フリと回収のお手本にしたい、「転スラ」作者・伏瀬が太鼓判押す「ダンジョンズ&ドラゴンズ」 (2/2)

声優さんたちが伸び伸びと演技をしている

──今回は吹替版に力を入れていて、エドガン役の武内駿輔さんをはじめ豪華声優陣が参加しています。「転スラ」はアニメの3期が2024年春から放送されることが決定していますが、伏瀬さんは声優さんとお話しすることはありますか?

話したことはあまりないですね。ただ「転スラ」の書籍化が決まったとき、担当編集者から「アニメは観るようにしてください」と言われ、テレビを買って録画もしていろいろな作品を観るようになりました。実はそれまでは声優さんをほとんど知らなかったんですけど、徐々に「この人うまいなあ」とかわかるようになっていきましたね。

──今作の声優さんの演技はいかがでしたか?

めちゃめちゃうまかったです。まあこのメンバーだったら「うまいに決まってるやろ」って感じですよね(笑)。声優さんたちが伸び伸びと演技をしていて、それによってキャラクターがより魅力的なものになっているのも好きでした。聞き取りやすいセリフは大事だなと再確認した次第です。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。左からジャスティス・スミス演じる魔法使いのサイモン、クリス・パイン演じる盗賊のエドガン、ソフィア・リリス演じる自然の化身のドリック、ミシェル・ロドリゲス演じる戦士のホルガ。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。左からジャスティス・スミス演じる魔法使いのサイモン、クリス・パイン演じる盗賊のエドガン、ソフィア・リリス演じる自然の化身のドリック、ミシェル・ロドリゲス演じる戦士のホルガ。

──エドガンたちがキーアイテムである「魔法破りの兜」を探す道中には墓場のシーンがあります。短いシークエンスですが、死体には神谷浩史さん、森川智之さん、津田健次郎さん、諏訪部順一さんというそうそうたるメンバーが声を当てています。本国アメリカから「このシーンには力を入れてほしい」と日本側に要望があり、このキャスティングになったそうなのですが、どうでしたか?

この豪華さはちょっとびっくりですよね。でもこのシーンは最初に話したようなフリと回収が畳み掛けるシーンで、だからこそ確実に実力のある方たちにやってもらう必要があったのかなと。英語から日本語にすることでテンポが変わり、シーンに合わせながら掛け合いで笑いを取るのは至難の業だと思うのですが、さすがとしか言いようがないです。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

友達と一緒にゲームをするのが好きな人にお薦め

──伏瀬さんは「転スラ」でキャラクターの立場を大事にしているとも伺いました。「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」にはさまざまな種族のキャラが登場しますが、どのように感じましたか?

すんなり物語に入っていけたのは、俳優さんの演技がうまいのもあるんでしょうけど、それこそキャラクターの立場がわかりやすいからだと思います。盗賊、戦士、魔法使い、自然の化身という分け方はキャラがかぶらないし、登場時点でどういうキャラクターかを理解できる作りになっています。見るからに怪しいやつが怪しいことをするというのも、僕は好きでしたね。あえてツッコむとしたら「この格好で冒険はないやろ」ってところだけど、こういう部分は見栄え優先でいいよねと思ってます(笑)。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。ヒュー・グラント演じる詐欺師のフォージ。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真。ヒュー・グラント演じる詐欺師のフォージ。

──各キャラクターの見せ場はしっかりありつつ、それが不自然なシーンにはなっていなかったですよね。

そうそう。その見せ場のためにストーリーがねじ曲げられたりはしていない。物語をこう進めたいからこのキャラクターが必要、という感じがなかったです。1本の映画という短い時間に収めないといけないとなると、どうしてもご都合主義な展開が必要なときもあると思うんですが、そういうシーンがあるとやっぱり観ている側は違和感を抱いてしまう。この映画のすごいところは、“脳みそ君”のシーンのように本筋とは関係がない場面だけでなく、ストーリーという視点でも必然的な掛け合いがあること。笑えて、しかもそのシーンが不自然ではなく物語にも関わっていくという両立は見事でした。あとこの映画は押し付けがましくないところがいいですよね。観客を楽しませることが第一優先というか。僕は前にメイド喫茶でぼったくられた話を入れようとしたことがあったんですが、編集者に「それ必要ありますか?」と言われて削ったんです。ときに、物語の世界観やキャラクターの気持ちと整合性が取れない形で、自分の思いが出すぎてしまいそうになることがある。それがないのも、この映画のよさだと思います。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」場面写真

──最初にも言っていただきましたが、伏瀬さんの好きなタイプの作品だったようでよかったです。

観て全然気に入らなかったら、オファーをした側も受けた側もつらいよね(笑)。

──そうですね(笑)。最後に、どんな人にこの映画をお薦めしたいですか?

友達と一緒にゲームをするのが好きな人は楽しめると思います。あとは魔法が好きな人。映画を観て使ってみたいと思ったら、TRPGのほうに進んでいくのもいいんじゃないでしょうか。

プロフィール

伏瀬(フセ)

11月23日生まれ。2013年より「転生したらスライムだった件」を小説投稿サイト・小説家になろうに投稿。2014年には書籍1巻がマイクロマガジン社より刊行され、2015年には月刊少年シリウスにて同作のコミカライズ連載がスタートした。コミカライズ版を原作としたTVアニメ「転生したらスライムだった件」は2018年に第1期、2021年に第2期が放送され、2022年11月には「劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編」が公開。テレビアニメ第3期は2024年春に放送される。