ドラマ「ベルグレービア 新たなる秘密」が、Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」にて独占配信中。6月にはBS10 スターチャンネルでも放送を開始するほか、5月26日13時からは吹替版第1話が先行無料放送される。
1871年、英ロンドンの超高級住宅街ベルグレービアが本作の舞台。新興成金一族ながら現在は貴族の称号を得たトレンチャード家の嫡男フレデリックと、若く美しい女性クララの夫婦を中心に、英国の華やかな階級社会や貴族と使用人の関係が描かれる。クララをハリエット・スレーター、フレデリックをベンジャミン・ウェインライトが演じたほか、エドワード・ブルーメル、トビー・レグボ、英国王室の一員でもあるソフィー・ウィンクルマンも出演した。
映画ナタリーでは、本作の吹替版でクララを演じた森なな子と、フレデリックに声を当てた増元拓也の対談インタビューを実施。“うわさ”と“秘密”が推進力となるストーリーや、個性的なキャラクターの魅力、2人がこだわった“鼻息の演技”などについて語ってもらった。
取材・文 / 脇菜々香撮影 / 間庭裕基
海外ドラマ「ベルグレービア 新たなる秘密」予告編公開中
舞台に立ってるときみたいな感覚で収録していました(森)
──「ベルグレービア 新たなる秘密」では、ジュリアン・フェローズによる小説を原作としたドラマ「ベルグレービア 秘密だらけの邸宅街」の後日譚が描かれます。昨日、最終話の吹替収録を終えたばかりとのことですが、まずは本作を観た感想をお聞きしたいです。
森なな子 とにかく豪華でした! ディテールがすごい。
増元拓也 屋敷の中の装飾も当時の豪華絢爛な貴族の雰囲気だし、馬車が通る道自体も凝っているなと思いましたね。
森 ストーリーも、話数を重ねていくごとに、特に人間関係がどんどん面白くなっていきました。
増元 「ベルグレービア 秘密だらけの邸宅街」ではメイド同士でうわさ話をすることはあったんですけど、今回はその範囲がベルグレービアという高級住宅地全体。街でちょっとうわさになったら次の日にはみんな知ってる、ということがよく起こるんですけど、ドラマのキャラクターたちはプライドも高いので、世間体のためにいろいろ悪いほうに転がっていったりもする。それも面白いですよね。
──舞台となるのは1871年のイギリス・ロンドンで、増元さんは祖父の事業を引き継ぎ貴族の称号を得たフレデリック・トレンチャード、森さんはフレデリックの新妻クララの声を担当されています。英国歴史劇を演じるにあたって、ほかの作品にはない面白さや難しさはありましたか?
森 難しかったのは、しゃべり方。“だよね”“じゃん”なんて言わない時代なので、吹替のセリフもすごく丁寧で美しい日本語を使っているんです。普段の言葉と違う分、ちょっと気合いがいるというか、軽くなってしまったり品がなくなってしまわないよう、気を抜かないように心掛けていました。
増元 僕はフレデリックが部下に命令するとき、「普段ならここまでバシバシ言わないだろう」っていうぐらい強く言ったほうが格式高く見えるんじゃないかなと思って、雰囲気を出していましたね。
森 技術的なことで言うと、フランクにしゃべるような芝居よりも丹田(へその下の部分)を意識する。舞台に立ってるときみたいな感覚で収録していたと思います。
増元 このドラマの俳優みんな、英国紳士としてぴしっと姿勢がいいんです。僕は気を抜くとすぐ猫背になっちゃうので、収録のときは胸を張ってからマイクに声を当てる感じで、俳優陣の見かけを意識しました。
舞踏会に招待されたら「ずっとおびえて壁の隅っこにいます」(増元)
──森さんはもともと宝塚歌劇団でもご活躍されていましたが、世界観としては近い部分もあったのでしょうか。
森 なんと言ってもコスチュームですよね。私は宝塚時代は“男役”だったんですけど、宝塚の娘役さんがまとう衣装を思い出しました。キャラクターに合わせた生地や色もすごく凝ってるなと思いましたし、特にクララは心境によって選ぶドレスのデザインや色も変わっていきます。
増元 すごく印象的なドレスを着るシーンもありましたね。きれいだったな。
森 男性の衣装だと、パーティのときのロチェスター公爵の燕尾服とかが、自分も男役でああいう衣装を着てたのでちょっと懐かしかったですね。さすがイギリスの方は着こなしも完璧!と思っていました。
増元 帽子もかっこよかった。フレデリックがステッキを腕にかけたり、手に持ってカツカツ歩く感じがいいなって思いましたね。
──増元さんが吹替を担当したドラマ「ブリジャートン家」も、同じくロンドンが舞台で時代も近いと思うんですが、この作品で新たに発見した英国歴史劇の面白さはありますか?
増元 イギリスドラマの吹替を多く担当させてもらっているので縁はあるのかもしれないです。今のイギリスはいろいろな人種の方がいるんで、明確な“イギリス紳士像”みたいなのはなくなってきていますけど、やっぱり社交界のシーンはどのドラマでも観ててワクワクします。みんな“踊れるのが常識!”って感じで。
森 我々、日本人にはなじみがないですからね。
──どうされますか? 舞踏会に招待されたら。
増元 いやいや……。ずっとおびえて壁の隅っこにいますよ。
──(笑)。森さんは踊りに行ってほしいです!
森 そうですね! ただ、私は男役としてエスコートする側だったので。ドレスって意外と重くて、ボリュームのあるスカートをさばくのはすごい大変、と娘役さんがよく言ってました。
鼻通りのコンディションを整えるのも大変でした(増元)
──収録では一緒にスタジオに入っていたんですか?
森 増元さんとはずっと一緒に収録できましたよね。
増元 フレデリックとクララが夫婦になるところから物語が展開されるので、やっぱり最初に出会うシーンが別録りだと悲しいところだったんですが、一緒にできてよかったです。
森 最初はお互い探り探りでたどたどしい関係が、話が進むうちに心がすごく近くなって、とある出来事で離れてしまったりする。夫婦がぶつかるシーンでは、増元さんの迫力を感じました。
増元 フレデリックは、妻を立てているようで実は自分の意見を押し付けてる感じがありました。あの時代だから、相手(クララ)の家を経済的に助ける名目の結婚でもあったと思うので、ある意味対等じゃなかったんじゃないかな。だからこそ最初は喧嘩にもならなかったけど、ようやく喧嘩になれたっていうシーンだよね。
森 それまではお互い探って探って、気を使ってきたから、その分爆発するシーンが新鮮で楽しかったです。
増元 森なな子ちゃんは、育ちのいいお嬢さんだけど奔放で自由な女性っていうクララの役をめちゃくちゃ体現していました。どこかに行ってしまうんじゃないかと心配な気持ちにさせられたり、彼女を信じきれなくて過保護になっちゃう感じを、一緒に演じることで引き出してもらえたなって思います。あとは、フレデリックはめちゃくちゃ息や鼻息が多かったですね(笑)。
森 そうでしたね! けっこう1人で「ふん、ふん」って考え込むタイプだから(笑)。
増元 映像に音がなければ息を録ることはないんですけど、俳優が音を出している分にはこっちもやらないといけないというか、やれるならやりたい。
森 息って大事ですよね。
増元 大事です! 画面にフレデリックの顔だけが映っているシーンでは、「この鼻息はどういう感情なんだろう」ってわからなかったんですけど、収録時になな子ちゃんがフレデリックに対する不満の息みたいなものをすごくいいニュアンスを乗せて出してくれて、“クララが出した鼻息に対してのリアクションだったのか”って現場で気付いたものもありました。
──鼻息への並々ならぬこだわりを感じます……! 映像だけでなく、吹替音声にも注目して観たくなりました。
増元 深い鼻息を出すために、鼻通りのコンディションを整えるのも大変でした。
森 本番の前に整えていらっしゃったのは気付いていましたよ(笑)。
──そのほか収録時に印象的だったシーンはありますか?
森 最初のほうにクララが階段を踏み外して落っこちちゃうシーンがあるんです。彼女をベッドで診察していた医師の(スティーブン・)エラビー先生から、「ご主人は外してください」って言われたフレデリックは部屋から出て行くんですけど、すぐ戻ってくるんです(笑)。あのシーンがすごいかわいくて!
増元 “妻を男性と2人きりに!?”みたいなね。
森 あそこは印象的でしたね。
増元 僕はエラビーのチームというか、“ボヘミアン”と言われる芸術家の仲間たちのアングラな雰囲気が好きでした。新しい時代に向けて、若い人たちが水面下でいろんなことを考えている感じがあった。
森 クララはそこに惹かれて遊びに行くからね。隠れ家的なお部屋も凝ってました。
増元 (ベルグレービアに住むビジネスウーマンの)エタニャック侯爵夫人の屋敷の高級な感じから、彼らの庶民っぽい部屋に変わったときにものすごい対比ができてて、見どころだなと思いました。