出演作ごとにガラリと裏切る、その演技力だ。
時には、刑事を翻弄する、婦女連続殺人事件の容疑者(「暗数殺人」)。
時には、兄貴分の尻拭いをするうち悪に染まる、若き元刑事(「アシュラ」)。
そして時には、敏腕のはずがライバル女弁護士の仕掛けたハニートラップに引っかかる、お坊ちゃん弁護士(「ハイエナ -弁護士たちの生存ゲーム-」)。
善も悪も、シリアスもコミカルも、振り幅広くこなしてしまう。「不思議の国のアリス」のチェシャ猫みたいに変幻自在な、演技派俳優なのだ。
そんなチュ・ジフン主演の新作「ジェントルマン」。キービジュアルを見てから、それはそれは楽しみにしていたのだが……期待以上に彼の「チェシャ猫」ぶりを堪能できる、極上のクライムサスペンスだった。
物語は、チュ・ジフン演じる探偵チ・ヒョンスが犬探しの依頼を受けるところから始まる。犬探しの過程で襲撃を受け、なぜか、依頼主である少女の誘拐容疑をかけられてしまうヒョンス。しかし、彼を連行しようとした検事が交通事故で意識不明となったことで、ヒョンスと検事が取り違えられてしまう。ヒョンスは検事の身分を利用しながら、容疑を晴らすために奔走することに。その背後には、法曹界の重鎮たちが関わる重大な事件が控えていた。
誘拐事件に巻き込まれる探偵役、というだけでもスリルある設定なのに、そこに「絶対バレてはいけないなりすまし」という要素が加わるとは! 探偵としての隠れ家に立ち入り捜査が入って慌てて窓から逃げたり、犬好きな検察庁秘書を(犬連れで)籠絡して重要情報を入手したり、探偵仲間を総動員して手に汗握る追跡劇を展開したり。「チュ・ジフンの魅力、何面でも見せます」という製作陣の意欲が、一貫して感じられた。感謝しかない。
ヒョンスと共同戦線を張る特捜部の女検事キム・ファジン(チェ・ソンウン)の存在も、作品を一筋縄ではいかないものにしている。優秀で勘の鋭いファジンが追及のジャブを打つたびに「ばれないでくれー!」とヒョンスに肩入れしながらハラハラしてしまう一方で、ヒョンスが垣間見せる思わせぶりな表情に、「この男……観客も知らない何かを隠しているのでは?」とドキドキさせられるのだ。
良質な犯罪エンターテイメントであり、チュ・ジフンの変幻自在な魅力、犬とのじゃれあいもたっぷりな本作。その「紳士的」な結末を、ぜひ劇場で目撃してほしい。
──「ジェントルマン」のシナリオを読んで、一番惹かれたのはどんな点でしたか?
シナリオを初めて読んだとき、「ジェントルマン」は「物語の持つ力」がある映画だと思いました。興信所の社長が巨大な権力に立ち向かうというコンセプト自体が機知に富みながらも、全体のトーンやマナーは荒唐無稽になることもなく、現実的に描かれていて面白かったです。何より、多くの人が望む「希望」が込められていて、映画の内容を想像するのに役立ちました。
──キム・ギョンウォン監督が「シナリオを書く段階からチュ・ジフンさんをイメージしていた」と話していた通り、チュ・ジフンさんの魅力満載の作品です。どんなところに注目してほしいですか?
主人公のヒョンスは、不可能だと思われることでも、決してあきらめずに最後まで問題を解決しようと行動する人物です。たとえ“映画だから許される”ファンタジー的な要素があるとしても、むしろこの部分が観客にすっきりとした楽しさを与えられると思います。
──本作は「犬を探してほしい」という単純な依頼から物語が複雑に展開していきます。チュ・ジフンさんは犬アレルギーだというニュースを目にしましたが、ウィング(出演した犬の名前)との“共演”はいかがでしたか?
犬アレルギーというより、犬が顔を舐めると皮膚に赤く発疹が出ます。自分も実際に犬を飼っていて、触ったりするのは大丈夫ですが、顔だけは近付けないようにしています。でも演技をしなければいけないので、仕方がありませんでした。幸い、赤く発疹が出た部分はCGできれいになっています。それとは別に、ウィングとは息がよく合いました。本当に演技の天才だと思います。とても不思議だったのは、廊下のシーンで「ゆっくり行け」と指示されたらゆっくり進むし、逆に「速く行け」と言われたら速く進んだことです。ウィングの名演技のおかげで撮影を速く進められて、現場の勢いも増しました。
──近年、韓国コンテンツが世界中で注目を浴びていますが、その先陣を切ったのは、韓国初のNetflixオリジナルシリーズである「キングダム」と言えるのでは。主演を務めた俳優として、この盛り上がりをどう感じていますか?
先陣を切ったのが「キングダム」だと言ってくださり、ただただ感謝するばかりです。この仕事をしている者として、とても誇りを感じ、これからも韓国コンテンツがもっと愛されることを願っています。
──昨年は初の旅バラエティが配信されるなど、新たな一面を見せました。2024年の抱負は?
今のところ挑戦したいことや計画していることは特になく、個人的には今よりもう少し広い心を持てればいいかなと思っています。