「アジアの天使」|必要なのはビール、愛、ごはん! 韓国好き・AKB48 宮崎美穂が知った言葉の壁を越える方法

「アイドルは◯◯じゃなきゃ」という価値観から
天使が解放してくれるかも

──タイトルにもなっている“天使”の登場シーンを宮崎さんはどう捉えましたか? 白い羽を生やした天使役の芹澤興人さんがスクリーンに映った瞬間、多くの観客が驚くと思います。

人を噛むとか、アジア人のおじさんの見た目をしているだとか……正直、自分が想像していた天使像がくつがえされました。そもそも“アジア”と“天使”が結び付かない気もしますし。映画を観終えたあと、あれはどういうことなんだろう?と考えたんです。

芹澤興人演じる天使。

──その答えは出ましたか?

「天使はこういう姿であるべき」と当たり前に根付いてしまっている価値観ってあると思うんです。西洋的な見た目をしているようなイメージだったり……。そういう凝り固まった考えを、この映画がひっくり返してくれるんだと思いました。

──石井監督も、本作には既成概念の打破というテーマも含まれているとおっしゃっていました。

例えば、アイドルにもそういう「◯◯じゃなきゃいけない」というイメージがあって。「アイドルはかわいくなきゃいけない」「やせていなきゃいけない」「笑顔じゃなきゃいけない」。日本に限らず、特に韓国のアイドルは何から何まで完璧を求められる世界で戦っているので、自分を苦しめちゃうこともあると思います。だから「こうであるべき」というレッテルから解放されて、もっと楽になれたらいいですよね。「おじさんの天使もいるよね」って、そういう気持ちをみんなが持てたらもっとお互いに優しくなれる気がします。

チェ・ヒソ演じるソル。

──アイドルと言えば、本作のヒロインであるソルも、元人気アイドルで自分の歌いたい曲を歌えず思い悩む歌手というキャラクターでした。

ソルは芸能活動をしているものの、等身大の女の子でしたね。やりたいことは明確なんだけど、頼れる人は事務所のポンコツ社長しかいなくて、すがるものもないしどうしたらいいかわからない。それがイライラにつながって兄妹にも当たってしまう悪循環サイクルになって、見ていて苦しかったです。でも自分の「こうなりたい」に対してどうすればいいのか方法がわからない経験ってみんな絶対あると思うんです。だから感情移入しやすかった。夢をあきらめることは必ずしも駄目じゃないとソルが教えてくれた気がして、勇気をもらえました。

おいしいものは国も言葉も関係なくおいしい

──先ほど「ビール」と「愛」は言葉を超えるというお話が出ましたが、宮崎さん自身はほかにどんな方法があると思いますか?

宮崎美穂

そうですね……。この映画では、家族同士の仲が深まっていくにつれて、一緒に食卓を囲むシーンも増えていきましたよね。ごはんを一緒に食べるという描写で、関係性の変化を表現していたんだと思います。

──確かに食事のシーンは、セリフ以上に伝わってくるものがありました。

韓国人にとってごはんは重要度がものすごく高くて。日本だと挨拶ついでに「今日は天気がいいですね」のような会話をしますけど、韓国の場合は「ごはん食べた?」が挨拶になるんです。冷たいごはんは絶対に食べないし、“ごはんはみんなで食べるもの”という文化があるので、1人でごはんを食べに行くこともほぼない。お店のメニューも2人前からですし。韓国の番組に出演したときも、どんなに収録が押しても昼休憩は絶対にもらえました(笑)。一緒にテーブルを囲んでごはんを食べるということは、韓国人にとって家族になったようなものなので。日本ももちろん食事を大切にしていますけど、みんなで同じお皿を箸でつつきながら夢中で食べる、それ以上のことはないですよね。言葉を超えていると思いました。

──国を越えて仲を深めるには、まずごはんを一緒に食べることから?

「アジアの天使」

間違いないです。わざわざ一緒に集まって、会話する間もなくむしゃむしゃ食べる。きっと気持ちが通じ合っている時間だと思います。おいしいものは国も言葉も関係なくおいしいですし!

──気軽に誘い合って、みんなでごはんを食べる日常が早く戻ってくるといいですよね。最後に改めて映画の感想をお伺いできますか?

韓国ってオンマ(母)・オッパ(兄)・オンニ(姉)みたいに、血がつながっていなくても「お兄さん」「お姉さん」と呼ぶ文化があったり、“国自体が1つの家族”という認識があるんだと、私自身、韓国文化が好きになってから知りました。韓国に対してネガティブなイメージを持つ方がいるのも事実ですし、「一番近いけど一番遠い国」だと言われることもわかります。ただ、この映画を観て改めて感じたのは、“知る”ってすごく大切だということ。「この人はこう」という凝り固まった考え方にとらわれず、興味を持って知っていくと全然違う発見ができるはず。あらゆる既成概念をくつがえしてくれる優しい映画でした。

宮崎美穂

1 밥 먹었어요?(パンモゴッソヨ?)
韓国では挨拶代わりに、顔を合わせたら「ごはん食べた?」と聞きます。相手の健康を気遣う意味合いもありますし、親しくなりたいなと思っている相手が「まだ食べてません」と答えたら、一緒に食べましょうよと誘うのもあり!
2 현금으로 살게요(ヒョングムロ サルケヨ)
韓国は値切り文化! 「깎아주세요(安くしてください)」が定番の言い回しですが、観光客っぽくて断られることも。最近はキャッシュレス決済が増えているので、現地の人たちは「現金で支払うから安くして」と交渉しています(笑)。
宮崎美穂