広瀬すず、上白石萌音、野村周平……全員集合はまさに「奇跡の1日」でした(榊原)
──「ちはやふる」のキャラクターたちを見ていると、恩師の存在の大きさを感じます。本作では上白石萌音さん演じる大江奏が、めぐるたちを導く存在として登場しました。かなちゃん(奏)に託した思いを教えてください。
榊原 映画版には、小泉監督や北島プロデューサーが築いた大切な世界観があります。続編である以上、その空気をドラマにもきちんと引き継ぐ必要がありました。劇中でその役割をもっとも強く担ってくれたのが、かなちゃんです。上白石さん自身が「ちはやふる」をとても大切にされていて、現場でも生徒役の新キャストたちに自然と温度感を伝えてくれました。かなちゃんは、千早という圧倒的な存在の隣にずっといた人物。真横にあんなギラギラした子がいて、きらめく青春を見つめながら、思うところもあったはずで。“青春敗者”のめぐるに共鳴できる一方、高校時代の青春を支えに今を生きているかなちゃんは、今回の物語に本当にぴったりの存在。上白石さんなしでは成立しませんでした。
北島 本当によく戻ってきてくれたな、と。映画のとき、上白石さんはオーディションで選ばれたんですよ。そこから朝ドラ(連続ドラマ小説「カムカムエヴリバディ」)を経て大女優になり、かなちゃんとして帰ってくるなんて想像もしていなかった。経験と実績を積んだ今の上白石さんだからこそ、物語の土台をすべて託せた。これまでの歩み自体がドラマのようで、完璧な配役になりました。
──広瀬さんや上白石さんのほかにも、野村周平さん、矢本悠馬さん、森永悠希さん、佐野勇斗さん、優希美青さん……瑞沢高校競技かるた部の卒業生メンバーが全員集合したのも驚きでした。スケジュール調整は相当大変だったのでは?
榊原 本当に大変で……! 私たちはあの日を「奇跡の1日」と呼んでいます(笑)。皆さん第一線で活躍されていますが、広瀬さんをはじめ「やるなら全員で」と強く希望してくださって。マネージャーさんたちと何度も調整して、なんとか実現しました。その日はお祭りでしたね。末次先生も現場に来てくださり、新キャストの高校生たちも先輩たちを前にそわそわしていて……忘れられない1日です。
北島 完全に榊原の粘り勝ちです。僕以上に原作や映画をちゃんと愛しているんだな、と思わされました。野村周平さんも実際には髪を切っていなくてロン毛のままで、僕は「別にそのままでいいんじゃない?」と思っていたんですけど、榊原が譲らなくてヘアメイク部にかつらを探してもらったり。
──野村周平さんが“太一の姿”で登場した瞬間は感激しました……!
榊原 現場でも、みんな「太一……!」となっていました(笑)。
北島 「感激した」と言ってもらえるなら、榊原のこだわりは正解だったということ。今回は特に、作品の原点を守るうえで一切妥協しなかったのが正しかったと思います。ほかの場面でも意見が対立したら、基本的には榊原の意見を通しました。
──それは最初におっしゃっていた「若いスタッフを育てたい」という思いから?
北島 育てたいというのは起点であって、走り出したらもう一人前ですから。若い脳外科医でも手術でミスは許されないのと一緒。相談には乗りますが、基本は彼女の判断に任せました。その中で僕が一番譲歩したのは、結末ですね。
榊原 めぐるたちが勝つか負けるか。最後まで悩みましたが、この子たちにふさわしい結末を描けたと思います。
北島 僕はめぐるたちが勝つ結末を望んでいたんですが……結果として、榊原の判断は正しかったと思います。
榊原 そう言ってもらえてよかったです。悔いなく、美しく物語を閉じられました。
メイキングだけで泣ける、完全なるドキュメンタリー(北島)
──約10年にわたって紡がれてきた「ちはやふる」というシリーズを、今改めてどのように捉えていますか?
榊原 私が思うこのシリーズの神髄は、ドラマ第1話でかなちゃんがめぐるに語る「あの3年間を思い出すと、私は何度でも立ち上がれる気がするの」という言葉に集約されています。全国大会で優勝した人だけが特別なのではなく、あの瞬間に一生懸命だったこと自体が、大人になってから自分を支える宝物になる。それこそが「ちはやふる」が描き続けてきたテーマで、今回のドラマでも伝えたかったことです。私自身、この作品を全力で作った経験は、きっと何十年後かに宝物として思い返すんだろうなと思います。
北島 映画から一貫して大切にしてきたのは、役と俳優本人がオーバーラップする瞬間です。若いキャストはできるだけその年代の等身大の子を起用する。大人の役も、その人自身の立場や背景と無理なく重なるように配置してきました。大人のキャラクターたちのシーンは、そこに“ちゃんと生きている人間”がいる。5話で内田有紀さん(演じるめぐるの母)が見せる表現も、1話から丁寧に積み上げてきた結果です。ぜひBlu-ray / DVDで改めて観てください。あと、かるたの試合シーンはスロー再生もお勧めです。払いも、取りも、すべて実際にやっていますから。
──特典映像のメイキングには“奇跡の1日”の様子も収録されているそうですね。
榊原 入っています。メイキングは全体で約90分。加えて、梅園高校・北央学園高校・瑞沢高校のかるた部16人全員分、インタビューだけで約60分あります。
北島 16人!?(笑)
榊原 はい(笑)。みんな初心者から必死に練習してきたので、絶対1人ひとりの言葉を残したかったんです。みんな主役ですから。
北島 まあ、誰がどこから羽ばたくかわからないしな。
榊原 そうですね。お宝映像になる可能性もあります!
北島 メイキングだけで泣けるし、ほとんどドキュメンタリーですよ。榊原もそのうちわかると思うけど、僕、仕事で嫌なことがあると「上の句」「下の句」「結び」のメイキングを観ながらお酒を飲むんです。「いい子たちだったな」って、救われるんです。
榊原 作品もメイキングも、心が洗われますよね。ピュアに一生懸命向き合う姿が、大人が忘れがちなものを思い出させてくれます。
北島 一生懸命やっていれば大丈夫だと教えてくれる作品なんです。つらいときは「ちはやふる」のメイキング、いいですよ。
──観返すたびに感情移入する先が変わって、一生観られるシリーズですよね。
北島 10年後にまた作ればいいじゃない。10年後と言わず、数年後にでも。
榊原 ぜひ。また、みんなに会いたいです!
プロフィール
榊原真由子(サカキバラマユコ)
日本テレビ所属のプロデューサー。主な担当作品にドラマ「ノンレムの窓」シリーズや新春スペシャルドラマ「侵入者たちの晩餐」、「受付のジョー」「ブラッシュアップライフ」「街並み照らすヤツら」などがある。2024年エランドール賞で「ブラッシュアップライフ」制作チームの一員として特別賞を受賞した。
北島直明(キタジマナオアキ)
日本テレビ所属の映画プロデューサー。映画「ちはやふる」シリーズや「キングダム」シリーズ、「藁の楯 わらのたて」「オオカミ少女と黒王子」「斉木楠雄のΨ難」「線は、僕を描く」「帰ってきた あぶない刑事」「新解釈・幕末伝」などを手がけてきた。第42回エランドール賞では「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」でプロデューサー奨励賞を受賞。公開待機作の「人はなぜラブレターを書くのか」は4月17日に全国公開される。



