バズる前の登竜門かも(野島)
──野島さんの過去のFOD作品についてももう少し聞かせてください。「パパ活」はセンセーショナルなテーマを扱っている印象がありましたが、本編を通して観たらとても繊細な人間ドラマだなと思いました。物語の入り口として“パパ活”を選んだ理由は?
野島 “パパ活”は、もしかしたら“援交”の言い換えとして生まれた言葉なのかもしれないけど、体の関係はないことを建前にしている。そういうあいまいさが面白いなと思ったんです。パパ活といえばお金が欲しい若い子と金があるおじさんというイメージが浮かぶけど、本当にそれだけかな?という気持ちがあって、寂しい者同士がくっつくような感覚で作りました。実態はそういうことじゃないのかもしれないし、わからないけどね。
清水 もともとは、僕だったら「高校教師」の続きが観たいと野島さんに言ったんですよ。だから「パパ活の話を書きましょう」というよりは生徒と先生の物語に“禁断さ”が欲しいと考えて、パパ活の要素を盛り込んでいただいたんです。飯豊まりえさんは、もちろんきれいな女優さんですが、みんなが共感してくれそうな普通の大学生っぽさがあるのがいいなと思い、お願いしました。
野島 飯豊はすごくよかったね。渡部篤郎さんも気持ちが若い人なので、「若い人たちが触れる強い磁場があるところでなら」と出演を受けてくれました。
──真野恵里菜さんと横浜流星さんが共演した「彼氏をローンで買いました」は、攻めた表現もありつつテンポのいい会話劇が楽しい作品です。
野島 真野と久しぶりに仕事したいなとふと思ったら、彼女も「やります」と応じてくれたんです。「真野がやってくれないかな」と感じたのと脚本の書きはじめがほぼ同時なので、これまでのFOD作品の中だともっともキャストありき感があったかな。横浜くんは芝居がうまいし、本人が持ってるかわいさや人のよさがいい味わいになった気がします。
──横浜さんはもちろん、「パパ活」の伊藤健太郎さんなど野島さんのFOD作品に参加した若手俳優が次々ブレイクしていることに関してはどう思われますか?
野島 すごい人気が出たよね。
清水 見る目があるってことですかね? ……いや、それぞれみんなががんばっているからですよね!(笑) たまたま僕たちの作品にチャレンジしてくれた子が、そのまま伸びているだけなので本人たちの努力だと思います。
野島 わからないよ、バズる前の登竜門かも。
清水 そうだったらいいですね(笑)。
──キャストを選ぶときはどんな点を大事にされているのでしょうか。
清水 やっぱりイメージが湧くかどうかですよね。100%思った通りのキャスティングになることなんてなかなかないし、ほかのスタッフの意見も聞きます。
野島 清水はチョイスの勘がすごくいいと思う。僕は何十年もほとんどテレビを観ていないから正直どんな俳優がいるのかがわからなくて、清水に「この子どうですか? こんな感じの俳優です」と提案してもらうんです。
野島さんは学生の頃からの憧れ(清水)
──野島さんのFOD作品は、若い女性たちが友人との間に秘密をあまり持たないのが印象的だなと思いました。脚本家として長くご活躍されていますが、“秘密”を描く際のアプローチの仕方は時代の変化とともに変わりましたか?
野島 人間の本質はそれほど変わってるわけではないと思うんですよ。ただSNS時代なのもあって、表ではいい顔をしているけど裏アカウントで毒を吐いている人がいたりする。そこは変わったところかもしれませんね。
清水 本当にそうですよね。SNSがなくなったら、おそらく自分の中に溜め込むわけですから。
──なるほど。これは清水さんに伺いたいのですが、野島さんを特別な脚本家たらしめている要素はどこにあると思いますか?
清水 ご本人の前で!?
野島 俺は席を外したほうがいい?(笑)
清水 (笑)。これは話したことがなかったんですが、野島さんは学生の頃からの憧れで、ドラマを作りたいと思ったきっかけを与えてくれた方なんです。そんな人と仕事することができて、誰よりも早く野島さんの脚本を読める。こんな楽しいことはないですよね。キャスティングをしなければ、その脚本を読めるのは僕だけだし(笑)。ただ、せっかく書いていただいたのでちゃんとしたドラマに仕上げなきゃいけないっていうプレッシャーは常にあります。
──お二人が次にタッグを組むとしたら、どんな作品になるのか楽しみです。もう構想されているのでしょうか?
清水 何がいいですかね? 次は何を書いてくださいますか?(笑)
野島 やる限りはバズらないとつまらないでしょ? 新しい価値観をどんどん描いて、人を肯定してあげられるポケットを増やしたい気持ちがある。例えば友達同士が好きな人を奪い合うのではなくて、仲良くシェアするのもいいと思うんだよね。
- 「百合だのかんだの」
- FOD 2019年5月23日(木)24時配信スタート
- ストーリー
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ストーカーに悩まされる大学生・篠原百合。自宅の郵便ポストに使用済みティッシュが入っているなどの嫌がらせに耐えかねた彼女は、引越し先を探しに訪れた不動産会社で、小学校の同級生・二宮海里に声をかけられる。久々の再会を喜ぶ2人だが、百合は海里の言葉やハグの長さに違和感を覚えて……。
- スタッフ / キャスト
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脚本:野島伸司
企画・プロデュース:清水一幸
演出:加藤裕将
出演:馬場ふみか、小島藤子、財木琢磨、都丸紗也華、中尾有伽、笠原秀幸、石黒賢ほか
©フジテレビ
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- 野島伸司(ノジマシンジ)
- 1963年3月4日生まれ、新潟県出身。1988年にフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、同年「君が嘘をついた」で連続ドラマの脚本家デビュー。主な作品に「101回目のプロポーズ」「高校教師」「人間・失格~たとえばぼくが死んだら」「聖者の行進」「プライド」「高嶺の花」などがある。
- 清水一幸(シミズカズユキ)
- 1973年3月3日生まれ、埼玉県出身。主なプロデュース作品は「のだめカンタービレ」「最高の離婚」「問題のあるレストラン」など。近年の作品には「パパ活」「花にけだもの」「彼氏をローンで買いました」「ポルノグラファー」などがある。