ごく普通の高校生だった阿良々木暦が、「怪異の王」とも呼ばれる美しき吸血鬼と出会ったことをきっかけに、怪異に関わってしまった少女たちと出会い、彼女らの問題を解決していく西尾維新の小説「〈物語〉シリーズ」。その人気シリーズを順次映像化してきたアニメ化プロジェクトは、2017年8月の「終物語」後編の放送をもってひと区切りと言われていたが、約1年のときを経て再始動。原作のファイナルシーズン最終巻となる「続・終物語」が、11月10日から劇場でイベント上映されている。
コミックナタリーでは本作の公開を記念し、全3回にわたる特集を展開中。第3回では、〈物語〉シリーズのアニメ全作品で総監督あるいは監督として制作の指揮を執り、「続・終物語」でも監督を務めている新房昭之にインタビューを行った。ファン待望の最新作の見どころにも触れつつ、来年には10周年を迎えるアニメ〈物語〉シリーズ全体の思い出も語ってもらう。
取材・文 / 丸本大輔
※記事初出時より、一部表現を修正しました。
各演出の個性や思いが、より色濃く出た映像になっているはず
──前作「終物語」が放送されて、〈物語〉シリーズのアニメ化プロジェクトがひと区切りとなった2017年当時は、どのような心境だったのですか?
これでひと区切りみたいなことは僕も言われていたので、「ああ、ひとまずはこれで終わりなんだな」と。もちろんアニメ化していない原作はまだあったし、アニメも続けられたら良かったんですけどね。とはいえ、アニメは自分が作りたいからといって作れるものではないですから。
──その後、「続・終物語」の制作が決まった際の心境も教えて下さい。〈物語〉シリーズのファンは当然大いに喜んだと思うのですが、新房監督も、やはり続きが作れる喜びは大きかったですか?
当然そういう気持ちがありつつも、このシリーズは毎回、映像にするときにけっこう苦労したりもするので。「今回もまた難しそうだな」と思いました。スタッフもこれまでもずっと一緒にやってきた人と、途中から入ってくれた人がいるので、〈物語〉シリーズに対する思いはそれぞれ違うと思いますが。今回は各演出ががんばってくれて、それぞれの個性や思いがより色濃く出た映像になっているはずです。
──では、アニメについて伺う前に、まずは「続・終物語」の原作小説の感想を教えてください。
暦以外のキャラクターたちがいつもと違う様子で出てくる話なので、初めてこのシリーズを読む人よりも、ずっと読んできて、元のキャラクターのことをよく知っている人のほうが、より楽しめそうな作品という印象です。
──確かに、10歳の幼女ではなく21歳のきれいなお姉さんになっている八九寺真宵や、明るく素直な性格の老倉育などが登場し、ヒロインたちの本来のキャラクター性とはまったく異なる魅力を感じられる物語になっていますね。
シリーズの読者に対するファンサービスの要素も強い本だなと感じました。もう出てこないだろうと思っていたキャラクターがまた出てきたりする面白さもありますしね。
──そんな「続・終物語」をアニメ化する際、特に大切にしたいと考えたことはなんでしょうか。
アニメの尺は決まっていますから、原作のすべてをそのまま映像にすることはできません。それを調整する際、ストーリーももちろん大切なのだけれど、今回は、個々の会話……本筋からはちょっと脱線した会話をより大切にしたいとは思いました。多少ストーリーに関する描写が言葉足らずになったとしても、会話の魅力のほうを大切にするということですね。ストーリーだけ辻褄を合わせてほかを短くしちゃうと、原作でせっかく面白かった部分が消えてしまうので、そうならないようにはしたいなと考えていました。
──「続・終物語」に限らず、原作はシリーズを通して非常に情報量の多い作品ですが、過去の作品でも尺に関しては常に苦心されてきたのでしょうか? それとも、本作が特に大変だったのでしょうか?
ずっとですね(笑)。いつもカッティング(編集作業)の段階で5分オーバーくらいにはなっています。
──30分アニメ1本で、5分オーバーしているということですか。
はい。それを収めていかなくてはいけないから、オープニングをなくしてほしいとか、エンディングもなしにしてほしいとか、プロデューサーにはいろいろと無理をお願いしてきました。それでも入らないときに本編をどうやって切ろうかなということで、毎回苦戦しています。
──カッティングの際には、できるだけ影響が出ないように、いろいろなシーンを少しずつ削っていく感じですか?
削る量がもっと短い場合ならそれでも良いのですが、5分とかオーバーしていると、細かく削る作業をしていたら、いつまでも終わりません。どこかをドカッと削らないと、カッティングの作業だけで1日、2日はかかってしまうんですよ。そういう時間的な余裕はないですから。思い切って、ドカッと削るしかないんです。
──苦渋の決断の連続ということですね。ちなみに、映画館で「続・終物語」をイベント上映するという公開方式は、最初から決まっていたのでしょうか。
僕のところに正式に話が来る前には映画にするか、テレビにするかという議論もあったみたいですが、制作が決まって僕が具体的なオファーをもらったときにはテレビでやるという話でした。だから、テレビで放送するものとして作っていて、映画としては作っていないので、映画館の大きなスクリーンで観られてしまうのはちょっと複雑でもありますね(笑)。ただ音楽的には5.1チャンネルになっているので、そこは劇場仕様になっています。
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原作の持ち味でもあるセリフはアニメでも大事にしている
- 「続・終物語」
- 全国劇場にてイベント上映中
- あらすじ
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高校生でも大学生でもない、そんな時期に阿良々木暦が体験した、終わりの、続きの物語。
高校の卒業式の翌朝、顔を洗おうと洗面台の鏡に向かい合った暦は、そこに映った自分自身に見つめられている感覚に陥る。
思わず鏡に手を触れると、そのまま指先が沈み込んでいき……。気がついたときには、暦はあらゆることが反転した鏡の世界に迷い込んでしまっていた。
- スタッフ
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原作:西尾維新(「続・終物語」講談社BOX)
キャラクター原案:VOFAN
監督:新房昭之
キャラクターデザイン・総作画監督:渡辺明夫
アニメーション制作:シャフト
- キャスト
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阿良々木暦:神谷浩史
戦場ヶ原ひたぎ:斎藤千和
八九寺真宵:加藤英美里
神原駿河:沢城みゆき
千石撫子:花澤香菜
羽川翼:堀江由衣
阿良々木火憐:喜多村英梨
阿良々木月火:井口裕香
斧乃木余接:早見沙織
老倉育:井上麻里奈
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
- 新房昭之(シンボウアキユキ)
- アニメーション監督、演出家。近年ではアニメ制作会社のシャフトを拠点としている。代表作に「〈物語〉シリーズ」、「ぱにぽにだっしゅ!」「さよなら絶望先生」「ひだまりスケッチ」「魔法少女まどか☆マギカ」など。
2018年11月16日更新