「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」|賛否両論「ハイエボ1」を振り返るライター対談!

ノスタルジーに振り切らなかった姿勢は好き(前田)

──「ハイエボ1」公開時には賛否両論ありました。否定的だったファンはどういうところが受け入れられなかったんでしょうか?

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」

 やっぱりお客さんが観たいのは、エウレカとレントンの話なんだろうと思うんですよ。アネモネの出番がほとんどなかったり、ゲッコーステイトの話もまるっとオミットされてたり。レントンの主人公としての出発点……エウレカとの出会いを強調するためには必要な選択だったわけですけど、そりゃあ、怒るファンはいるだろうとも思う。

前田 最後の山場にするためエウレカ自体の描写も少ないですしね。ファンはレントンが好きなんじゃなくて、レントンとエウレカのカップリングが好きなんですよ、おそらく。

 レントンって「まだ何者でもない」男の子なわけで、逆に言えば、お客さんはそこに自分なりの思い入れを見いだせるということでもある。

前田 人は誰しも心の中に10代の頃の自分を隠しているわけだから、ベタにノスタルジーに振り切って、10代の頃の記憶を優しく刺激してあげることが、ファンの期待に応えることだと思うんです。でも京田さんはそれがやりたくなかった。僕はそういう姿勢は本当に好きですよ。ノスタルジーなんかクソですからね(笑)。

「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1」より、レントン・サーストン。

 「ハイエボ1」が、一見さんお断りの映画になってることは確かだと思います。テレビシリーズのファンが観れば、レントンの回想の間に何が起こっていたかをぼんやりと思い描けるけど、初めて観た人だとよくわからないだろうな、と。ただそれでも最後まで通して観ることができるのは、ドラマの起伏、結節点がちゃんとあるからで、誰がどこで何をして何が起こったかという流れは見通しが効く。レントンが犬に追いかけられるシチュエーションで、映画をサンドイッチにしてるのは、そういうことですよね。

「ANEMONE」は本当に何が起こるかわからない(宮)

──続いては「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」(以降「ANEMONE」)に関する資料や映像に触れながら、次作への期待を語っていただこうと思います。ではまず「ハイエボ1」のラストに流れた予告をご覧ください。

前田 これって本当に出てくるんですかね(笑)。

 たぶん1カットも使ってないんじゃないかな……。絶対にサッカーやらないでしょ(笑)。……ただ、アネモネはアイドル設定なんですよね?

──それも「ANEMONE」のあらすじを読む限り微妙で……。

 「ハイエボ1」にアイドルらしきアネモネのラッピングバスが出てきてたのに、あれもなかったことになるんですかね?(笑)

──おそらく……。続いて「ハイエボ1」のソフトに特典として収録された「PV0(ゼロ)」をご覧ください。

 もう何一つわからなくなってしまいましたね……。全然違うものになりそうというか、全然違うものになるのは間違いない(笑)。

前田 でもアネモネがどう描かれるかは気になりますね。「エウレカ」好きの女の子に会うと、大体アネモネの強烈なファンなんだよなあ……。こじらせた女性は大体アネモネが好きな印象があるんですよ。次はどういった新しいアネモネ像になるのか。

 あらすじを読む限りアネモネの潜入ものみたいなノリがある、のかな。ちなみに再編集でさえないんですかね?

──一部テレビシリーズの映像は使われているみたいですが、およそ8割が新規カットのようです。

「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」

前田 「エウレカセブン」ってレントンがエウレカという女の子とどう向き合うかをモチベーションに動き回る話ですよね。「ハイエボ1」では物語の最後にエウレカと出会う構造になっているので、その分レントンの動機みたいなものが明確に描かれていなかった。いろいろとヒネリも加えられていると思いますが、その部分がどのように展開されていくのか気になります。あとはシリーズごとに、かなり立ち位置が変わるドミニクも。本当にただのアニメ好き的な視点でいうと、僕は河森さんが手がけたメカが大好きなんですよ。その意味で新しい“ニルヴァーシュX”がどういう活躍を見せるかも気になります。

──大きさはシリーズ史上最大とのことです。

「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」ティザービジュアル

 僕が面白いと思ったのは東京を舞台にするところ。「シン・ゴジラ」の例はあったけど、東京の街で大がかりなアクションが描かれるのは楽しみですね。

前田 「エウレカセブンAO」にも沖縄が出てきて、現代が舞台になってはいるんだけど、そのときは異界的な雰囲気もありましたからね。今回は東京を舞台に、直球で現代と地続きな感じが強そうですね。

──街中だと戦闘描写も変わってくるんでしょうか?

前田 京田さんは市街戦の描写もとてもうまいんですよ。演出を担当されたCGアニメの「楽園追放 -Expelled from Paradise-」の戦闘パートも、見応えのあるものでした。あれは廃墟でしたが、今度は生きている都市となるとどうなるか。「楽園追放 -Expelled from Paradise-」での達成を踏まえたうえで、京田さんの次なる映像美学が炸裂するのではないかと期待しています。

 でも市街戦かと思いきや宇宙に行っちゃうかもしれないし、本当に何が起こるかわからない(笑)。何一つ確信はありませんが、手描きのロボットを現実の風景の中で動かすのってなかなかハードルが高いんです。みんなが知ってる風景の中を巨大ロボットが動くのは、ビジュアルとしてわかりやすい一方で、「そんなことあるわけないじゃん」と思われてしまう可能性が高い。そこに挑戦しているのは、単純に楽しみですね。

──では続いて現在YouTubeにて公開中の特報もご覧いただきたいと思います。

「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」

前田 京田さんは巨大ロボットの動かし方をわかってますよね……って偉そうに言うのもなんだなあ(笑)。ともあれ、演出家さんによっては、ニルヴァーシュXみたいなスケール感の違う巨大さのロボでも、漫然と普通のロボットアニメの巨大ロボくらいの感覚で動かしてしまうんですよね。ニルヴァーシュXはちゃんと、超巨大なものらしい動作をしている。動作時の慣性の違いを表現できているというか。ここでロボットアニメ史に接続すると、東京にロボットが現れると言ったら「聖戦士ダンバイン」もどうしたって思い浮かべてしまうわけで(笑)。そこへの目配せもあるのかなと、アニメファンとしては楽しみです。

──では最後に読者に向けて「ANEMONE」への期待を語ってください。

「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」

前田 対談をしていて改めて思ったんですが、京田さんは観る人にある種の悪意を突き付けるタイプのクリエイターだと思いました。それって慣れてくると気持ちよくなる。僕は観ていて単純に楽しいものより、ある種の「事件」であるようなもの、クリエイターの持っている悪意が炸裂しているタイプの作品が好きなんです。「エヴァ」の旧劇場版とかね(笑)。だから遠くから眺めているより、「ANEMONE」を1つの「事件」と捉えて、その渦中にバンバン飛び込んでいったほうが楽しいですよ。本当に何が起こるかわからない。1作目と同じ、もしくはその発展形のような作品では、間違いなくないはずです。

 人は誰しも、自分が期待したものを観たいと思うものですけど、「エウレカセブン」は決して……最初のテレビシリーズから「ハイエボ1」にいたるまで、一貫してそういうシリーズではないんです。だから「観たいものが観られる」タイプの映画ではないですけど、その分、思ってもみないものを観て驚いたり、笑えたり、あるいは感動してしまったりする。劇場で観るべき映画だと思います。

左から宮昌太朗、前田久。
「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」
2018年11月10日(土)全国ロードショー
「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」
ストーリー

石井・風花・アネモネは父が散った戦場、東京にいた。人類の敵、7番目のエウレカ=エウレカセブンを殲滅するための組織・アシッドの一員として人類の希望が託されたアネモネ。彼女は自らの精神をエウレカセブンの中へと送り込む。そこで出会ったのは、青年ドミニクとエウレカと名乗る少女だった。そして見え隠れするレントンという名の少年。アシッドに捕らわれていた謎の男・デューイは予言する。「お前たちが見ているエウレカセブンはエウレカセブンではない。偽りの神が創っては破棄した無数の不要な世界。いわばゴミの山だ」。アネモネとエウレカが出会ったとき、すべての真実が明らかとなり、新たな世界の扉が開く。

スタッフ

監督:京田知己

脚本:佐藤大

キャラクターデザイン:吉田健一、藤田しげる、倉島亜由美

メインメカニックデザイン:河森正治

コンセプチャルデザイン:宮武一貴

原作:BONES

音楽:佐藤直紀

主題歌:RUANN「There's No Ending」(TOY'S FACTORY)

アニメーション制作:ボンズ

キャスト

石井・風花・アネモネ:小清水亜美 / 玉野るな

エウレカ:名塚佳織

レントン:三瓶由布子

ドミニク:山崎樹範

ミーシャ・ストラヴィンスカヤ:沢海陽子

ソニア・ワカバヤシ:山口由里子

グレッグ・ベア・イーガン:銀河万丈

バンクス:三木眞一郎

石井賢:内田夕夜

デューイ・ノヴァク:藤原啓治

宮昌太朗(ミヤショウタロウ)
ライター・編集者。ゲーム、アニメ誌を中心に執筆活動を行う。著書に「田尻智 ポケモンを創った男」。
前田久(マエダヒサシ)
アニメライター。通称「前Q」。アニメ情報誌の月刊ニュータイプなどを中心に執筆。イベント登壇やラジオ出演も行う。