「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」|賛否両論「ハイエボ1」を振り返るライター対談!

「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」が11月10日に公開される。劇場アニメ3部作の第2弾となる本作は、2005年から2006年にかけて放送されたテレビシリーズを原点としながら新たなストーリーが展開するロボットアニメだ。2017年9月に封切られた1作目「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」では、世界の危機“サマー・オブ・ラブ”を新規カットで初めて映像化。そして新たな設定のもと主人公レントンの幼年期の終わりを、回想を用いたトリッキーな時系列構成で描き出した。

映画ナタリーでは「ANEMONE」公開直前に、ライターの宮昌太朗と前Qの愛称で知られる前田久に登場してもらい、ファンの間で物議を呼んだ前作「ハイエボ1」を振り返る対談を実施。監督の京田知己とも面識がある2人に、いい部分、悪い部分を含め、本作を分析してもらった。京田の作家性が色濃く反映されているという「ハイエボ1」の魅力とは? 後半では次作の資料を手がかりに、現段階では謎に包まれた「ANEMONE」への期待がプロの視点から語られている。

取材・文・撮影 / 奥富敏晴

映像作家・京田知己の代表作(前田)

左から前田久、宮昌太朗。

──「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」(以降「ハイエボ1」)についての感想をお聞かせください。

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」ポスタービジュアル

前田久 やはり新作映像として制作された冒頭30分の「サマー・オブ・ラブ」を描いたシークエンスは素晴らしいと思いました。音響設計も含めて非常に美しく、京田さんの映像作家としてのセンスが炸裂しています。京田さんはロボットアニメの枠組みで新しい何かを生み出そうと真摯に考えているクリエイターで、その意識はストーリーテリング面だけではなく、演出、ビジュアル面にも表れています。テレビシリーズのときからそれが端的に表れているのが、リフボードに乗って空中戦をやるというアイデア。あれってロボットがリフに乗ることで、両手がフリーハンドになって、ポージングも自由になるんですよね。そしてトラパーに乗ることで光の波が出るので画面上に変化も付けられる。発射したレーザーやミサイル、そしてロボットが巧みに絡み合う形で画面上に印象的な動きが描けるというのが「エウレカセブン」の特色。その最新型が美しく提示されていました。

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」より、決戦弾頭シルバーボックス。

宮昌太朗 今、前田さんから言及があった冒頭の30分で描かれているのは、スカブコーラルと人類の戦争というシリアスな出来事なんですが、テレビシリーズではまったく描写されなかった。観ているほうとしては、なんとなく「歴史上の一大決戦があったんだろうな」くらいに思っていたわけです。でも、それが実は抗体コーラリアンによる人類の大虐殺だった(笑)。人間側が一方的に攻撃にさらされ続けていて、ほとんど抵抗するすべもない中、なんとか針の穴1本通すような作戦に挑んでいる。しかもその針の穴を通して、決戦弾頭シルバーボックスが突き刺さると、いきなりディスコが始まるっていう。

前田 劇伴じゃなくてキャラクターに聴こえてるという描写に「ええーっ!」となりましたけど……。

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」

 いや、あれはあのアシッド音がスカブコーラルに同期するという作戦なわけで、聴こえてないと成立しないじゃないですか(笑)。あと、冒頭の戦闘シーンを観ていて感じるのは、とにかく画の情報量が多い。例えば「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」なんかは、ワンカットワンアクションが徹底されているんです。1つのカットで殴るだったら殴る、蹴るだったら蹴るというアクションを描く。で、カットを切ってまた次のアクションを描く。それはもちろん、作画に大きな負荷をかけずに面白い絵作りをするにはどうすればいいか、を考えた末に選ばれた方法なわけですけど、「ハイエボ1」は決してそうじゃない。絵としても複雑だし、内容的にもハードなことを要求してるんです。そこに演出家としての方向性、資質の違いを感じます。

前田 京田さんは特に「交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい」(以降「ポケ虹」)以後、作品に詰め込む意味が多くなった。いろんなものが重層的になりすぎて読み解いていくと「これはどう受け止めたらいいのか」と常に視聴者の頭を悩ませるんです。ストレートなボーイミーツガールかつおしゃれなロボットSFアクションが好きだった人には、それがストレスだったのかなと思いますね。どちらにせよ「ハイエボ1」の冒頭シークエンスは万人が納得する、映像作家・京田知己の代表作ですよ。

再構築の先にある作家性(宮)

──では物語の部分はいかがでしょうか。「ハイエボ1」ではテレビシリーズから設定を変えた新たな物語が、非常にトリッキーな構成で展開されています。

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」より、レントン・ビームス。

 レントンの出発点を描くために彼とエウレカの出会いを、ドラマのピークポイントに持ってくるというのが、再構成の一番の狙いでしょうね。時系列を前後させてテレビシリーズの第1話で描いていたエピソードを一番最後に持ってきた。その選択は面白かったです。これまでも何本か、京田監督は既存の映像を使って新しいフィルムを作るという仕事をされてるんですけど、実に京田監督らしい構成だなと思いました。

前田 僕もそこは好きなんです。事情に縛られた結果、そういった手法を取らざるを得ない状況になったとき、そういう制約の中から京田さんのある種の作家性みたいなものが立ち現れている。

 京田さんの監督デビュー作「ラーゼフォン 多元変奏曲」の劇場版も、テレビシリーズの映像を再構築して、まったくレベルの異なる物語をやるという意欲的な作品でした。「ポケ虹」もそう。要するに、語り直すことで語りのレベル、方向性を変える。「ハイエボ1」もテレビシリーズから主要なエピソードをつまんで、それをただつなげるだけではなく、異なる話を描くことに挑戦している。

──そこに作家性があるとは驚きです。

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」

 テレビシリーズで人気を集めた作品を劇場版にするとき……最近でこそ完全新作を作る場合は多いですが、かつてはテレビシリーズの総集編を作ることのほうが多かったわけです。それこそ「機動戦士ガンダム」だってそう。もちろん「アルプスの少女ハイジ」のように、テレビシリーズをつなぎ合わせた再編集版、ダイジェスト版も多いんです。でもその一方で、「ハイエボ1」のように単なる再編集ではない作品もあった。「エウレカ」は全50話なので、単純に1話20分として1000分ある。それを120分に切り詰めようとするなんて、普通ではありえない。単純にカットをつなぎ直しただけでも、物語の意味が変わってきてしまう。そこにどれだけ自覚的にアプローチしているか、ということだと思います。

前田 一例ですが、「響け!ユーフォニアム」のテレビシリーズ第2期には2本のメインプロットがあったんですが、その総集編である「劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~」はそのうちの1本にしぼって、新作カットを追加しながら再編集しています。テレビシリーズでは主人公の女の子の視点を中心にストーリーが語られるんですが、劇場版では同じ話を主人公の先輩の目線に重きを置いて見せているんですよね。

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」より、チャールズ・ビームス。

 そうそう、視点が違えば当然、内容は変わってくる。「ハイエボ1」は、さらにそこを突っ込んでやっていて、例えばレイとチャールズのエピソードも、テレビシリーズと「ハイエボ1」では受け止め方がまったく違う。そもそも前者は偶然会って親しくなった人、後者は育ての両親と設定からして違うわけで。

前田 あの2人をピックアップしたことには驚きました。テレビシリーズでレントンの育ての親だった祖父・アクセル役の青野武さんが亡くなっているからアクセルを出したくなかったとは聞きます。

 それでレイとチャールズを育ての親にしてしまうというのは、なかなか強引な展開だと思う(笑)。でも「ハイエボ1」は、テレビシリーズを劇場版にするときにどう自覚的にアプローチするかという「劇場版アニメ」の系譜に位置する映画だし、その中でも先鋭的な作品になっていると思います。まあ、そもそも京田監督がテレビシリーズの映像も使って映画を作ると聞いたら、観る前から「一筋縄ではいかないだろうな」と覚悟してたわけですけど(笑)。

「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」
2018年11月10日(土)全国ロードショー
「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」
ストーリー

石井・風花・アネモネは父が散った戦場、東京にいた。人類の敵、7番目のエウレカ=エウレカセブンを殲滅するための組織・アシッドの一員として人類の希望が託されたアネモネ。彼女は自らの精神をエウレカセブンの中へと送り込む。そこで出会ったのは、青年ドミニクとエウレカと名乗る少女だった。そして見え隠れするレントンという名の少年。アシッドに捕らわれていた謎の男・デューイは予言する。「お前たちが見ているエウレカセブンはエウレカセブンではない。偽りの神が創っては破棄した無数の不要な世界。いわばゴミの山だ」。アネモネとエウレカが出会ったとき、すべての真実が明らかとなり、新たな世界の扉が開く。

スタッフ

監督:京田知己

脚本:佐藤大

キャラクターデザイン:吉田健一、藤田しげる、倉島亜由美

メインメカニックデザイン:河森正治

コンセプチャルデザイン:宮武一貴

原作:BONES

音楽:佐藤直紀

主題歌:RUANN「There's No Ending」(TOY'S FACTORY)

アニメーション制作:ボンズ

キャスト

石井・風花・アネモネ:小清水亜美 / 玉野るな

エウレカ:名塚佳織

レントン:三瓶由布子

ドミニク:山崎樹範

ミーシャ・ストラヴィンスカヤ:沢海陽子

ソニア・ワカバヤシ:山口由里子

グレッグ・ベア・イーガン:銀河万丈

バンクス:三木眞一郎

石井賢:内田夕夜

デューイ・ノヴァク:藤原啓治

宮昌太朗(ミヤショウタロウ)
ライター・編集者。ゲーム、アニメ誌を中心に執筆活動を行う。著書に「田尻智 ポケモンを創った男」。
前田久(マエダヒサシ)
アニメライター。通称「前Q」。アニメ情報誌の月刊ニュータイプなどを中心に執筆。イベント登壇やラジオ出演も行う。