「続・終物語」新房昭之監督インタビュー|「続・終物語」はファンに向けた“〈物語〉シリーズ読本”

原作の持ち味でもあるセリフはアニメでも大事にしている

──これは本作に限らず〈物語〉シリーズ全般についての質問になるのですが。「このシリーズはこういうアニメにしたい」とか、「こういうアニメになってはいけない」といった、シリーズの基本方針のようなものはあるのでしょうか?

「化物語」キービジュアル

「化物語」で〈物語〉シリーズを初めて映像化したとき、文字を映像化したいということはスタッフに言っていたと思います。すでに小説やラノベを原作にしたアニメもけっこうあった時代なので、作品の特徴として、原作が持つ文字の見た目の面白さなどを映像としても見せたかったんです。例えば、江戸川乱歩の「蟲」という小説では、あるページを開くと「虫」の字が無数に書いてあるんですよ。

──私も以前読みましたが、見ていると少し気持ちが悪くなるようなページですよね。

漢字が「虫」ではなく「蟲」のほうだったら、なおよかったんですけどね。ああいう文字の持つインパクトを映像にしたいというのが最初の動機でした。ただ、シリーズが続いていくにつれて、それも少し変化してきて。今は〈物語〉シリーズもかなり認知されているから、もう少しストレートな表現でもいいのかなと思っています。あと、シリーズ構成や脚本をシナリオライターではなくて、編集プロダクションの編集者に任せるというやり方も「化物語」の頃は新しかったはず。シナリオライターの中には、「こんなしゃべり方はしないから、こうしたい」とか、原作のセリフを変えてしまう人もいるんですよ。

──本職のシナリオライターは、自分でもセリフを考えることができるから、変えてしまうこともあるわけですね。

でも、西尾先生の書くセリフこそが原作の持ち味でもあるので、原作のセリフについてはアニメでも大事にしていこうとは思いました。これに関しては、今も変わらないことです。

──第1作「化物語」の放送開始が2009年7月なので、来年の7月にはアニメ〈物語〉シリーズも10周年を迎えます。ここまでの約9年で特に思い出に残っていることはありますか?

いろいろありますが、制作が遅れてテレビ放送に間に合わなくなりそうだったことですかね……。

──非常に歴史を感じるお話です(笑)。

「化物語」第1巻「ひたぎクラブ」のジャケット。

あとは、「化物語」のBlu-ray / DVD第1巻が発売されたときは想定以上に売れて、在庫がどこにもなくなったんですよ。欲しいと思ってくれているのに、すぐに買えなかった方がいたということなので複雑な気持ちでもありましたが、やはりうれしかったですね。そういえば僕も(新房監督作品の)「ひだまりスケッチ」の1巻が出たとき、自分用と実家に送る用と2本買おうと思ったら、お店の人に「人気作なのでお一人様1本限定なんです」と言われて。顔には出さなかったですがうれしかったです。

──「化物語」のBlu-ray / DVDといえば、各ヒロインのキャストが歌う主題歌のCDが付属していました。

CDが付いているのも良かったですよね。ディスクが2枚になったからパッケージに厚みが出て、見た目のボリューム的にも価格に沿うものになったと思います。

──「続・終物語」の話に戻りますが、テレビシリーズ換算で全6話という構成は早い段階から決まっていたのですか?

構成を考えているうちに、本編がどんどん長くなっていきました。最初は5話でいこうという話だったのですが、これでは無理だということで6話に。それでも原作のすべてを入れられるわけではないですが、6話までならメーカーサイドとしてもなんとか許容範囲という感じだったので。毎回そうなのですが、実際に作業を進めてみないと、どのくらいの長さで収まるかはなかなかわからないものなんですよ。

  • 「続・終物語」より。
  • 「続・終物語」より。

──各話の区切りは、どのようにして決めていったのですか? それぞれの話数ごとに、構成上の役割などもあるのでしょうか。

1話から順番に尺の中でやれるところまで入れていくという形なので、特に話数ごとの役割とかはないですね。小説と展開を変えているわけでもないですから、どこで切れるかは分量の問題でしかないんです。最初の「化物語」からそういう形なので、そこに関してはずっと変わりません。

──各話のコンテ担当者には、どのようなオーダーを出したのでしょうか。例として、第1話について伺えますか?

これまでのシリーズよりはカット数を減らしたい、とは伝えました。多少ゆったりとした感じにしたいなと思ったんです。実際、少なくなっていたし、いろいろと考えて工夫してくれていたと思います。

180度違う性格の老倉を井上麻里奈さんがどう演じるか興味があった

──本作では、卒業式を終えて、ついに高校生ではなくなった阿良々木暦の活躍が描かれていますが、これまでのシリーズからの変化などを感じる部分はありますか?

「続・終物語」より、阿良々木暦。

今回に限っての変化というのは特にないです。毎回わからないところが出てきて、「え?そんなことを考えているの?」と思うことの多いキャラクターです。

──アフレコの前には、阿良々木役の神谷浩史さんに何かを伝えたりしましたか?

いつものことですが、特に何も話してないですね。神谷さんはかなり丹念に小説を読み込んでいて、暦のことも僕よりも理解していると思うので。アフレコが始まってからも、特にオーダーなどは出してなかったと思いますよ。

──では、次はヒロインたちについて聞かせてください。本作で特に印象的だったキャラクターは?

「続・終物語」より、老倉育。

老倉育ですね。今までとは180度違う性格になっているので、それを井上麻里奈さんがどう演じるかは一番興味があったところです。井上さんは「コゼットの肖像」でも、「さよなら絶望先生」でも極端な性格のキャラクターを演じてもらっていたので、たぶん(新房作品で)キャピキャピしたキャラクターをやってもらうのは初めてだったと思うんですよ。非常に面白かったですね。

──おそらく「続・終物語」をすでに劇場で観た方や、興味を持っている方の多くは、過去のシリーズも観ている方だと思います。そういったファンの皆さんにとって、この「続・終物語」がどのような作品になってほしいですか?

原作と同じような受け取られ方をしてもらえればいいですよね。〈物語〉シリーズの「ファン読本」みたいな感じで、ファンの皆さんに楽しんでもらえたらと思っています。

──「続・終物語」で「ファイナルシーズン」はすべてアニメ化されたことになりますが、原作は、その後も「オフシーズン」「モンスターシーズン」と続刊が刊行中です。今後の〈物語〉シリーズのアニメ化については、どのような思いがありますか?

それはもう、アニプレックスさん次第ですね(笑)。

「続・終物語」
全国劇場にてイベント上映中
「続・終物語」
あらすじ

高校生でも大学生でもない、そんな時期に阿良々木暦が体験した、終わりの、続きの物語。
高校の卒業式の翌朝、顔を洗おうと洗面台の鏡に向かい合った暦は、そこに映った自分自身に見つめられている感覚に陥る。
思わず鏡に手を触れると、そのまま指先が沈み込んでいき……。気がついたときには、暦はあらゆることが反転した鏡の世界に迷い込んでしまっていた。

スタッフ

原作:西尾維新(「続・終物語」講談社BOX)

キャラクター原案:VOFAN

監督:新房昭之

キャラクターデザイン・総作画監督:渡辺明夫

アニメーション制作:シャフト

キャスト

阿良々木暦:神谷浩史

戦場ヶ原ひたぎ:斎藤千和

八九寺真宵:加藤英美里

神原駿河:沢城みゆき

千石撫子:花澤香菜

羽川翼:堀江由衣

阿良々木火憐:喜多村英梨

阿良々木月火:井口裕香

斧乃木余接:早見沙織

老倉育:井上麻里奈

新房昭之(シンボウアキユキ)
アニメーション監督、演出家。近年ではアニメ制作会社のシャフトを拠点としている。代表作に「〈物語〉シリーズ」、「ぱにぽにだっしゅ!」「さよなら絶望先生」「ひだまりスケッチ」「魔法少女まどか☆マギカ」など。

2018年11月16日更新