「アトミック・ブロンド」|シャーリーズ・セロンが最強のスパイに! ベルリンの壁崩壊前に起きた極秘リスト争奪戦

シャーリーズ・セロン独占インタビュー掲載

アクション、時代背景、音楽 3つの視点から「アトミック・ブロンド」の魅力を解説

文 / 宇野維正

男たちを圧倒するMI6の女性スパイ・ロレーン

「アトミック・ブロンド」を語るうえでポイントとなるのは、「1989年のベルリン」という物語の時代背景だ。その年の11月、冷戦時代の象徴であり、それまで28年以上にわたって厳重に警備されてきたベルリンの壁は呆気なく崩壊した。2017年の今の視点から振り返るなら、それは90年代の始まりであるだけでなく、そこから「現在の我々を取り巻くこの政治状況、経済状況、社会状況が始まった」と言っても過言ではない。

「アトミック・ブロンド」より、シャーリーズ・セロン演じるロレーン・ブロートン(中央)。

しかし、そんな歴史的瞬間を目前に控えた1989年のベルリンにあって、MI6の女性スパイである主人公ロレーンは、ひたすら与えられたミッション(と裏ミッション)のために一心不乱にベルリンの街を駆け抜け、息をのむほど華麗かつハードなアクションで敵の男たちを圧倒し、さらには他国の女性スパイ(!)と奔放にロマンスまで繰り広げる。MI6といえばあのジェームズ・ボンドの同僚ということになるが、そのクールさと大胆さはもはや完全にボンドを凌駕。そして、そんな「アトミック・ブロンド」の作品世界をさらに加速させているのは、全編にちりばめられた80年代のポップソングだ。

80'sオールスターズが勢ぞろいした劇中音楽

「アトミック・ブロンド」より、シャーリーズ・セロン演じるロレーン・ブロートン。

ニュー・オーダー、デペッシュ・モード、ジョージ・マイケル、デヴィッド・ボウイと、まあ、誰もが納得の80'sオールスターズが勢ぞろいしているわけだが、それぞれの選曲にはひとひねりもふたひねりも加えられている。例えば、本編のテーマソング的にフィーチャーされているのはニュー・オーダー不朽の名曲「ブルー・マンデー」だが、ここで使用されているのは1983年のオリジナル・バージョンではなく、1988年にクインシー・ジョーンズがリミックスしたバージョン。舞台が1989年だけに、そちらのほうがリアリティがあるというわけ。

大ネタとして注目したいのはパブリック・エナミーの「ファイト・ザ・パワー」。スパイク・リー監督の1989年の作品「ドゥ・ザ・ライト・シング」のオープニングシーンを飾ったことで当時センセーションを巻き起こしていたこの曲だが、ブルックリンでの人種間暴動を予感させる「1989年、また夏がやってきた」という冒頭のリリックは、世界情勢が緊張する中、地球上でもっとも「熱い夏」=壁崩壊までのカウントダウンの日々を過ごしていたベルリンの民衆たちを鼓舞するかのように響く。

「アトミック・ブロンド」より、シャーリーズ・セロン演じるロレーン・ブロートン(左)、ソフィア・ブテラ演じるデルフィーヌ・ラサール(右)。

エンドロールで流れるのはクイーン&デヴィッド・ボウイの「アンダー・プレッシャー」。「80年代初期のヒット曲では?」と思う人もいると思うが、ヴァニラ・アイスがこの曲をサンプリングした「アイス・アイス・ベイビー」が大ヒットしたのが1989年。あの印象的なベースラインは、まさにサウンド・オブ・1989だった。

「1989年のベルリン」の虚実

というように、一見軽薄な選曲のようでいて、いろいろ考え抜かれたうえで数々の80年代ヒットチューンを効果的に使っているこの「アトミック・ブロンド」。作品自体も同様で、ついついハードボイルドなシャーリーズ・セロンの一挙手一投足に目を奪われて、大興奮したり、うっとりしたりと忙しいのだが、物語に込められている無常観やアイロニーは、極めて現代的なもの。エンタテインメントに軸足はしっかりと置きながらも、現代の政治、経済、社会の起点となった「1989年のベルリン」の虚実を暴いてみせる。

「アトミック・ブロンド」より、シャーリーズ・セロン演じるロレーン・ブロートン。

それにしてもシャーリーズ・セロン。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」ではマックスを脇役に押しのけて大活躍、「ワイルド・スピード ICE BREAK」では血も涙もない悪役に徹し、この「アトミック・ブロンド」では映画史における女スパイ像を鮮やかに更新してみせた。というか、近年の出演作品の選び方は、まるでティーンの男の子なら誰もが抱く夢を実現してみせたかのよう。同性(女性)にとって憧れの存在であるのはもちろんのこと、異性(男性)にとっても、惚れるを通り越して(うかつに手を出したらデヴィッド・リーチ監督仕込みの飛び蹴りを見舞われそうだし)、ただただ憧れの存在である。

「アトミック・ブロンド」
2017年10月20日(金)より全国公開
「アトミック・ブロンド」

ストーリー

1989年、東西冷戦末期のドイツ・ベルリンに1人の女スパイが降り立った。MI6に所属する彼女の名はロレーン・ブロートン。各国のスパイの名が記録された極秘リストを奪還するため、ロレーンはベルリンへと送り込まれたのだった。彼女は偽名を使用して入国するが、なぜかソ連の諜報機関KGBの諜報員が待ち受けており、手荒い襲撃を受ける。からくも敵を撃退したロレーンはベルリンに潜入しているMI6のスパイ、デヴィッド・パーシヴァルと合流。しかし彼はリストの捜索に協力するどころか、不審な行動によってロレーンを混乱に陥れていく……。

スタッフ / キャスト
監督:デヴィッド・リーチ
キャスト:シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカヴォイ、エディ・マーサン、ジョン・グッドマン、トビー・ジョーンズ、ジェームズ・フォークナー、ソフィア・ブテラ、サム・ハーグレイブ