車好きの本能をくすぐる
──本作は企業ものであり、また破天荒で一匹狼的なレーサーのケン・マイルズと、カーデザイナーのキャロル・シェルビーの友情物語がもう1つの魅力でもあります。土橋さんはどちらのキャラクターに惹かれましたか?
ケン・マイルズですかね。やっぱり職人タイプじゃないですか。自分のこだわりがあって、それを貫くためなら、怒りを爆発させたりして、態度も傍若無人になる。まあ、僕自身、そこまでにはなりたいと思いませんが、ドライブテクニックは素晴らしくて憧れます。特に共感を覚えたのは、シェルビーがマイルズをチームに引き入れるために、車を見せるシーン。「俺は絶対にやらないぞ」と言いつつ、車を見たら、さっそく乗り込み、ハンドルを握って気が変わる。あそこのシーンは共感しました。嫌だ嫌だと言いながら、いい車に乗ったら……というのは、車好きの本能をくすぐりますよ。
──ケン・マイルズ役のクリスチャン・ベールはどうでしたか?
すごくよかった。ホント、彼は痩せたり太ったり忙しい俳優さんだけど、役作りがうまい。今回はブルドッグとも呼ばれるキャラクターになり切っていて、極端に怒りっぽいという性格をとてもコミカルに見せるシーンもある。また息子をすごく愛していて、父子愛みたいなところも素敵でした。奥さんもよかったですね。
──演じているのはカトリーナ・バルフという女優で、海外ドラマで人気シリーズになっている「アウトランダー」で主演を務めています。
メチャクチャ美人で、優しいけれど勝気なところもあって。マイルズとの夫婦喧嘩のシーンには大笑いしました。この2人の関係も非常によかった。彼女がいたからこそがんばれたみたいなところが伝わってくる。そんな家族の存在が、レーサーとして走る彼の動機を変えていくというのも感じられました。
──マット・デイモン演じるキャロル・シェルビーについてはいかがでしょうか。中間管理職的な立場で奮闘してましたが。
シェルビーに関しては、家族の話などあまりなくて、もう少し知りたいとも思いましたが、フォードの副社長とマイルズとの板挟みになって葛藤するところがたくさん描かれていて、これはこれで面白く感じました。腹の中は怒りで煮えくり返っているんだけど、それを必死に治めている感じ。マット・デイモンの苦虫を噛み潰したような表情とか、彼もいい芝居を見せてましたね。コミカルな部分も多いので、楽しみにされるといいと思いますよ。そして、一番の見どころはこのシェルビーとマイルズの友情の絆が次第に強くなっていくところ。最初はもめて、いきなり殴り合うんですけど、そこがまたいいんです。彼らは戦争に行ったという設定だし。60年代なら、普通に殴り合いの喧嘩もしただろうし。なんだかそこはうらやましくも見えました。
IMAXでもう一度
──もしも、土橋さんがこの2人でドラマを描くとしたら、どちらを主人公にしますか?
マイルズかな。それで、シェルビーがマイルズにだんだん影響されて、フォード社にもっと逆らっていくみたいな展開にしましょうか(笑)。
──「超高速!参勤交代」や「引っ越し大名!」など、歴史を題材にした小説や脚本を手がけていらっしゃいますが、本作も歴史的な出来事であり、実在した人たちの話が描かれています。こうした歴史ものを書かれるときに、土橋さんが注意したり、意識するのはどんなことでしょうか。
歴史的な事実にもとづいて書いているので、嘘はつかないということですね。とはいえ資料のないところもある。そこは好きに書きます。ただ度が過ぎると、読者をがっかりさせてしまう。今回は歴史的にいた人だから、実物に近いキャラクターを描いているんでしょうね。本当にマイルズやシェルビーみたいな人がいたと思うと、熱さも感じる。見る人によってはこんな男になれるんじゃないかという夢も膨らみますよね。
──先ほど車好きだとおっしゃいましたが、そんな土橋さんの目から見て、レースシーンはどう映りましたか?
最高でした。レースシーンのアングルがいいんです。下から舐め上げるように撮るカメラワークが素晴らしくよくて、自分がレーサーになった気持ちになれる。音もいいんです。やっぱりガソリンエンジンっていいなと思いました。最近はハイブリッドだから、ちょっと静かで、忍者みたいに走る車が多くなってるじゃないですか。でも、この映画でブォーンって鳴る排気音がいいなって思いました。しかも、それを感じられるレースシーンがたくさんあったので、それだけでももう大興奮しました。本当に臨場感がハンパなかったですね。
──男性の心をわしづかみしそうな映画ですね。
男性には鉄板の映画でしょうね。でも、最近は女性も闘う映画が好きじゃないですか。それこそ「半沢直樹」とか女性ファンも多いですよね。それにマット・デイモンとクリスチャン・ベールという2大俳優の共演作で、人間ドラマとしての見応えもあります。めちゃくちゃ熱くなれる映画ですから、車好きじゃなくても、誰でも問題なく楽しめると思います。なんだったら、車好きの男性と観に行って、あとで解説をしてもらえば、より映画が理解できるかもしれませんね。
──とても熱い感想をありがとうございます。
僕はすごい映像や音をもう一度楽しみたいので、IMAX版を観に行こうかななんて考えています(笑)。